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77話 狐っ子=魔王

(ふぅん。大したことのない内容でも席を立ちませんか)


 虚実入り混じりのアッシリアとの出会いを語ったタマモ。


 内容がないようなどという冗談を口にするつもりはないのだが、実際にタマモが語った内容はすっからかんと言ってもいいレベルで内容がない。


 しかしそれでもなおナデシコは席を立つ素振りを見せない。


 ナデシコの知りたがっていた話は、すでに終わっているというのにも関わらず、だ。


(となると、アリアだけが狙いではないということですよね。考えられるのは、ボクたちも狙いのうち、というところですかね?)


 ナデシコのように、無駄を嫌いそうなタイプは欲するものがなければ、早々に退却する。


 なにせ欲しいものがないのに、わざわざ徒労でしかないことをする意味がないからだ。


 今回で言えば、ナデシコが知りたがっていたアッシリアについての情報をタマモからはまともなものを入手できなかった。これ以上探っても出てきそうにはないとすでに結論づけているはず。


 しかしナデシコは席を立たない。これ以上の成果は望めないはずなのにも関わらずだ。


 ということは、ナデシコの狙いはほかにもあるということ。


 もちろん第1目標はアッシリアの奪還だろう。


 だが、第2、いや第3かもしれないが、アッシリアよりもだいぶ優先順位は低かろうが、別の目的があるとすれば、その目的のためにタマモに接触したとなれば、その目的はタマモたち「フィオーレ」の吸収というところだろう。


(まぁ、ボクはもののついででしょうが、ヒナギクさんとレンさんは欲しがるでしょうね)


 タマモの活躍はわりと派手だが、ほとんどの戦果はヒナギクとレンの奮闘によるものだ。


 ナデシコでなくても人手を欲しているクランであれば、ヒナギクとレンは喉から手が出るほどに欲しい人材になるはず。


 だが、ヒナギクとレンは「紅華」からの誘いを蹴っているのだ。


 たとえどんな有名なクランから誘いを受けてもふたりは決して頷かないだろう。


 その理由となっているのが自分だということをタマモは知っている。


 タマモが一緒でなければふたりはどんなクランからの誘いだろうと断る。


 それでもなおふたりを欲するのであれば、タマモごととなる。そしてタマモごと誘うということは、事実上「フィオーレ」を吸収するということにほかならない。


 ナデシコの狙いは、1番の狙いはアッシリアの奪還であることは間違いない。


 だが、そのいくらか後に続くのが「フィオーレ」の吸収だろう。


 ヒナギクとレンを手に入れるにはそうするしかないのだ。


 つまりタマモはおまけということになる。普通に考えれば、だ。


 だが、そこにアオイが関わると話は変わる。


(たぶんヒナギクさんとレンさんも欲しいことには変わらないでしょうけど、ふたり以上に欲しいのがボクなんでしょうね。アリアを奪還するためにはアオイさんを頷かせないといけない。その交渉役にボクということなんでしょうね)


 現状、タマモ自身が認める価値は、アオイとの関係性という一点のみ。


(アオイさんたちはフードで顔を隠してくれていましたけど、わかるひとにはわかるはず。ボクとアオイさんが懇意にしていることは気づかれているはずです)


 当然ナデシコの狙いもそこにあるはず。そうなると、タマモはおまけの存在から一気に最重要人物と成り上がる。


 あくまでもアッシリアを奪還するまでの間ではあるだろうが、ベータテスターを連続で撃破している実績を踏まえても手元に置き続けても問題はないとは考えられているだろう。


(この人が席を立たない理由はこのくらいしか思い付きませんね。まぁ、あえて言えば趣味に突き刺さったということもあるかもですが、あまり考えたくないのです)


 ナデシコはタマモ好みの和装美人ではあるが、いくらか腹黒すぎる。


 敗北しないために搦め手を使うのは当然かもしれないが、その搦め手の使い方はタマモの好まないやり方だった。


 ゆえにナデシコに好かれたところで嬉しくはない。


 外見がどんなにタマモ好みの美人さんであっても、いや、どんなに美人さんであっても、中身が伴わなければ魅力は半減以下だ。


 だが、逆に言えばである。好かれたいと思っていない相手なのだから思いっきりにやれるということでもあるのだ。その思いっきりにやるための準備はすでに整っていた。


 あとは実行に移すだけである。


 タマモはその宣言のためににやりと口元を歪ませながら、ナデシコに話しかけた。


 ナデシコが困惑しているのがわかるが、そんなことはどうでもいい。タマモは牽制のための攻撃を開始した。


「──アッシリアさんを取り戻すことから、ボクたち「フィオーレ」をお仲間にしようということにシフトチェンジするのは、ちょっと尻軽すぎませんかね?」


 ナデシコの考えを口にしてやるとナデシコは明らかな動揺を見せる。動揺しているがタマモは手を緩めない。手を緩めず、かつ逃がさないように包囲網を作り上げていく。


「──あれれれ~? なんですかぁ~、その目は? 正義の存在であるPKKをまとめる人がそんな目を向けていいんですかねぇ? いやいや、そんなことをするわけがないですよねぇ~? だってPKさん方を「悪」とはっきりと言う人たちがぁ~、そんな怖い目をボクみたいなか弱いプレイヤーに、PKでもなんでもない、一般プレイヤーにするわけがありませんよねぇ~?」


 ニヤニヤと笑いつつ、ナデシコの逃亡を阻止に掛かるタマモ。


 ナデシコは慌てて声が大きいと言ったが、タマモは無視して声をそれなりに大きくして話していく。


「──あぁ~、そうですねぇ~。さすがは「ザ・ジャスティス」のマスターさんですねぇ~。普段から正しいことをされているんですねぇ~。うんうん、さすがはナデシコさんですね、いよ、最高のPKK!」


 今度はべた褒めかつ、ナデシコの身元を口にしていく。


(これでこの人が誰なのかをみんなわかりますよね)


 これでナデシコはより一層逃亡はできなくなった。


 ナデシコの顔に明らかな焦りが見える。


(さて、そろそろ本番といきますかね)


 ここまでの言動は、いわば準備運動である。ここからが本番となる。なので一応の宣言をしてあげようとタマモは思った。


「──さて、そろそろナデシコさんも現状を理解できたことでしょうし、準備運動はここまでにしておきましょうかね?」


「じゅ、準備運動?」


「はい。ここからは存分にかわいがってあげるわ、覚悟してちょうだい、お嬢さん?」


 にこやかに笑いながらお嬢様口調をするタマモ。そんなタマモにナデシコははっきりとした怯えを見せていた。


 そんなナデシコを見つめながらタマモはニヤリと口元を歪ませた。


 そんなタマモの姿を目撃したプレイヤーたちは後に「悪魔、いや、魔王がいた」と口にしたそうだが、それはまた別の話となる。

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