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16話 パッシブスキルの方が楽ですね

「ん~。まだ発酵していないなぁ」


 ログインをするとタマモはいつものように畑へと向かった。


 畑の近くにある穴の中の葉は、まだ腐葉土とはなっていない。そもそもまだ発酵さえしていなかった。


「ん~?」


 棒で掻き回して見るが、高さは依然として変わらない。


 腐葉土になれば、低くなりそうなものだがその気配さえなかった。


「う~ん。やはりミミズがいないからですかねぇ?」


 どういうわけか、この辺りにはミミズがいなかった。


 地面をいくら掘っても影も形もないのである。


 米ぬかも使えると書かれていたが、まだこの世界では米は発見されていないようなので、どうしようもない。


「自然に腐葉土になるまでどのくらい掛かるんでしょう?」


 こんなことであれば、眠らずに図書館で借りた本を熟読すればよかったと思うが、後の祭りだった。 


「まぁ、焦らずにやりましょうか」


 タマモは穴から離れて畑に入った。


 まだ土を耕しただけであり、畝もまだ形にさえなっていないが、初日にリーンから貰った野菜──キャベベの苗をそろそろ植えておきたかった。


「我慢できないですからねぇ」


 畝は作った方がいいとはわかっているが、苗を植えたいという欲求には勝てなかった。


 リーンの話やネットで調べた情報だと等間隔に植えるのがいいようなので、とりあえずタマモの足分の間隔を開けて、苗を植えていく。


 貰った苗は低級のものを10個ほどだ。試しなので半分の5個を植えた。


「えっと、たしかリアル時間だと二日くらいで収穫でしたっけ?」


 現実では月単位掛かるが、「EKO」においては二日ほどで収穫が可能になる。特殊なスキルがあれば、翌日には収穫可能となるそうだが、いまのところセットできるスキルにはないようだった。


「レベルを上げないとダメなんでしょうね」


 しかしレベルを上げるためには材料が必要となる。まさに鶏が先か卵が先かのなんとも悩ましい問題である。


 それでもいつかはレベルも上がる。前向きにタマモは考えながら、植えたばかりのキャベベの苗を見守っていた。


「クー。収穫できたらあげますから、それまでは食べちゃダメですよ?」


 すでにいつのまにかそばにいたクーに言い聞かせる。その目はキャベベの苗をロックオンしているが、残念そうに頷いていた。


 残念そうな理由がキャベベをいますぐ食べられないからなのか、それとも収穫できるキャベベの品質が低いからなのかはわからなかったが、クーも理解してくれたことはたしかだった。


「とりあえずこれで植え付けは終わりです。次はログハウスの続きですね。クー、お手伝いしてくれますか? 代金はキャベベをひとつ追加の計ふたつあげますので」


「……きゅー」


 クーは一瞬悩んだようだが、「仕方がねえな」というように頷いてくれた。見た目とは裏腹にクールな性格のようだった。


「まぁ、いいのです。じゃあ、ボクが指示した場所に糸を巻き付けてください。できるだけ強めに縛ってくれると助かります」


「きゅー」


 クーは頷いてくれた。いままではかわいらしいとしか思わなかったが、頷き方を見てからは、なんというか、ビジネスライクな仕事人のように思えてしまうのが不思議である。


 実際、それまでウルウルとしていた目が急に鋭くなったように見える。おまえはどこぞのスナイパーかと言いたくなる。


「……まぁ、ビジネスライクな方が信用できますね」 


 情け深い相手よりも仕事人の方が信用できる。少なくとも仕事を頼んでいる間は裏切ることはないからである。


 クーも頷いた以上はきっちりと仕事をしてくれるだろう。


「とりあえず、丸太を木材にするところからですね。えっと、スキルは……あった、あった」


 スキルの一覧から「対植物攻撃」を「鷹の目」に変更した。


「鷹の目」は本来ハンターのスキルで、セット中は「必中」の武術が発動できる。


「必中」と言う名前だが、効果は一定時間中DEXに大きな補正が入るだけで、攻撃が絶対に命中するわけではなかった。


 だが、その補正値はかなり大きい。補正が入ると言っても普通は一割だろうが、「必中」は素のDEXを二倍にする効果のようだ。


 ハンターのようにDEXが高めの職業でこのスキルを使えば、たしかに文字通り必中となってもおかしくはない。


 DEXが最低値のタマモが使っても、ハンターほどの効果はないにしても、ひとつだけとはいえ、素のステータスを二倍にするのは破格だった。


 そうして二倍に増えたDEXのおかげで生産はらくらく行えるようになっていた。もともと「鷹の目」は戦闘用のスキルだが、タマモは生産活動によく使用させてもらっていた。


「じゃあ、「必中」発動ですよ」


「大樹斬り」のときのようにタマモは「必中」発動を口にした。


「大樹斬り」と違い、「必中」はアクティブの武術となるため、使用するたびに発動させねばならない。


「大樹斬り」のときはアクティブであるように言っていたが、こうしてアクティブのものを使うとパッシブの便利さがよくわかる。それでも「大樹斬り」を使うときはアクティブのように振る舞うだろうが。


「とにかく木材にしますよ。クーは少し待っていてくださいね」


「きゅー」


 クーは相変わらず鋭い目で頷いた。今日はずっとこのままだろうなぁと考えながらタマモは丸太の加工を始めたのだった。

 続きは明日の正午となります。

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