99話 戦いの時
スマホで投稿しているので、ちょっと体裁が狂っているかもです←汗
「おはよう、タマちゃん」
「……おはよう、タマちゃん」
試合会場には、すでにヒナギクとレンがいた。
レンはいくらか辛そうではあったが、立てることはできるようだった。
だが、試合には出られそうにないのは明らかだ。
それでもレンの顔にはやる気が満ち溢れていた。
レンとは対照的にヒナギクは心ここにあらずという具合になにか考え込んでいるようである。
それがタマモだけに試合をさせるということであれば、タマモとしては嬉しいかぎりだが、おそらくは違う。
(ヒナギクさんはレンさんをどう止めるべきかを考えているみたいですね)
レンには試合を続けるとだけ伝えていた。どういう風に試合をするのかは伝えていない。
そもそもレン自身がどういう試合になるのかを聞かなかったから答えなかっただけのことだ。
それが詭弁であることはわかっているが、レンが詳細を確認しなかったことは事実である。
レンにきちんと詳細を尋ねられていたら答えるつもりはあった。
しかし聞かれなかった。それが事実である。
ゆえになんと言われようともタマモには一騎討ちをするということに対しての迷いはない。
多少の罪悪感はあるし、もしかしたらレンに嫌われてしまうかもしれない。
だが、レンにはレンの、ヒナギクにはヒナギクなりのそれぞれにこだわりがある。……いままでの人生でタマモが抱いたことのないものがふたりにはあった。
(ボクにはこだわるものも誇りだってないのです。でもそれらがなかったとしてもしたいことはあるのです)
テンゼンは「あいつのためならなんだってする」と言い切った。その「あいつ」がレンであることは間違いないし、その行いがエゴであることをテンゼンが自覚していることもまた間違いない。
だが、それでもテンゼンには迷いはなかった。
テンゼンにもテンゼンとしての理由がある。譲ることのできない理由があるのだろう。その理由はいまのところわからない。
ただレン同様におひとよしであるテンゼンが、実弟たるレンを斬ったのだから、それ相応の事情があることはたしかだ。
その事情にはあまり首を突っ込まない方がいいというのはわかっていた。
しかしそれでもいつかはその事情を知りたいと思った。
(一方的に恨まれるなんて見ていられませんからね)
テンゼンは特訓の際にとんでもなく厳しかったが、普段のテンゼンはレンと同じく、とても穏やかな人だった。そういうところはレンよりもヒナギクの方が似てはいた。とはいえ、ヒナギクとて罵声を浴びせはしなかったが。
とにかくテンゼンは普段穏やかな人だった。
その穏やかさをかなぐり捨ててテンゼンはレンを斬った。
テンゼンに斬られてレンは魘されていた。何度も目の前にはいないテンゼンに向かって「ごめんなさい」と謝っていた。「産まれてしまってごめんなさい」と何度も何度も謝っていた。
昨日の夜、レンがテンゼンに何度も謝っている場面をたまたま見かけはしたが、その姿を見てやりきれない思いを抱いた。
しかし同時に思った。
テンゼン側はどうだったのだろうと。ゲームとはいえ、実弟を斬ったのだ。そのとき、テンゼンはどう思ったのだろうか?
(あの人なら、きっと笑っていたでしょうね。表面上は)
テンゼンとは昨日会ったばかりだ。
だが、その人となりはなんとなく理解していた。
基本的には善人だが、必要とあれば悪人にもなれるタイプ。だが、決して平然とはしていない。いや、できない類の人だった。
だが、それを澄まし顔で見せないようにしている。だが、内面ではどういう感情が渦巻いているのかはわからない。テンゼンという人は基本的にはそんな人だろうとタマモは感じていた。
だからこそ、レンを斬ったとき、テンゼンが笑っていたとタマモは思う。笑いながらも泣いていたのではないかと思う。
もっともそれを確認しようはない。
確認できるわけがない。
しかしそうだったのだろうとは思えた。
(テンゼンさんのことはおふたりには話せませんから、確かめようもありませんね)
テンゼンとの約束だった。
約束は破りたくない。だからこそふたりにはテンゼンとの関係を話す気はない。
「タマちゃん?」
「……なんでもないです。ちょっと集中したかったので」
笑いながらもタマモは深呼吸をした。
すでに昼休憩は終わっていた。
つまり──。
「これより午後の部を始めます。出場者は舞台に上がってください」
アナウンスが聞こえてきた。これから戦いの時間となる。たったひとりでの戦い。
勝てるかどうかはわからない。
しかしやれるだけのことはしよう。タマモは改めて戦う決意を抱きながら、舞台へと向かっていった。




