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50話 謝罪合い

「お、おいおい、マジか」


 対峙していたバルドの嘆きに近い声にタマモは半ば同意していた。


 現実だとはわかっていても、実際に起こったことは「マジか」と言いたくなる内容だったのだ。


 どういう試合展開だったのかはさだかではないが、ヒナギクの一撃により「フルメタルボディズ」の残りの4人は場外に落ちてしまっていた。


 タマモとバルドが見たのは、すでに場外に落ちて目を回している「フルメタルボディズ」の4人の姿と、異様なほどに傷つきながらも「ヒナギク」と声を掛けたレンになぜかヒナギクが無情なる一撃を放ったというよくわからない光景だったのだ。


 もっともそれまでの試合を眺めていた観客にとってもヒナギクの行動は「なんで?」と思われるようなものだった。


 だが中にはヒナギクの行動を支持するプレイヤーもいるようで「あれは仕方がないかなぁ」と苦笑いする声が聞こえてくる。


 どちらにせよ、またレンがなにかをやらかしたということだけは確かのようだった。


「レンさんは本当にもう」


 タマモは静かにため息を吐いた。


 タマモにため息を吐かれたレンはと言うと、絶賛舞台上で気絶していた。


 ヒナギクの一撃をもろに受けて、そのまま舞台上で倒れ込んだのだ。


 ちなみにそのときの音は「ドゴン」というどう考えても拳での一撃ではありえない音だったのだが、あえてタマモはそのことを気にしないことにした。


 そんな惨状を作り上げたヒナギクはというと、静かに腕を引いてから構えていた。


 それが「残心」と言われるものであることを、ヒナギクとレンとの1か月間の特訓でタマモは知っていた。


 つまりはヒナギクにとっての戦闘はいま終了したということになる。


 つまりはタマモとバルドとの戦いに介入する気はないと宣言されたようなものだった。


 それでも一応タマモはバルドに聞くことにした。


「えっと、続けますか」


「……本音を言うとやっていられねえというところだけど、やられっぱなしは性に合わないんでな」


 いまさら勝負という気分ではなくなってしまっていたが、当のバルドもすでにそういう気分ではないようだったが、その言葉通りにやられたままでは終われないという意思を目でも語っていた。


 そう言われたら、引き下がるわけにはいかないタマモだった。


「わかりました。続きと行きましょう。それと」


「うん?」


「ひとつお詫びをさせてほしいのです」


「詫び?」


 バルドはタマモの言葉の意味を理解しかねていた。


 いきなり詫びをしたいなんて言われても、普通はなんのことだろうと思うものだ。


 しかしタマモは真面目にお詫びをしたかったのだ。


「あなたのことを少し誤解していたのです。正直昨日の2回戦で戦ったマスターさんのことを悪く言っていたことや、ボクたちをインチキ呼ばわりしていたことには腹が立ちましたけれど、あれは本心からのものではないですよね?」


 じっとバルドを見やるタマモ。そのタマモの視線にバルドは苦笑いした。


「参ったなぁ。いつから気づいたんだ?」


「あえて言えば、論破したあたりから、ですかね?」


「なに?」


 タマモが言った論破とは、インチキ呼ばわりしたことも無礼だと言い返したときのことだった。


 会って数分ほどで「フルメタルボディズ」の言動が本心からのものではなかったということに気付いたということになる。


 試合中に気づかれるかもしれないと思っていたバルドにとって、タマモの答えは予想外にもほどがあるものだった。


 しかしそんなバルドの心中をまるで無視するようにタマモは続けた。


「最初は感じの悪い人たちだなぁと思っていました。けれどあのとき、あなたはボクが言った一言に「確かに無礼かもしれない」と言いました。本当に感じが悪いだけの人たちであれば、あの反応はおかしいのです。感じの悪い人たちであれば、言うべきことは「うるせえ」とか「そんなことはどうでもいいんだよ」とかだと思うのです。たぶん本当はもっと感じのいい人たちなんだろう、と。もっと言えば本当は竹を割ったような人たちなんかじゃないかなと思ったのです。それは実際に試合をしてより一層思ったのです」


「試合をして?」


「ええ。あなたたちはボクたちを分断したのです。分断したのはボクたちへの対策でしょう。本当にボクらをインチキクランと思っているのであれば、そんな対策なんてわざわざしないのです。対策なんてしなくても勝手に馬脚を現すだけだと思うでしょうし。なのに対策をしていたということは、言動と本音は真逆だったと考えるのが妥当だと思うのです。だからこそお詫びをしたいと思いました」


 タマモはまっすぐにバルドを見つめていた。


 そのまっすぐな視線にバルドは頭を掻いた。だがそれは呆れたわけではなかった。


「……なにからなにまでお見通しかい。さすがはガルドの兄貴に勝った子だな」


「そのガルドさんのことを全然知らなかったことも謝りたいのです」


「ああ、そのことは気になさんな。その程度のことでいちいち目くじらを立てる人じゃねえさ。ただ謝るのは俺の方でもあるがね」


「ほえ?」


「いや、その、なんだ。ガルドの兄貴たちに勝ったとき、本当にインチキクランだと思っていたんだよ。でもこうして戦ってみてわかった。あんたらはインチキなんてしていないってな。正真正銘自分たちの力だけでここにるっていうのがわかったよ。だからこそすまなかった」


「いえ、こちらこそです」


 バルドとタマモはお互いに頭を下げ合った。


 それは試合中ではありえない光景ではあったが、誰も指摘することはなかった。


 むしろお互いに頭を下げ合ったふたりの姿を見て拍手が起こるほどだった。


 お互いに認め合ったふたり。その姿は尊いものだった。


「だからこそあんたに勝ちたいんだよ、タマモちゃん。ガルドの兄貴に勝ったあんたに俺は勝ちたい」


「ほとんどまぐれみたいなものですよ」


「運も実力のうちって奴だよ。さぁ、問答は終わりにしようぜ」


 バルドは再び構えた。タマモもまたみずからのEKを構える。


「胸を貸してもらうぜ」


「それはこっちのセリフです」


 謙虚しあいながらも、それぞれの目はとても真剣だった。


 真剣な目をしながらタマモとバルドはほぼ同時に踏み込んだ。


 本戦第一試合の佳境はこうして始まったのだった。

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