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59話 ローズの異名

「──第4試合は5分後となります。出場者は舞台袖へと──」


 本戦第3試合が終了し、5分間のインターバルが置かれることになった。


 この間に観戦用の食べ物を買いに走る者もいれば、固い表情で席を立つ者は、おそらく出場者なのだろう。


 そんな各々で十人十色なインターバルを過ごす中、タマモたちはというと──。


「ほへぇ~。やっぱりPKKの人たちって強いんですねぇ」


「まぁ、常に対人戦をしているから、その分べらぼうにプレイヤースキルは高いからなぁ」


「個人部門の方には出ていないみたいだけど、クラン部門では優勝候補と言われるくらいだもんな」


「本当に優勝候補だったんですね」


「……もしかして」


「知らなかったのか?」


「はい」


「「……」」


「ほぇ?」


 ──席取りしていた「ガルキーパー」と合流を果たした「フルメタルボディズ」に挟まれる形で観戦していた。


 先の第3試合は、予選の傾向を変えることになったPKK選抜チームの出番だった。


 その試合内容は圧巻の一言であり、「フルメタルボディズ」と同じ構成の、タンク系プレイヤーで構成されたクランを文字通り一蹴していた。


 具体的にはヒナギクの「鬼鋼拳(炎熱)」での一撃のように、重武装であるタンク系プレイヤーを薙ぎ払ったのである。


 もっともヒナギクのように、対戦相手がボーリングのピンになるような結果にはなっていなかったが、一撃でタンク系プレイヤーを場外に落としたことはたしかであった。


 しかも恐ろしいことに戦っていたのは、マスターである大剣士だけだった。


 ほかの面々はマスターの援護だけをしていた。


 しかもそれをあたりまえのようにしていたことを踏まえると、それがPKKたちの得意とする戦術なのかもしれない。


「……最高戦力である「重擊のバルドス」を軸にしつつ、ほかのメンバーはサポートに動きながらも自分たちでも戦えるとか、怖い連中だな」


「……そうだな、兄貴。対戦相手がタマモちゃんたちでよかったと本気で思うよ。まったく活躍さえさてくれないもんなぁ」


「露骨に話を逸らされた気がするのです」


 PKKたちを優勝候補だとは思っていなかったというタマモの一言に顔を見合わせて絶句していたガルドとバルドは兄弟分ゆえの無言の意思疏通により、会話の内容を先の試合展開へと変えることにした。


 もっとも意思疏通はできてもあまりにも露骨すぎるやり方だったため、タマモが少し頬を膨らましてしまった。


 頬を膨らますタマモは、見た目だけを見れば、たいへん愛らしいく、かわいらしい。


 だが、中身はなんちゃってロリなうえに性癖が若干アレである。


 だが、そのことを知らないプレイヤーたちは胸を「きゅん」とさせていた。


 もしこの場に某凄惨な掲示板の支配者がいたら、鼻血を出しながら叫んでいたことだろう。


 しかし残念ながら、この場に彼の人はいないのである。


 そのため凄惨な掲示板のように阿鼻叫喚となることはなかった。


 だが、タマモの見た目に騙されるプレイヤーが発生していた。


「はぁはぁ、あの子やべえ。ちょっと俺声掛けて」


「お巡りさーん、こいつですよー」


「ちょ、おま!? 仲間を売る気かよ!?」


「仲間だからだろうが!」


 近くの席に座っていた「紳士」が興奮した面持ちでタマモに声を掛けようとしたが、そんなプレイヤーを仲間のひとりが運営へと通報をした。


 そのとたんに慌て始める「紳士」のプレイヤーとそんな「紳士」に向かって叫ぶ仲間のプレイヤーという寸劇が始まった。


 もっともその寸劇は最後まで行われることなく、運営の介入という名の「お仕置きルームへ連行」されることで終止符を打った。


 その際連行された「紳士」のプレイヤーは後に「なんだかゲッソリしたお兄さんとお姉さんに「愛でるべきロリに突撃するなど、それでも「紳士」の端くれなのか!」とすごい剣幕で怒られた」と語るのだが、それはまた別の話になる。


 とにかくタマモの見た目に騙された一部のプレイヤーたちが騒ぎを起こしてしまうというアクシデントが起こりつつも、それが以外のアクシデントは起こることなく、5分間間のインターバルは終わりを告げ、第4試合は開始されることになった。


 その第4試合の出場者を見て、タマモは「あ」と声を洩らした。第4試合の出場者として舞台に現れたのは──。


「ローズさんたちです」


 ──ローズ率いる「紅華」たちだったのだ。


 サクラ、リップ、ヒガンの後衛3人に中衛かつマスターであるローズという、少しバランスは悪いが、ベータテスターの祭典とも言える「武闘大会」において、本戦出場を果たした猛者であることには変わりなかった。


「タマモちゃん、ローズの姉御のことを知っているのか?」


「あ、はい。ヒナギクさんとレンさんをクランに誘ったことがあるということで、その経緯で」


「は? 「紅華」に誘われた?」


 バルドは驚いているのか、口を大きく開けて固まっていた。


 なぜそんなに固まっているのだろうか。タマモが不思議そうに首を傾げていると──。


『おおーっと! 第4試合は「紅き旋風」ことローズ選手が率いる「紅華」が早くも登場だぁぁぁぁぁぁ!』


 ──実況が大いに興奮したように叫んだ。


 その叫びに呼応して会場内が熱気のるつぼと化していく。


 いままでにないプレイヤーたちの熱気に唖然とするタマモ。


 そんなタマモに隣にいたガルドが苦笑いしながら答えた。 


「嬢ちゃんは知らなかったみたいだが、ローズたちはベータテスト時からでも有名なプレイヤーなんだぜ? 特にマスターのローズは「紅き旋風」と呼ばれるトッププレイヤーの一角だったんだよ」


「ろ、ローズさんがですか」


「おう。タイマンで何度かやっているけれど、一度負け越しているな」


 顎を擦りながらガルドが笑った。笑ってはいるが、若干苦苦し気なのが印象的である。


「兄貴なんてそれでも何度か勝っているからいいだろうに。俺なんて一度も勝ったことなんてないぞ?」


「それはおまえがバカ正直に突っ込みすぎているからだろう? もうちょっと頭を使えばなぁ」


「兄貴だって人のこと言えないだろうに。そもそも兄貴の場合は違う意味で頭を使って勝ったじゃんかよ」


「ば、おま、この野郎! 嬢ちゃんたちの前で変なことを言うんじゃねえよ!?」


 ガルドが慌てていた。バルドのひと言でガルドがどのようにして頭を使ったのかがなんとなく窺い知れたタマモだった。


「あの、おふたりとも。そろそろ試合が」


 とはいえ、もうローズたち「紅華」たちはすでに舞台に上がっているのだ。


 相手クランは前衛ふたりに中衛ひとり、後衛ふたりとオーソドックスな構成のようだった。


 バランスという点であれば、「紅華」よりも上には見える。だが──。


「ん~。ありゃ「紅華」の勝ちかね?」


「むしろ、あれじゃ勝てんわ」


「だよなぁ」


 ガルドとバルドから見ると、相手のクランは「紅華」には勝てないと踏んだようだった。


 どうしてそうもはっきりと言いきれるのかがタマモにはわからなかった。


 相手のクランの方がバランスは上だった。


 決して突出しているわけではないが、穴は少なそうなのである。


 なのにも関わらずガルドとバルドはすでに勝負は決しているように言っている。


 その理由がなんなのかを、タマモはすぐに知ることとなった。


「これより本戦第4試合を開始します」


 試合開始のアナウンスが流れるとともにそれは行われたのだった。

 ふと考えたら「紅き旋風」って某格ゲーのロシア人のプロレスラーの異名っぽくなってしまっていた件。……もしかしたらそのうち異名は変えるかもです←汗

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