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67話 3日目も終わって。

「本日の試合は個人部門、クラン部門双方ともに終了致しました。明日の本戦2回戦に出場者には後ほどメールにて試合時間をお知らせいたします」


 3日目の、本戦1回戦の最終試合は「三空」の勝利で終った。


「三空」は「銀髪の悪魔」と謳われたアオイが率いている時点で波乱の存在ではあったが、本戦1回戦でより一層その傾向は強まった。


「銀髪の悪魔」の宿敵と言われた「褐色の聖女」ことアッシリアも「三空」のメンバーであることがわかったからである。


 アオイの圧倒的な力はもちろんとして、残りふたりのメンバーの詳細がわからなかったことがネックではあったが、そのネックは半分とはいえ解消された。


 だが、片割れである女性プレイヤーがアッシリアであることがわかったことで、「三空」の強大さがより浮き彫りになる形となってしまった。


「銀髪の悪魔」の宿敵と言われたアッシリアの強さはみじんも陰っていなかった。


 むしろベータテスト時よりも強大になったとさえ、ベータテスト時のアッシリアを知るプレイヤーには思えてならなかった。


 アオイだけであれば、意気揚々に「悪魔」を討伐すると豪語するクランも存在していたが、そこに「褐色の聖女」も含まれるとなると、話は大きく変わってしまった。


 アオイだけでもクラン全員で挑んでも返り討ちに遭うかもしれない相手だというのに、そこにアッシリアも含まれるとなると、もともと薄かった勝ち目がより一層薄くなってしまったのだ。


 なによりもアオイがPKだったことでアオイを討つことに大義名分が生じていた。


 しかしアッシリアを討つことには大義名分などはない。正式リリース版では闇堕ちしたのだとしても、ベータテスト時には最高のPKKと称されていたアッシリアを討つことには賛同されることはない。


 特にアッシリアが率いていたPKKたちからは、敵対視されることは明らかだった。


 そもそもあの圧倒的な実力者であるアオイの宿敵とされたアッシリアを討てるプレイヤーがはたしてどれだけ存在しているのかもさだかではない。


 仮にアッシリアよりもプレイヤースキルが高かったとしても、「ザ・ジャスティス」の面々を翻弄、壊滅させたあの複数の毒の前では無力と化すだろう。


 本戦出場者のベータテスターたちにとって、アッシリアの存在は思惑を大きく狂わせてしまった。結果本戦出場者のクランたちは軒並みお通夜を思わせるほどに消沈していた。


「悪魔」と「聖女」を同時に相手にして勝てると思えるほど、うぬぼれている者はいなかった。それどころか、クラン全員でひとりひとりと対峙しても勝てるとも思えないクランばかりだった。


「……完全にお通夜モードだな」


「……ある意味タマモちゃんたちに負けて正解だったのかもな」


「お気楽でいいなぁ」


 周囲のクランの消沈ぶりを見て、ガルドとバルドはいくらか気楽そうに言っていた。


 そんなふたりにローズは不満気にため息を洩らしていた。


 いや、ため息を洩らさずにはいられないそんな相手が出てきてしまったのだから、無理もないことだった。


「……皆さん、ボクはちょっと用事があるので失礼します」


 ため息を吐く面々にとタマモは声を掛けた。


 ガルドとバルドたちは「用事?」と首を傾げていたが、ローズはなんとなく理解しているのか、「まぁ、積もる話もあるのかな」と笑っていた。


「えー、狐ちゃん。もっと一緒にいようぜぇ」


 ただサクラは不満そうにタマモに抱き着いた。サクラはタマモをずいぶんと気に入っているため、できるだけタマモと一緒にいたいのだろう。


 いつもであれば、サクラの気が済むまで一緒にいても問題はないとタマモも言うだろうが、今回ばかりは事情が異なっていた。


「ごめんなさい、サクラさん。すごく大事な用事があるのです」


「でも」


「……サクラ、タマモちゃんにも事情があるんだから、離してやりな」


「……わかったよ。でも明日はずっと一緒だよ!」


「はい、約束します」


「絶対だかんな!」


「はい」


 納得していないサクラにタマモは小指を向けた。サクラはタマモの小指に自身の小指を絡めながら、指切りをして約束を交わした。そこまでしてようやくサクラはタマモを解放した。


「タマちゃん」


「俺とヒナギクも少し用事があるから、部屋に集合でいいかな?」


「おふたりも、ですか?」


 サクラから解放されたタマモにヒナギクとレンが声を掛けた。


 ふたりもまたタマモ同様に用事があったのだ。


 ふたりで行う用事ということに邪推を始めるガルドとバルドたち。


 そんな二組にローズたちが下品と切って捨てるが、タマモたちには話の内容は聞こえなかった。


「わかりました。また後で」


「うん、ごめんね」


「また後でね、タマちゃん」


「はい」


 タマモも用事があるのだから、ヒナギクとレンにも用事があっておかしくはない。


 むしろタマモの用事はできれば、当事者同士で終えたいことだったため、ヒナギクとレンに用事があることはかえってありがたいことだった。


「では、みなさん。また明日です」


「今日はお世話になりました」


「またよろしくお願いします」


 タマモたちは「ガルキーパー」、「フルメタルボディズ」、「紅華」の面々に深々とお辞儀をした。


 そんな「フィオーレ」の姿に三組は苦笑いしながら、タマモたちを見送った。


 その後すぐにタマモたちは二手に分かれて行動を始めた。


 ヒナギクとレンは会場内へと、そしてタマモは舞台袖へと向かった。


 目的はただひとつだった。タマモは駆け足で舞台袖へと向かい、そして──。


「──では、どうしても姉様を手放されない、と」


「くどい」


 ──「ザ・ジャスティス」の面々と言い合いをしている「三空」を、その言い合いの焦点となっていたアッシリアを見つけるのだった。

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