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83話 犯人

「──あ、タマちゃん」


「フィオーレ」専用の部屋に入ると、そこにはベッドの上で眠るレンとその隣でレンの手を握っているヒナギクがいた。


 レンは着ていた服が破壊されたようで、上半身はインナーだけになっていた。下は「通りすがりの紡績職人」が作ってくれたズボンを穿いたままではあるが、元の姿を知っているだけあって、いまの外見はとても痛々しかった。


「……レンさんの容態は?」


「……いま眠ったところだよ。いままで少し荒れていたからね」


「荒れていた?」


「うん」


 ヒナギクはただ頷いた。頷くだけでそれ以上はなにも言わなかった。レンの手を握るヒナギクの手の爪が真っ白に変色していた。


「……隣いいですか?」


「うん」


 ヒナギクは笑った。だが、その笑顔は数時間前に見たものとはまるで違っていた。


 とても傷つき、そして憔悴しきっているように見える。


 タマモの胸はずきりとひどく痛んだ。


 タマモはヒナギクが座っていた椅子の隣に備え付けの椅子を持ってきて腰掛けた。


 目の前には規則正しく胸を上下させて眠るレンがいる。


 よく見るとレンの目じりには涙の痕が見える。痛みで泣いていた、というわけではないだろう。


「……泣いていた、みたいですね」


「……久しぶりに見たよ。このバカのあんなところは」


 力なくヒナギクは笑っていた。なにを言えばいいのか、タマモにはわからなかった。


「……レンにお母さんがいないことは言ったよね?」


「……産まれてすぐに蒸発されたとだけ」


「うん、こいつが産まれてすぐに蒸発したんだ。と言っても私も詳しくは知らないんだけどね。同い年、というか、同じ日に産まれたし」


「え? そうなんですか?」


「うん。同じ病院の、同じ日に、隣同士のベッドで寝かされていたって話だったよ。詳しくは知らないけどね」


「……おふたりはその頃から一緒なんですね」


「うん」


 ヒナギクは頷いた。その横顔からはヒナギクの感情を読み取ることはできなかった。


「私の従兄がレンの一番上のお兄さんの親友でね。その繋がりもあったと言えば、あったのかな? まぁ、一番の繋がりは私のお母さんがレンの家が経営している道場に通っていたというのもあるんだけど」

「ヒナギクさんのお母さんって格闘家さんなんですか?」


「違う、違う。うちのお母さんはもともとレンのお父さんの幼なじみなんだよ」


「親御さんの世代から、ですか?」


 親までもが幼なじみというのはなかなかに珍しい関係だった。


 とはいえ、幼なじみだからと言って、幼なじみの家の道場に通わなければならないということではないとは思うのだが。


「もしかしてヒナギクさんのお母さんは」


「さぁ? そればかりはお母さんじゃないとわからないよ。ただ、そうだね。少なくともなにかしらの感情は向けていたとは思うけどね」


 ヒナギクは笑っていた。親の世代になにがあったかはわからないが、少なくともなにかしらのドラマがあったということは間違いなさそうだった。


「まぁ、そんなわけで私とレンは物心がついたときにはすでに一緒にいたんだ。その頃からレンはすごく男らしい子だったねぇ」


 当時のことを思い出しているのか、ヒナギクはどこか呆れているようにも見える。男らしい男というのは、いるようでいないのだから、子供の頃から男らしいのは別に悪いことじゃないんかなと思ったタマモにヒナギクは苦笑いしていた。


「ふふふ、実はレンってさ、現実だとすごくかわいいんだよ?」


「え?」


「それこそまるでお人形さんみたいにかわいいんだよね。まぁ、本人はかわいいって言われるとなんとも言えない顔をするんだけどね」


 あははは、と楽し気に笑うヒナギク。さっきからよく笑っているが、その姿はどこか痛々しかった。


「そんな外見で男らしいんだから、当時からすっごくギャップがあってさぁ。男の子にからわれるけれど、当時から喧嘩がめちゃくちゃ強かったからさ、よくぶちのめしていたよ」


「……レンさんは昔からレンさんだったんですねぇ」


「うん。当時からこいつはなにも変わっていないんだ。すぎるくらいに男らしいのに、誰よりも優しかった。誰よりも私を大切にしてくれて、守ってくれたんだ」


 ヒナギクの目じりに涙が浮かぶ。きれいではあるが、あまり見たくない光景だった。


「そんなこいつがね、なによりも大切にしているのが家族なんだ。お母さんがいないということがきっかけだったとは思う。でも一番の原因はレンのおばあちゃんなんだ」


「レンさんのおばあさん?」


「うん。レンのおばあちゃんはもういないんだ。子供の頃に亡くなってね。レンはおばあちゃんにすごく懐いていたんだよ。お母さんがいない分、おばあちゃんにべったりだった。そのおばあちゃんがいなくなってレンはすごく泣いていたよ。声を上げて泣いていた。それが私の見たレンが泣いた最後だった。でもまさか、このゲームで見ることになるなんて思っていなかったよ」


「……いったいなにがあったんですか?」


「レンのお兄さんに会いに行ったんだ」


「レンさんのお兄さんもこのゲームを?」


「うん。プレイしていたみたい。だから会いに行ったんだ。レンのお兄さんは学校の関係で家を出ていたんだ。だから久しぶりに会えるとわかってレンはすごく嬉しそうだった。でもそのレンをお兄さんは斬ったんだ」


「え?」


「……レンをPKしたのはレンのお兄さんなんだよ」


 ヒナギクは顔を俯かせながらもはっきりと言いきった。

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