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90話 若干アレなGMさん

「──えー、まずはまぁ、その、そうですね、はい。とりあえず、まぁ、うん。すいませんでした!」


 運営の女性が目の前で土下座をしていた。その土下座はこれでもかと、それはそれはとても見事なものだった。まさに「THE土下座」と言っても差し支えどころか、過言でもないものだった。まさしく土下座の中の土下座。「土下座OF土下座」とも言うべきものだった。


 ちなみに運営の女性がわりとボロボロなのは言うまでもない。普段は穏やかであってもやはり狐という動物は根っからのハンターであるということが改めて証明されたということをあえて言うくらいだろうか。


 その狐がなんなのかはやはり言うまでもない。日頃のうっ憤というべきか、スタート時からずっと抱いてきた怒りと恨みと悲しみとそして切なさがまんべんなく発動した結果だったのだ。言うなれば運が悪かったということくらいだろうか。


 その運の悪さが結果として運営の女性をボロボロにしてしまったのだった。もちろんその犯行もほかの運営たちは見ていたのだが、「まぁ、そうなるわな」と満場一致で運営の女性を擁護しなかったためにこれと言ったお咎めはなかった。


 やはりほかの運営から見ても「調理しないとまともに経験値を得られない」というのはさすがにどうかと思うほどの仕様だったのだろう。とはいえ、その仕様を変えることなく正式リリースしている時点で、ほかの運営もまた同じ穴の狢と言えることには変わりない。


 とにかく、こうして元凶と合いまみえた結果、そのうっ憤をこれでもかと晴らすことができたタマモだった。


「……タマモさんはわりと徹底的にやるんだね?」


 タマモのうっぷん晴らしを眺めていたテンゼンは、若干引き気味に言った。逆に言えばテンゼンが引くほどのことをタマモは平然とやらかしたということなのだが、それほどまでにタマモのおたま&フライパンの仕様に対する不満は大きかったということでもあった。


「ふぅ、これで少しは溜飲が下がりました」


 その当のタマモはとてもいい笑顔を浮かべていた。まさにサムズアップであるが、まだ若干こめかみに血管が浮き出ているところを見るかぎり、その言葉の通り、溜飲は下がってもまだわずかだったということなのだろう。そんなタマモの姿に運営の女性は体をガクブルとさせている。


 だが、体をガクブルとさせていても、おそらくは明日の朝にはケロッと忘れている可能性さえあった。それどころか「ケモ耳幼女に暴行される。はふぅ( * ´▽ ` * )」とどこか幸せそうなため息を吐いている時点で心の底からの反省などしていないというのは明らかであった。


(こいつ、一度徹底的に潰さないとダメですかねぇ?)


 若干アレな運営の女性のあり方にタマモはやや物騒な思考へとシフトチェンジしていく。そんなタマモに言葉を失うテンゼン。そして相変わらず「( * ´ Д ` )」と若干ヤバめな呼吸を洩らす運営の女性。


 そんな三者三様の姿に、「闘技場」内の一階という誰の目にも止まりそうなはずなのにも関わらず、誰も寄ってこなかった。それもそのはず、タマモの凶行を見たプレイヤーたちはみな一様にして「回れ右」をしたのである。


「あそこにいるのは魔王だ。魔王に近づいてはいけない」


「普通は魔王からは逃げられないけれど、エンカウントしていないから問題はない」


「かわいい顔して恐ろしい。幼女怖い」


「はぁはぁ、やっべ、同じことをされたい( * ´ Д ` )」


 などなどそれぞれの言い分はあれど、「触らぬ神に祟りなし」ということで早々に逃げ出すプレイヤーが多かったのだ。……若干名、フレンドないし同じクランのメンバーに引きずられて無理やり退場される者もいるにはいたが、些事であった。


 とにかく怒れるタマモの凶行も無事に終わり、ようやく本来の目的をこなすことができそうだった。


「とりあえず、明日の試合の件についてです」


「あ、はい。なんでしょうか? ちなみに対戦相手についてはまだ決まっていませんので教えられません。仮に決まっていても教えることはできませんがね。まぁ、タマモさんに「この卑しい雌豚め。さっさと教えるものを教えやがれ」と言われて頬を叩かれたとしてもさすがにそこまで教えるわけには──」


「……気持ち悪いことを言うんじゃねーのですよ、この卑しい雌豚が」


 パァンと運営の女性の頬を躊躇なく叩くタマモ。頬を叩かれて雌豚、もとい、運営の女性は「ありがとうございます!」となぜかお礼を言っていた。


「……なんでお礼を言うのです?」


「我々の業界ではご褒美で──」


「気持ち悪いのです」


「あふぅん!」


 再び「パァン」と運営の女性へと平手打ちをするタマモ。そんなタマモの一撃に頬を真っ赤にする運営の女性。頬を叩かれたからではなく、興奮からでのものであることは間違いない。運営の女性を見やるタマモの目はとても冷めきったものになっており、まさに絶対零度と言ってもいいレベルだった。


 だがその視線がかえって運営の女性を駆り立ててしまっており、まさに堂々巡りである。そんなふたりにテンゼンはなんとも言えない顔をしている。いや、運営の女性を見やる目はどこか暗い。まるで悲しみを通り越して絶望に叩き落とされたかのようだった。


「……とりあえず、運営さん。タマモさんの事情を聞いてやってはくれないかい? そしてその雌顏はやめてくれ。胸が抉られそうだ」


 テンゼンはそう言いつつお腹を撫でていた。胸を抉られるではなく、胃痛に悩まされているようにも見えるが、運営の女性は特に気にした様子もなかった。


「ふぅふぅふぅ。そうですね。あ、ちなみにですが、私はGMの「ソラ」と申します。以後お見知り──」


「おまえの名前は聞いていないのですよ、雌豚が。さっさとボクの要件を済ませるのです。そもそもおまえとお見知りおきになんてなりたくもないのです」


「はい、ありがとうございます!」


 三度タマモに頬を叩かれながら運営の女性ことソラは、これでもかと幸せそうな顔を浮かべていた。反面テンゼンはグロッキー状態になっていた。とても対照的な三人だったが、どうにか話は進みそうだなとタマモが思ったのは言うまでもない。

 またひとり若干アレなのに好かれてしまったタマちゃんでした。

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