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44話 激突

 本戦第一試合の相手は「フルメタルボディズ」という件のコメディアン5人組こと甲冑姿のクランとなった。


 妙な因縁があるなぁと思いつつ、タマモはフライパンとおたまをそれぞれに構えた。タマモの姿に観客席側からは唖然となるプレイヤーがちらほらと確認できた。


 どうやら予選は個人部門だけを観戦していたプレイヤーもいるようだ。


 もっともそういうプレイヤーは基本的に個人部門での参加者だったが、途中で敗退したプレイヤーなのだろう。


「なんで調理器具?」とか「EKってなんの略だったっけ」という声もちらほらと聞こえてくる。


(……耳がいいのもこういうときは考え物ですね)


 観客席の困惑する声を聞きつつ、なんとも言えない気分になるタマモだった。


「……さぁて、どうするかな」


 タマモが困惑しているとレンが唸るような声をあげていた。


 その表情はとても真剣かつ少しだけ焦りを感じられるものだった。


 レンがそういう表情を浮かべるのは珍しいことであり、タマモは少しだけ驚いていた。


 だが当のレンはタマモの視線に気づくことなく、対戦相手である「フルメタルボディズ」を見つめている。


「そうだね。相手はレンとの相性が悪いもんね」


 ヒナギクも若干困った顔をしていた。レンとの相性が悪い。ヒナギクのひと言にタマモはようやくふたりが言っている言葉の意味を理解した。


(そっか。レンさんの戦闘スタイルとあの人たちは相性が悪いんですよね)


 レンの戦闘スタイルは、高速機動で懐に入ってからの手数を重視したそれなりの威力のある一撃を放つというもの。つまりはスピードタイプだった。


 対して「フルメタルボディズ」たちは全員が重装甲で身を固め、とどめとばかりに大盾を装備していた。


 耐え忍んでからの狙い済ました一撃を放つタイプ。つまりはタンクタイプのプレイヤーだった。


 タンクタイプのプレイヤーだけで構成されたのが今回の対戦相手である「フルメタルボディズ」なのだろう。 

 名は体を表すというが、今回の対戦相手ほどそれを如実に言い表しているクランもそうはいないだろう。……ネーミングセンスはひとまず置いておくが。


 とはいえだ。「フルメタルボディズ」がレンとの相性が悪いことはたしかである。レンの戦闘スタイルでは、ダメージをろくに与えられない可能性が高いのだ。


 逆に「フルメタルボディズ」の攻撃もレンには当たらない。


 ガチガチに固めた装備ではレンの雷を思わせる速度には着いてこられない。その分一発でも当たれば、逆転しかねないのが恐ろしくもあるのだが。


 千日手とまではいかないだろうが、お互いに攻めあぐねる可能性は非常に高い。それでも一撃がある「フルメタルボディズ」の方がやや有利なのもまた事実である。


 勝負を決するのは、レンの攻撃力と相手の防御力のどちらが勝るかという一点に尽きる、実に白熱した試合展開になる。


 もっともそれは個人戦であればの話だ。


 今回はクラン同士の戦い。であれば、レンとタマモの役割は自ずと決まっていた。


「ボクとレンさんで撹乱ですね」


「メインは俺でやるから、タマちゃんはフォローをお願いね。でそのあとに」


「私が決めるってところかな?」


「フィオーレ」の意見は見事に一致していた。そう、スピードタイプのレンとマスターであるタマモが撹乱をし、浮き足たったところにヒナギクの一撃をお見舞いする。


 ヒナギクでもさすがに一撃での打倒は無理だろうが、相手にかなりのダメージを与えられるはずだ。


 少し時間は掛かるかもしれないが、確実性のある作戦だった。


「よし、なら作戦開始だ」


 そう言ってレンが動き出そうとした。そのときだった。


「「「「「シールドバッシュ!」」」」」


 一斉に大盾の武術であるシールドバッシュが発動されたのだ。


 とっさにレンがヒナギクを抱えて移動し、タマモも同じくシールドバッシュで回避した。


 まさかの先制攻撃にいきなり二手に分けられてしまった「フィオーレ」の面々。


 しかし「フルメタルボディズ」の攻撃はやまなかった。


「「「「「シールドバッシュ!」」」」」


 ふたたび5人全員がシールドバッシュを放ってきた。


 ただ今回は「フルメタルボディズ」もまた二手に分かれていた。


 ヒナギクとレンに4人が、タマモにはリーダーと呼ばれていたプレイヤーがそれぞれに迫ってくる。


(あちらも各個撃破が狙いですか!)


「フィオーレ」と「フルメタルボディズ」の狙いは一致していた。


 ただ狙いは一致していても事情は異なる。


「フィオーレ」の場合は確実性を取った各個撃破だ。しかし「フルメタルボディズ」はそうではなかった。単純に面倒ではない方法を選んだということである。


 もともと数の上で勝る「フルメタルボディズ」にとってみれば、わざわざ待ちの体勢を取るよりかは、速攻での各個撃破を選ぶ方がかえって早く試合を終わらせられると考えたのだ。


 加えるとすれば、「獣狩り」と謡われた「ガルキーパー」のマスターであるガルドとの一戦を見て、待ちの体勢では勝てないと判断したというのもある。


 相手の体勢が整う前に速攻を仕掛けて浮き足たったところを各個撃破する。


 開会式前にはさんざん挑発をしたが、それは「フィオーレ」を脅威とみなしたうえでの作戦だった。


 少しでも冷静さを奪えればそれでいい。たとえその過程でガルドを、大恩あるガルドを貶すことになろうとも。それが「フルメタルボディズ」の決意と覚悟だった。


 その決意と覚悟を持っての速攻での各個撃破。


「フルメタルボディズ」の狙いはわかっても、その心内までは見通すことはできなかったが、本来の戦闘スタイルを捨てて仕掛けてくる「フルメタルボディズ」の姿に並々ならぬものを感じ取ったタマモたち。


「でもそう簡単には負けないのです!」


「フルメタルボディズ」のリーダーに迫られながら、タマモもふたたびシールドバッシュでの回避をした。


 ヒナギクとレンは、すでにレンが雷を纏った高速機動での戦闘を始めていた。


 ヒナギクはレンに抱えられたままだ。


 そんなヒナギクとレンの姿に観客席からは呪詛のこもった声援が送られている。


 ……どこにでも「リア充滅ぶべし」と思うプレイヤーはいるようだった。


 こうして「フィオーレ」対「フルメタルボディズ」との第一試合は開幕から白熱した展開へとなったのだった。

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