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61話 わん娘と狐っ子

「──クラン部門の第5試合は5分後に開始となります。出場者は──」


 次の試合の準備を促すアナウンスが流れていく。そのアナウンスを聞きながらタマモは空いた口が塞がらなかった。


「す、すごい試合でしたね」


 相手の「ブレイズソウル」は、「これぞ王道」というバランスのいい構成のクランだった。


 タマモ自身、予選で一度だけその試合を見たが、派手さはないが堅実そのものな、見事とも言える試合を行っていた。「フィオーレ」の試合とは真逆だった。


「フィオーレ」の試合は派手ではあるが、一か八かの賭けのようなものばかりだ。


 特にタマモが参戦した予選2回戦からの2試合などは、ひとつ間違えれば負けていたような試合ばかりで、安定さなどは少なくともタマモには一切ない。


 そんな「フィオーレ」とは対照的に、「ブレイズソウル」の試合は非常に安定した展開だった。


 最大火力となる魔術での一撃を軸にそれぞれがそれぞれに行うべきことを確実に行っていく様は、一か八かの賭けのような試合とは、真逆の安定性の極致とも言うべきものだった。


「ああいう風に試合を展開できればいいんですけどねぇ」


「ブレイズソウル」の予選の試合を見て、真っ先にタマモが思ったのは、そんな感想だった。


 その「ブレイズソウル」とローズたち「紅華」が試合をした。


 その内容は「ブレイズソウル」の得意とするチームワークを一切させずにローズたちが蹂躙するという一方的な試合になった。


 端から見れば「ブレイズソウル」が弱く見えただろう。


 だが「ブレイズソウル」が弱いというのは決してありえない。


 単純に相性の差が出てしまったということだろう。


「ブレイズソウル」は王道そのもの。しかし王道というものは奇策にはえてして弱いものである。


 特に「ブレイズソウル」のように、もはやひとりひとりが職人じみた、それぞれの仕事を全うしようとするタイプは、奇策には弱い。


 もっとも奇策もまた王道には完成された王道には弱いものであるのだが。


 王道も奇策も相互関係にあるようなもの。


 ゆえにその勝敗はより完成された方が勝つ。


 今回の場合は「ブレイズソウル」の完成度よりも「紅華」のローズを活かす戦法が勝ったというだけのこと。


 試合の内容がそのまま双方の実力差というわけではない、とタマモには思えた。


「相変わらず、ローズは思いきりがいいなぁ」


「あの新人の子がいい感じに姉御のフォローになっていたというのもあるんだろうけどな」


「たしかにな。普通は魔術師系の後衛が突貫してくることなんて早々──」


「私魔術師系だよ?」


 はいと言うかのように手を挙げるヒナギク。


 そんなヒナギクにガルドとバルドは「ここにもいたんだったな」と顔を見合わせてため息を吐いた。


「……まぁ、ヒナギクは特殊枠なんで気にしないでください」


 ため息を吐くバルドたちに復活したレンが額を押さえながら言う。


 レンの「特殊枠」という言葉にヒナギク以外の全員が「あぁ、そっか」と頷いた。


 ヒナギクだけは「みんなしてひどい」と言うが、タマモとレンでもこのことに関しては擁護できないのだ。


 治療師であるはずなのに、回復系やバフ系の魔法を一切使わずに自身の体術をメインにした肉弾戦で戦うプレイヤーなど、治療師だけではなく、魔術系のプレイヤー全体を見渡してもヒナギクくらいのものと思っていた。


 それが蓋を開ければまさかのサクラもヒナギクと同じ特殊枠のプレイヤーだった、とはまさに想定外だった。


 が、同じ特殊枠でもサクラはヒナギクのように体術をメインにしてはいない。


 使うのは先端が鉄の塊であるメイスだった。そう、RPGではなぜか僧侶の相棒であるメイスだ。


 魔術師なのになぜメイス? とは思わなくもないが、あの質量武器、というか、鉄の塊で背中から思いっきりぶん殴られれば「朦朧」の効果が発動するのも当然だった。


 現実にそんなことをしたら、殺人事件にもなりかねないことだが、ゲームゆえにステータス異常ですむのだから不思議なものである。


 もっともサクラの場合はほぼたまたまのようなものなのだろうが。


 なにせタマモの目から見てもメイスを振るっているのではなく、メイスに振り回されている印象が強いのだ。


 いわば扱いこなせていない。だがその扱いこなせていない武器で金星を上げたのだから大したものだった。


「あー、狐ちゃん見つけた!」


 不意に声が聞こえた。見ればすぐ下の入り口からサクラがタマモに向かって手をぶんぶんと振っているのだ。その後ろには当然のように保護者であるローズ、リップ、ヒガンの姿もあった。


「あれ、ガルドにバルド。タマモちゃんとなにしているの?」


「なにしているって、観戦していたに決まっているだろうが」


「そもそもなにもするも観戦以外になにがあるっていうんだよ、ローズの姉御」


「えー、タマモちゃんにこの場では言えないことを──」


「「するわけねえだろう!?」」


「だよねぇ~」


 あはははと楽し気に笑うローズとそんなローズの言動に頭を抱えるヒガンとリップ。「紅華」ではヒガンとリップが苦労人枠のようである。


 そんな保護者3人とガルドとバルドのやり取りをまるっと無視するようにしてサクラはタマモ目がけて突貫してきた。


「勝ってきたよぉ、狐ちゃん!」


「おめでとうございますです」


「狐ちゃんに褒められて嬉しいなぁ!」


 タマモに抱き着きながらサクラは言動そのままに嬉しそうに笑っていた。


 そんなサクラの背中に目に見えない尻尾が、犬系統の尻尾が見えてしまった。


(サクラさんはわん娘ですねぇ)


 実際タマモに抱き着きながら、サクラは目に見えない尻尾をフルスロットルで振っているように見えた。実にわん娘である。


「このあと一緒に観戦しようぜぇ!」


「そうですねぇ」


「いやったぁぁぁ、姐さん、狐ちゃんがいいって言うから、俺一緒に観戦するからね!」


「はいはい。好きにしな」


「タマモちゃん、ごめんね」


「本当にうちの愚妹がごめんなさい」


 苦労人枠であるヒガンとサクラの実姉であるリップが申し訳なさそうに頭を下げていた。


 別に謝られることではなかったので、タマモは「気にしていないですよ」とだけ言った。


 それにこれはこれで役得とも言えることだったのだ。


(サクラさんはわりと着やせするタイプですね)


 抱き着かれているからわかるのだが、サクラは巨とまではいかないが、なかなかのものを持っているようである。


 元気いっぱいのわん娘でありながらも、なかなかのスタイルの持ち主とは。


 まさにハイレベルと目をきらりと輝かせながら思うタマモであった。


「……ふむ、意外とタマモちゃんって好き者かな?」


「見た目はかわいいのにねぇ」


「ちょっともったいないなぁ」


 タマモの反応を見てローズたちはタマモのちょっとアレな部分を察知したようだった。


 しかし当のサクラはべったりとタマモにくっついているため気づかないでいる。


「試合までもうちょっとあるし、いろいろと話そうぜ!」


「そうですねぇ」


 ローズたち保護者組の言葉をあえて無視してタマモは第5試合が始まるまでサクラと賑やかな会話を交わしたのだった。

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