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15話 まりもの日常

 今回はタマモの現実での一面のお話になります。

「ふぅ、今日もたっぷりと楽しみましたよ」


 限界ギリギリまでゲームを楽しんでから、まりもはいつものようにログアウトした。


 生産職ではないはずなのに生産してばかりだが、これはこれで楽しいとまりもは感じていた。


 リアルで連続四時間までが接続できる限界だが、接続限界がなければ、一日中プレイしていても問題ないくらいにまりもははまってしまっていた。


 今日も早速最初の四時間が終わった。次に接続できるのは八時間後である。もう少しプレイしたいところだが、ログアウトするしかなかった。


 地ならしをしたログハウス予定地から農業ギルドの中にある職員用の寮の一室──ギルドマスターの厚意で貸してもらっている一室のベッドに寝転び、ログアウトを選ぶと、一瞬で見慣れた自室へと切り替わった。


 窓から差し込む朝日をぼんやりと眺めつつ、横になっていたベッドから上半身を起こし、背伸びをした。


「あー、体がごきごきしますねぇ」


 大きく息を吐きながら、体の不調がないかを順に確かめていく。


 が、まりもには医療知識などないので素人判断しかできないのだが。


 それでも普段とは違って、体が動かしやすいかどうかを確かめるくらいはできる。


 その結果、特に問題はなさそうだった。


 どうしても気になることがあるのであれば、病院で検査してもらえばいいだけである。単に運動不足と言われかねないだろうが。


「……ここ最近食っちゃ寝ばかりでしたからねぇ、ボクは」


 ここ最近、高校を卒業してからというもの、ほとんど運動というものをした憶えがなかった。


 高校時代は体育の授業で体を動かすことくらいはしていた。


 真面目に授業を受けてはいたが、全力を出すということはしていなかったので、まりもの体育の成績は結局3以上にはならなかった。ほかの教科であればだいたい5くらいではあったのだが。


「……少し運動をしてみようかな?」


 いましがたゲームの中で開墾というよりも、ログハウスのための伐採と地ならしをしてきたばかりではあるが、現実の体は一切疲れていない。


 気分はランナーズハイのように高揚としているのだ。おかげでこのまま自室で引きこもるのはなんとなく落ち着かなかった。


「……久しぶりに家を出ましょうかね」


 高校の卒業式以来、家の外から一歩も出ていなかった。そろそろ太陽の光が懐かしくなってくる。ゲームの中では夕日を嫌ってほどに浴びてはいるが、朝日を浴びたことはなかった。


「よし、出かけるとしましょうか」


 現在時刻は朝の九時半だった。いつもならこのまま爆睡するところだが、今日はあまり眠くもない。軽いジョギングくらいはしても罰は当たらないだろう。 


 まりもは体育の授業が終わってから一度も袖を通さなかった体操服に着替えて外に出た。


 その際お付きのメイドである早苗がありえないものを見る目でまりもを見て、すぐに卒倒した。


 たまたま家にいた両親とほかのメイドたちもまた慌てていた。両親と早苗が泣いていたのがとても印象的だった。


「……別に出かけるくらいいいじゃないですか」


 なんとも言えない後味の悪さを感じつつも、まりもは近くの図書館までのジョギングを始めた。


 図書館までは歩いても十五分くらいなので、ジョギングであれば、十分も走れば着くだろうと思っていた。そう思っていたが、途中でまりもはバテてしまった。


「は、走るのってこんなに大変でしたっけ?」


 走り出してから数分でまりもはバテて足を止めていた。まだ自宅が見えている程度しか離れていない。


「お嬢様、ファイトです!」


「あと七、八分ですよ!」


「お嬢様の本気はこの程度ではありません!」


「もっと熱くなってください!」


「まだまだ走れますよ!」 


 早苗をはじめとしたメイドたちが、まりもを取り囲むようにしてエールを送ってくれている。


 端から見たら幼女を取り囲む見目麗しいメイド軍団こと玉森家メイド隊ではあるが、ご近所の方々はあまり気にしていなかった。


「玉森さんのところのお嬢さんとメイドさんたちは今日も仲がいいわね」


 たまたま通りかかった老婦人がほほえましいものを見るように言う。そしてそれは老婦人だけではなく、この一帯の住人の総意であった。


 現にまりもが走り出すと、メイド隊たちは取り囲んだ陣形のまま移動している。


 端から見たら、幼女を取り囲むメイドという意味のわからない光景なのに、誰も通報していないのがなによもりの証拠だった。


そもそもの話、通報してもあまり意味はなかった。


「こんにちは、早苗さん」


「あら、田中さん。今日もお勤めご苦労様です」


「いえいえ、早苗さんたちもお勤めご苦労様です」 


 早苗に声を掛けてきたのは、近くの交番勤務の田中巡査長(43)だった。自転車を止めて早苗と挨拶を交わしているが、眼前の光景の異質さには無頓着だった。


「今日はまりもさんに運動を?」


「いえ、お嬢様がご自身で、です。であれば玉森家のメイドとして応援をせずにはいられませんので」


「ははは、なるほど。では頑張って応援してください」


「ええ、全力で応援いたします!」


 早苗が握り拳を作るのと同時にまりもが再び走り出すと、早苗は一礼をしてまりもを追いかけていく。そんなおかしな一団を見送り、田中巡査長は再び自転車を走らせていった。


 地域住民どころか、国家権力でも受け入れる光景。それがまりもと玉森家のメイド隊の日常風景だった。


 そうしてまりもはメイド隊に取り囲まれながら、近くの図書館へと赴き、畑関係の本となぜかあった「一から作るログハウス」というピンポイントすぎる本を借りて、自宅へと戻った。


「つ、疲れました」 


 帰宅後シャワーを浴びたまりもは、そのまま自室へと戻るとすぐにベッドへと倒れこんだ。


 ほどよい疲れがとても心地よく、まりもはすぐに眠ってしまった。


 疲れすぎていたのか、夢を見ることはなく、気づいたら早苗に揺り動かされていた。


「お嬢様、お食事です」


 まりもがあくびを掻いて起き上がると、早苗はいつものようにまりもを姫抱きしてダイニングまで連れて行ってくれた。


 その日の夕食は夏なのになぜかすき焼きだったが、あまり気にすることなく平らげると、すぐに部屋へと戻った。


「よぉし! 朝の続きなのです!」


ここ最近のルーチンワークであるVRメットを被ると、まりもは「EKO」の世界にへと旅立つのだった。

 ツッコミどころが多い内容となりました。

 続きは明日の正午予定です。

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