62話 波乱の試合
その後の本戦第1回戦の試合は個人もクランもこれといった大番狂わせもなく、勝つべき者が相応にして勝つという展開が続いた。しかもそれなりに力を抑えてという形でだった。
誰もが「フィオーレ」と「フルメタルボディズ」の試合のように死力を尽くすような戦いはしていなかった。
むしろ続く試合のために余力を残すのに加えて、手の内を明かさずに戦っていた。
全力を尽くさなくても勝つものは勝つという光景が繰り広げられていったのだ。
全力を尽くさずに勝者になれる者もいるが、だからと言って個人もクランも予選2試合を勝ち抜いてきたのだから、相応の実力者が揃ってはいたのだ。
しかし相応の実力があっても、決して実力が拮抗しているわけではない。同じ本戦出場者という枠組みの中に入れても格差があった。
たとえばクラン部門の本戦第3試合のように、PKKの選抜チームとタマモたちが戦った「フルメタルボディズ」と構成が似たタンク系のプレイヤーたちの試合のように、同じ本戦出場のはずなのに為すすべなく一蹴されたのも格差があったからである。
具体的に言えば、同じ予選を突破したとしても、余裕を持って突破できる者もいれば、どうにか突破できたという者もいる。
もちろん組み合わせ次第では実力者同士の試合だったということもあれば、格下ばかりが相手だったということもある。もしくはどの試合も運よく勝ち残れたということもまた。
どういう内容の試合だったにせよ、突破してきた試合の内容そのものがより如実に、本戦出場者たちを篩に掛けることとなった。
篩に掛けた結果、どうにか予選を突破した者や組み合わせの妙により、つまりは運よく予選を突破した出場者は、本戦の第1試合で敗戦していった。
そのほとんどが初期組だった。
ベータテスターが敗退することもあるが、それはほとんどの場合がより格上に負けたということであり、「フィオーレ」のように初期組がベータテスターに勝った試合などは本戦においては存在せず、敗退していくのは初期組ばかり。
ベータテスターの敗退者はほとんどいなかったのだ。
そうして文字通りの篩に掛けられた結果、残った出場者の中で初期組であるのは、個人とクランにそれぞれひとりと一組のみになり、あとはすべてベータテスターのみという順当通りの展開だった。
だが、プレイヤー側にとっても、運営側にとっても、初期組が本戦1回戦を突破するなど誰も考えていなかった。
予選1回戦であれば、初期組同士の対決もありえるため、突破は可能である。
実際、予選1回戦を突破した初期組は、相手が同じ初期組や最近始めたばかりの後発組だったというパターンが多い。
だが、ほとんどはその後の2回戦でベータテスターとあたり、瞬殺されてしまっていた。
中にはベータテスターに打ち勝てたクランもいたが、第1回戦で消耗しきっていたり、たまたま戦法が噛み合わさったりと、決して実力だけで打ち勝てたのではなく、運が大いに影響した結果だった。
そんな運よく本戦に出場した初期組も、本戦出場を果たしたベータテスターを前にすれば、瞬殺されることになった。
運だけでは本戦に出場できてもその後には繋がらない。
本戦1回戦を突破できたのは、相応の実力者ないし、相応の努力を以て駆け上がってきた者だけになった。
タマモたち「フィオーレ」が1回戦の突破者になったのは決して運だけではなく、相応の実力があったためである。もっともヒナギクとレンがいたからこそとも言える部分はある。
しかしタマモ自身のプレイヤースキルも当初とは考えられないほどに向上していた。
レベルもステータスも全出場者の中で最低だが、プレイヤースキルだけはそれなりになっていた。そこにほんのわずかな運が組合わさり、「フィオーレ」の快進撃にと繋がっていた。
その快進撃のおかげか、「フィオーレ」はわりと人気のクランにとなっていた。
だがこの時点ではまだ「フィオーレ」の面々はそのことを知らないでいる。が、水面下では着実に準備が進んでいたのだった。
そんな水面下の動きを知ることもなく、タマモたちは対戦した「ガルキーパー」、「フルメタルボディズ」に加えて交流があった「紅華」たちと一緒に本戦1回戦の観戦をしていた。
その本戦1回戦も残すところあと1試合となった。
すでに個人部門の1回戦は終わり、あとはクラン部門での1試合だけになった。
会場内の熱気はピークになっていた。それも当然、最終試合に出場するのは、「武闘大会」における波乱の塊ともいうべきクランだった。そう──。
「本戦1回戦最終試合。クラン「三空」対「ザ・ジャスティス」を開始いたします」
──アオイたち「三空」の出番となった。そしてこの試合はこの「武闘大会」でも屈指の波乱の試合となるのだった。




