13話 ボクたちはWIN-WINな関係です。
今回からマスコット(?)キャラクターが出ます。
苦手な人は苦手でしょうけども←苦笑
「倒れるぞー」
タマモは雑木林の中から声をあげた。
ほぼ同時に雑木林の中から一本の木が大きな音を立てて倒れていく。
タマモは倒木に巻き込まれない位置で木が倒れていくのを見守っていた。
やがて大きな振動とともに木が倒れた。
倒れる際にほかの木々の枝葉を巻き込んでいったので、倒れた木々の周辺は枝葉の道のようなものが出来上がっていた。
そんな枝葉を眺めつつ、露わになった空を見上げる。今日も相変わらず空は夕焼けに染まっていた。
「「始まりの街」はやっぱりずっと夕焼けみたいですねぇ」
ここ数日ほぼ限界までログインしているからこそわかったことではあるが、「始まりの街アルト」の空は常に夕焼けだった。
常に夕焼けというのは現実的にはありえないことではあるが、ゲームの中でのことなので特に気にはしていなかった。
気にすることがあるとすれば、夕焼けで野菜は育つのかということくらいだが、農業ギルドではファーマーたちが育てた野菜が無事に販売されているところを見るかぎり、問題なく野菜は育つようだった。
掲示板で調べたことでもあるが、「アルト」の外では時間の移り変わりを見られるようだった。
タマモの悪夢の地である「南の平原」は、夜になるとモンスターが活性化する。
もっとも夜にモンスターが活性化するのは「南の平原」に限ったことではないそうだが、こと「南の平原」に限って言えば、夜になると角ウサギが隊列を組むようにして一斉に突っ込んでくるようになるそうで、危険度が少し上がるそうだ。
ただしその反面満天の星空が見られるようになるし、夜明けとなれば地平線から昇る朝焼けを見ることもできるそうだ。
(アオイさんと一緒に眺められたら最高なんですけどねぇ~)
朝焼けの光は、山吹色の光はきっとアオイの銀髪とよく映えるだろう。満天の星空をバックに笑うアオイもまた神秘的に違いない。
「……アオイさん成分が足りないのですよぉ~」
理想の嫁像そのものであるアオイとは、初日にログインしたっきり、一度も会っていない。
メールを送るとすぐに返信をしてくれるから、嫌われたわけではない。
単純にアオイはいまとても忙しいようだった。
今日の作業を始める前に送ったメールの返信は「今日も愛くるしく頑張っておくれ、タマモや」と書かれていた。
そっけない内容とも言えるが、最後にはいつもキスマークが三個付属していた。それは今回のメールでも同じだった。
なんというかこっぱずかしいし、まるで遠距離恋愛をしているかのように思えてならない。
「……まぁ、アオイさんのような超絶美人さんがボクなんかを相手にしてくれるわけもないんですけどね」
タマモは自分の容姿がどういうものであるのははっきりと理解していた。
一部の好事家以外には相手をされない見た目であることは自分でもわかっているのだ。
ゆえにアオイのような美人さんが自分なんかを相手にしてくれるわけがないと思い込んでいた。
……実際はタマモの見目はアオイのドストライクであるのだが、そのことにタマモは気づくことはない。
「まぁ、アオイさんも応援してくれているのです。頑張るのですよ!」
タマモはおたまを掲げて、次の木へと向かって行く。
リーンにこの荒地と雑木林にまで連れて来られて、数日。
タマモはログインするやいなや開墾に精を出していた。その甲斐あってわずかな荒地だけだったのが、いまや畑二面分くらいの広さはある広場ができていた。
「よし、「大樹斬り」発動です!」
タマモはおたまを木に向けて振るった。
するとおたまはなんの抵抗もなく木を両断した。
タマモが使ったのは「対植物攻撃」というスキルの武術である「大樹斬り」だった。
「対植物攻撃」はその名の通り、植物系モンスターへの特効がある。そしてそれは植物系モンスターに限らず、フィールドに自生する植物に対しても効果があった。
モンスターには大きなダメージを与えるのに対し、自生する植物──今回のような雑木林にある木の場合は一撃で伐り倒せるという効果になる。
その効果を活かして、タマモは日に何本も木を伐り倒すことができていた。
ただタマモのようにわざわざ名前を出さなくても、「対植物攻撃」をセットしていれば勝手に「大樹斬り」の効果は乗る。
「大樹斬り」とは言うものの実際はパッシブ系の「武術」だった。
それはタマモ自身わかっていることだったが、どうせならということでわざわざ名前を出して伐り倒していた。理由は単純でそうしないと飽きそうで怖いからである。
来る日も来る日も木を伐り倒すだけの日々。自分はいつから林業をするようになったのだと思ってしまうことがあるのだ。
なぜゲームの中で肉体労働をしているのだろうと思うと、手が鈍りそうになる。
そうならないために「大樹斬り」をアクティブに発動させているように振る舞っているのである。
そうしないとこれがVRMMOなのか、林業体験なのかがわからなくなってしまいそうだからだ。
もっともその林業もわりと嫌いではないのが困り者だ。自分の力で背丈をはるかに超える木々を伐り倒すというのは、思った以上に達成感があった。
そして徐々に土地を切り開いていくというのは、まるで開拓者になったかのように思えてちょっとだけ優越感がある。だが、なによりも──。
「お、今日も来ましたねぇ~」
「大樹斬り」の効果でまた木を伐り倒すと、もぞもぞと動く音が聞こえてきた。
顔を向けるとそこにはタマモの膝くらいの高さの芋虫がいた。
体は基本的に緑色なのだが質感がえらくリアルである。
莉亜が見たら卒倒しそうなレベルだが、体の割に顔はとてもデフォルメされている。
目がまんまるでウルウルとしているのがちょっと庇護欲を誘ってくれる。
「いつも通り葉っぱならいくらでも食べていいですよ?」
おたまを肩に担ぎながらタマモは巨大芋虫ことファーマーにとっての天敵とも言われるモンスターであるクロウラーに声をかけた。
クロウラーのことは開墾を始めるまえにリーンから諸注意を受けていた。
曰く、農作物を勝手に食べてしまう害虫である、と。かわいらしい見た目に騙されてはいけない、と。気を許せば翌日に畑の農作物をすべて全滅させてしまうのだ、と。見つけ次第排除を推奨する、と。散々言われてしまっていた。
だが、いまのところクロウラーはタマモに悪さをする雰囲気はない。
むしろ開墾の手伝いをしてくれているようなものだった。
枝葉とはいえ、量が多いとそれなりにかさばるのである。
それを葉だけとはいえ、食べてくれるのだから、いまのところタマモとクロウラーはWIN-WINな関係と言ってもいい。
「でも、ボクの畑で野菜ができても食べちゃダメですよ?」
「きゅー?」
「……言っても無駄そうですね、これは」
クロウラーは不思議そうにしながら、むしゃむしゃと葉を食べていく。
ちょっぴり見た目は不気味ではあるが、憎めない顔立ちでもあるのだ。
「まぁ、それも当分先ですけどねぇ~」
伐採はもう少ししておきたい。それが終わったら今度は畑にするための土作りである。
まだやることは多い。それでも少しずつ形になっていくのは楽しかった。
「さぁて、頑張りますよぉ~」
「きゅー」
「ははは、おまえも応援してくれるのですね、ありがとうですよ」
クロウラーがタマモの言葉に反応したのか、それとも単純に鳴いただけなのかはわからない。
だが、なんとなく応援してもらえたなとタマモは思った。
ひとりっきりの作業であることには変わりないけれど、誰かがそばにいてくれることは嬉しかった。たとえそれがデータだけの存在だったとしても。
「名前つけてあげたほうがいいんですかねぇ~?」
後ろで葉を食べるクロウラーをちらりと見やりながら、タマモはクロウラーの名前についてをぼんやりと考えつつ、伐採を続けるのだった。
芋虫がマスコットとはこれいかに←ヲイ
続きは明日の正午となります。




