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79話 本当の再会

「タマモお姉様ぁぁぁぁぁーっ!」


「う、うぅぅぅ~、うざいですぅ~」


「あ、あぁぁぁぁぁ、そのような、そのような、そのようなご褒美をいただけるなんてぇぇぇぇぇ、ナデシコは幸せ者でございますぅぅぅぅ!」


「逆効果ですかぁ~」


 ナデシコにすり寄られながらタマモはげんなりとしていた。


 ナデシコはタマモ好みの和装美人ではあるのだが、中身があまりにもアレすぎるため、いくら外見が好みであっても中身との差し引きで大幅にマイナスを突破しているため、すり寄られてもまったくと言っていいほどに嬉しくもなんともないのである。


(う、うぅ~。お胸は柔からくて弾力もあるうえにわりとジャストフィットで、ボク好みのはずなのに。なんで中身が残念すぎるのですかぁ~)


 ナデシコはタマモにとってはもはや新手の詐欺と言ってもいいレベルの存在となっていた。


 しかし当のナデシコは全力でタマモをハグしていた。


 ハグしつつもこれまた全力でぺろぺろにまで持って行こうと躍起になっているのだが、その当のタマモからはやはり全力で抵抗されていた。


 しかしふたりのやり取りは傍から見るかぎりは、仲のいい友達同士のじゃれ合いという風に見えていた。


 ……実際はじゃれ合いどころか、わりと大真面目にタマモの貞操は危機に瀕しているわけなのだが、そのことを誰も認識していなかった。


 しかもそれはプレイヤーだけではなく、基本的にほぼすべてのプレイヤーの行動を監視している運営側も同じだった。


「ああいう友愛もあるよな」


「ええ、ありますね」


「「だから問題なし」」


 タマモからしてみれば、「おまえらの目は節穴か」と言いたくなることだろうが、その当のタマモの耳には運営側の言葉は聞こえない。


 逆に運営側にはタマモの言動はすべて筒抜けだった。


 もっともそれは「EKO」だけに限らず、どのMMOでも同じようなもののため、いまさらではあるのだが。


 それでも運営であれば助けろ、とタマモは思う。思うが、その心の声は残念ながら運営側には届かない。そのため──。


「はーはー、タマモお姉様ぁ~」


「ひ、ひぃぃぃ!」


 目がハートマークどころか、全身からハートマークを放出しているような雰囲気のナデシコを止められる存在は皆無だった。


 むしろここからどうやってナデシコを止めればいいのかがタマモにはわからなかった。わからないまま、ナデシコの顏が徐々に近づいて──。


「……嫌がることをしないの」


「げふ」


 ──徐々に顔が近づいてきたところを突如としてナデシコの頭上に降り注いだ鉄拳により、ナデシコはそのままテーブルに顏を突っ伏した。


 突っ伏したまま、動かなくなってしまう。いや、動いているのはいるのだが、体をぴくぴくと震わせるだけであり、それ以上の行動を取ろうとはしていない。


 助かった、と心の底からタマモは思った。そんなタマモにと「はぁ」と小さなため息が注がれた。


「……あんたって、本当にいろいろと面倒なことを引き当てるよね?」


 注がれたため息の聞こえてきた方へと顔を向けるとそこには待ち合わせしていたはずのアッシリアがなぜかいた。


「アリ、いや、アッシリア──」


「……いつも通りの方でいいよ、「まりも」」


「あ」


 つい「アリア」と呼びそうになったタマモは慌てて「アッシリアさん」と呼ぼうとした。


 だが、その当のアッシリアが首を振り、「いつも通りの呼び方」でいいと言ってくれた。


 その言葉にタマモは息を呑んだ。が、すぐに破顔して「いつも通りの呼び方」をした。


「……うん、アリア」


「……やっぱりあんたは「玉森まりも」だったんだ?」


「そういうあなたは「秋山莉亜」こと「アリア」でしょう?」


「ええ。すぐに気付いてくれると思ったんだけどねぇ」


「だってすぐには気づかないよ」


「そう?」


「そうだよ。だって──」


 タマモはじっとアッシリアの胸元を見つめた。胸元を見つめながらはっきりと言った。


「──だいぶ胸を盛っているんだもん。アリアはちっぱいだもん」


「うっさい!」


 タマモのひと言にアッシリアは胸を隠しながら言った。


 だが、すぐにアッシリアは笑った。タマモもつられて笑っていた。


 ゲーム内とはいえ、幼なじみの親友同士の久しぶりの再会だった。


 ふたりはにこやかに笑いつつもそれぞれに襟を正した。そして──。


「久しぶり、アリア」


「久しぶり、まりも」


 ──お互いに笑いながら、それぞれに手を差し出して仲直りと再会を祝した握手を交わし合ったのだった。

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