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58話 言葉という名のナイフで傷つけて

「急に押し掛けることになって申し訳ないのです」


「なぁに、気にするな。困ったときはお互い様だ」


 がはははと腕を組んでガルドが笑う。そんなガルドの隣に座りながらタマモは「恐縮です」と頭を下げていた。


 現在タマモたち「フィオーレ」は、ガルド率いる「ガルキーパー」の面々が占拠していた一角にお邪魔していた。


 本来はついさきほど「フィオーレ」が戦っていた「フルメタルボディズ」の面々のための席だったのだが、その「フルメタルボディズ」は反省会をするために合流がいくらか遅れると連絡があったこともあるが、もともとこうなるかもしれないと考えていたようで予め席は多く取っていたようだ。


 その際周囲にいるプレイヤーたちには予め許可を取っていたため、「フルメタルボディズ」の面々用だけではなく、「フィオーレ」の分も割ける席はあったのだ。


 だからこそ、「フィオーレ」の面々はそれぞれに空いている席に座り、試合を観戦していた。


 ちなみにタマモはガルドと遅れてやってくるガルドとの間の席で、ヒナギクとレンも「ガルキーパー」と「フルメタルボディズ」に挟まれる形で座ることになっていた。


「それにしても見事だったぜ、嬢ちゃん! あのバルドを完全に手玉に取っていたじゃないか! 昨日よりもだいぶ強くなったな!」


「運もあったと思います」


「なぁに、運も実力のうちだ。実力があっても運がなければ実力を発揮できないこともある。逆に運だけではどうしようもないこともある。嬢ちゃんの場合は両方を兼ね備えているんだ。もっと胸を張りな」


 豪快に笑いつつ、タマモの頭をガルドはそっと撫でた。


 笑い方同様に撫で方も豪快になるかと思ったが、意外なことに撫で方は繊細だった。


 ガルドの手はごつごつとしているが、その手つきはとても優しく、少しだけ心地よかった。


(こういうのをお父さんの手と言うんでしょうかね?)


 タマモの父は生きているし、病気知らずの健康的な人だが、とても多忙だった。


 それはタマモが物心ついたときから変わらない。


 物心ついたときから、タマモの父はほぼ家を空けており、常に忙しく働いていた。


 基本的にタマモが起きている時間は経営している会社で仕事をしているのだ。


 夜更かしができるようになってから、ようやく父娘の時間を多少はとれるようになったが、さすがに18歳になったいま父親にベッタリというのはどうかと思ったのだ。


 それに父にとってみればいい歳をした娘からベッタリとされるのはあまり気分がよくないかもしれないと思い、父とはそれなりに接する程度に自粛することにしたのだった。


 その当のタマモの父は、「愛娘が相手をしてくれないよぉぉぉぉぉ! なんでぇぇぇぇぇ!?」と泣きながらタマモの母と早苗の前で「orz」となり、ふたりに揃って呆れられているのだが、そのことをタマモは知らない。


 見た目がナイスミドルなイケオジかつわりと厳格な父が子煩悩どころかド級の親バカであるとは考えてもいないのだ。


「子煩悩はいいですけど、あまりにもやりすぎるとまりもに嫌われてしまいますよ?」とタマモの母に言われたために厳格な父を演じていることもまたタマモは知らない。


 父が本心では「あぁ、今日も愛娘がかわいいよぉぉぉーっ! ぺろぺろしたいぃぃぃぃぃーっ!」と思っていることを知らない。


 父がそんな若干アレな人だとは考えてもいないのだ。


 ……傍から見れば、「あぁ、親子だわ、このふたり」と思われていることを、たしかな血の繋がりがあることを感じられていることをタマモはまったく知らないのだ。


 タマモ自身がうかつなのか、それともタマモの父の必死の努力を褒めればいいのか、実に悩ましい問題だった。


 もっとも知っていたら知っていたで「父の威厳」がご臨終するため、知らないでいることこそが間接的な親孝行になっているという、なんとも言えない状況にあるのだが。


 ちなみにタマモの母である玉森夫人からしてみれば、夫と娘のやり取りは実にユニークということになるらしい。


 そのユニークという言葉がどういう意味なのかは玉森夫人にしかわからないことだった。


 夫と娘がそれぞれに若干アレであるからこそ達観しているのか、それとも若干アレな夫と娘を等しく愛せる度量の持ち主なのか。どちらであるのかは定かではない。


 とにかく、まともに父との思い出はないタマモだが、いま頭を撫でているガルドの手はまさにお父さんという感じがすると思っていた。


 もっとも当のガルドは未婚なため、お父さんと言われることは決してないのだが、そのことをタマモは知らない。


「うにゅ。ガルドさんは頭を撫でるのがお上手ですね」


「うん、そうか?」


「はい、まるでお父さんという感じなのです」


 タマモは笑いながら言った。その一言に「ぐさり」とえらく大きな音が聞こえた。


 タマモの言うとおり、ガルドとタマモのやり取りは遠目から見ると、父娘のようには見える。


 ……父親の遺伝子がほぼ影響せず、母親の遺伝子のみが現れたという稀有な事例となるだろうが、父娘として見えることはたしかである。


 だが、ここで問題となるのは先述したガルドが未婚ということである。


 ガルド的には結婚してもしなくても問題はないと思っているが、親からはさっさと孫の顔を見せろと突っつかれている。


 そのうえガルドの実年齢を踏まえると、(外見上)タマモくらいの娘がいたとしてもおかしくはない。


 実際にタマモくらいの娘がいたら、いくらか早い結婚にはなるが、いないと断定できる年齢でもない。


 むしろリアルの友人──学生結婚をした友人には、タマモとさほど変わらない年齢の子供がいるのだから、タマモくらいの娘がいないというのは決して否定できないことであった。


 しかし悲しいかな。ガルドにはいまのところ結婚する相手がいないため、子供などは夢のまた夢である。


 だからこそ「エターナルカイザーオンライン」を通してストレス発散兼現実逃避をしていたのだが、逃避していたはずの現実に襲いかかられるとは考えてもいなかったのだ。


 そのうえその現実はあまりにも無垢な笑顔だが、残酷すぎる一撃を放ってきたのである。その現実の前にガルドのSAN値は、現実でのSAN値は一瞬で削られ切った。


 そのためかガルドは大粒の涙をこぼしていく。その姿からは哀愁を漂わせていた。


 周囲にいたプレイヤーたちは、一定の年齢以上のプレイヤーたちは、ガルドのあまりにも姿にみな涙した。 


 明日は我が身と誰もが思わずにはいられなかったのだろう。


 しかしそのことに気づかないタマモ。それどころか──。


「あ、ごめんなさいです。ガルドさんならもう成人したお子さんがいるでしょうから、ボクみたいなのに「お父さん」と呼ばれるのは失礼で──」


「「「「「もう、やめてやってよぉぉぉぉぉー!」」」」」


「──ほぇ?」


 ──情け容赦のない追撃を仕掛けたのである。そのあまりにもな所業に周囲にいたプレイヤーたちが涙していた。しかしその理由がてんで理解できないタマモだった。


「……なんか、タマちゃんがごめんなさい。あの子本当に悪気はないんです。ただちょっと天然さんなところがあってですね」


「あー、まぁ気にしなくていいよ。ガルドのSAN値が、リアルの方でのSAN値が削れ切っただけだろうから」


「それって「だけ」とは言えないような」


「まぁ、気にしないで」


 無自覚かつ残酷すぎる言葉という名の鋭利なナイフを振るうタマモの所業を謝罪するヒナギクと、そんなヒナギクに苦笑いする「ガルキーパー」の面々。


 そんな二組のやり取りは第2試合が始まるギリギリまで反省会を行っていた「フルメタルボディズ」の面々が来るまで行われ続けたのだった。

 書きながらわりとブーメランな一撃を喰らっていました。セルフブーメラン←

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