96話 テンゼンの気持ち
相変わらず落差がひどい←
「いよぉし! やりますよぉ!」
タマモがひとりやる気を出している。その姿は滑稽とも見えなくもない。
滑稽と見えなくもないが、同時にとても好ましいとテンゼンは思っていた。
(やれやれ)
話が纏まってくれたのはいいのだが、纏まるまでの紆余曲折を思うと少し胃が痛む。
だが、蚊帳の外の身でしかない自分のことはわりと、いや、かなりおいてけぼりだった。
もっともこのふたりにとってはそれさえもどうでもいいのだろうが。
(安請け合いはするものじゃないな)
胃を痛ませてくれたのも、蚊帳の外にされてしまったのもすべて安請け合いをしてしまったからである。
だが、安請け合いをしたのも元を正せば、テンゼン自身の責任によるものが大きい。
(どんな事情があるにせよ、あいつを斬ったことは変わらない)
「フィオーレ」のメンバーであるレンを斬ったこと。それはどんな事情があったところで変えようのない事実である。レンを斬ったことで問題が生じれば、その原因を作ったという責任を果たなさければならない。
端から見れば、テンゼンの行動は理解できないものだろう。
責任を取るというのであれば、そもそも問題を起こさなければいいだけである。
しかしテンゼンは問題を起こしたうえで、さらに責任を取ろうとしている。それは社会人であればあたりまえなことてはあるし、社会人だけではなく人付き合いにおいてもあたりまえなことではあるのだが、問題が起きると理解したうえで、確信犯であるのに責任を取ろうとするのは誰がどう見てもおかしい。
それに付き添い程度で責任が取れるというわけではない。しかしそれでも全くなにもしないよりかはましだった。
(本当になにをしているんだろう、僕は)
個人的には筋を通してはいる。しかし端から見れば理解不能となる。はっきりと言えば自身の言動が正しいかどうかはテンゼン自身にもわかってはいなかった。
(どんな事情があるにせよ、あいつを斬ったことには変わらない。ゲームとはいえ、家族の血に濡れた刃を手にしている時点で僕は間違っているのだろう)
テンゼンとしては、こんなことはできればしたくはない。
だが、やらねばならぬことでもあった。
やらねばならぬことという意味合いにおいて、テンゼンには迷いはなかった。
だからこそレンを斬った。
迷うことなく斬り捨てた。
そのことに後悔はない。
ただ後悔はなくとも、未練はあった。「どうして僕が」と思わなくもなかった。
しかし斬ると決めたのは、ほかならぬテンゼン自身だ。
ほかの誰かのせいでもない。
自分自身で決めたことだった。
だから誰かのせいにするつもりはなく、その言動によって起こりえるすべてをテンゼンは背負うと決意していた。
タマモの付き添いをしたのもその一環でしかない。
それ以上でもそれ以下でもない。いや、なりえなかった。
(個人的には、タマモさんはわりと好ましいけどね)
タマモのありようはテンゼンにはとても好ましかった。
ただ理想の嫁像とは少し異なる。
テンゼンの嫁像とは、「メイド服が似合う人」ないし「メイドさん」である。決してふざけているわけではなく、大真面目にテンゼンの理想が「メイド服か似合う人」ないし「メイドさん」なのである。
(タマモさんは和装の方が似合いそうだし、メイド服は似合わなさそうだなぁ)
おまえはなにを言っているんだ? と言われかねないことを考えながら、タマモを眺めつつ、テンゼンはタマモを丈の短い巫女服から、いわゆるヴィクトリアンスタイルのメイド服に着替えさせ、前後左右にゆっくりと回転させていた。その脳内で、だ。
(……意外とありかも)
澄まし顔でなんとも言えないことを考えているテンゼン。
テンゼンは澄まし顔をよく浮かべるが、実際に考えていることは、なんとも言えない内容であることが多い。
つまりは、テンゼンもまたアレな人なのだ。
もっともナデシコやソラほどではないのが救いと言えば救いなのだろう。……ドングリの背比べとも言えなくもないことではあるのだが。
(和装メイドというのもありなんだから、メイド服=洋装と考えるのはあまりにも視界が狭すぎだったな。その点で言えば、タマモさんはヴィクトリアン等の洋装もありだが、やはりここは和装で──)
クワッと目を見開きながら、なんともアレなことを全力全開で考えていくテンゼン。フードで顔を隠していることがいまだけは救いだろう。
「テンゼンさん!」
「うん?」
「部屋まで送ってもらっていいですか?」
「あ、うん。もちろんさ」
和装メイドになったタマモを想像しながら、テンゼンは笑った。
笑いながらタマモを送るべく、歩き出そうとした。
──ピロリン
不意に着信音が鳴った。
なんだろうと思い、メニューを開くと──。
『かわいい子だからって、よからぬ妄想はやめた方がいいと思うよ、アキくん』
なんとも言えないことが運営からのメッセージとして送られてきた。
誰が送ったのかは言うまでもない。なにせ、テンゼンを「アキくん」と呼ぶ人なんてひとりしかいないのだから。
「テンゼンさん?」
「……なんでもないよ。フレンドから少しね」
言いながらテンゼンは返信をした。『了解』という一言だけの返信をした。最後には「送信者」の呼び名を書いておいた。
(また呼べる日が来るなんて思っていなかったよ)
ひらひらと手を振りながらテンゼンは階段へと向かっていく。
自然と歪んでいた視界を拭うことなく、テンゼンはタマモの隣を歩いていった。
レンのお兄さんがまともだといつから思っていました?←ドヤァ
明日の更新もたぶん21時前後になります。




