42話 開会式開始
コメディアン5人組に絡まれてすぐに、タマモたちは開会式に参加した。
メールが送られたのが10分前だったのだから、コメディアンたちに絡まれれば当然より時間はギリギリとなってしまう。
実際タマモたちが舞台に着いた頃にはすでに開会式1分前だった。
さすがに自分たちよりも遅い参加者はいないだろうなと思っていたのだが、予想外にもう一組参加者が現れたのだ。その参加者は件のコメディアン5人組だった。
「あれま、タマモちゃんたちよりも遅い人たちいたんだね」
そう言ったのは、「紅華」のマスターであるローズだった。
「紅華」たちもまた予選を突破し、本戦に出場したクランのひとつだったのだ。
タマモたちが舞台に訪れたときには、すでにローズを含めた「紅華」の面々はすでに舞台上にいたのだ。
「おー、狐ちゃんだ!」
タマモたちを見つけた「紅華」のメンバーであるサクラは、ローズたちのそばから離れて、タマモのもとへと駆けてきた。
「見ていたぞー! なんだよ、あのチートスキル2連発は! 相手のおっさん、ベータテストのときに有名プレイヤーのひとりだっていうのに瞬殺だったじゃんか! 狐ちゃん、あんなに強いなら先に教えておいてよ!」
サクラはタマモの手を握りながらぶんぶんと振り回してくれた。相変らずだなぁ、と思いつつもタマモは苦笑いしていた。
「えっと、チートスキルって」
「ん~? 使っていたじゃんか」
「いや、使っていない、というか、そんなスキルは持っていないですよ?」
「え~、嘘だー。使っていたじゃんかよー」
「ん~、まぁ、ひとつは持っていますけど、ふたつも持っていないのですよ」
「なにを言っているんだよ、ふたつ使っていたじゃんかぁ~」
不満げに頬を膨らますサクラと困惑して尻尾で頭を掻くタマモ。
タマモはサクラの言っている意味がいまいちわからなかった。
タマモが使ったのは「絶対防御」と「急所突き」だが、タマモの中ではそのふたつのスキルがチート扱いされるスキルだとは思っていなかったので、サクラの言う意味をいまひとつ理解できていないのだ。
むしろタマモにとって「急所突き」と「絶対防御」よりもガルドを討ち取った最後の尻尾での攻撃の方がはるかにチートのようなものだった。
あの攻撃については試合後に確認すると、とあるスキルの影響で発生した攻撃であることがわかったのだ。そのスキルとは「尻尾操作」というスキルだった。
この「尻尾操作」は本来なら外れ扱いされる、いわゆる使えないスキルのひとつだった。
なぜ「尻尾操作」が使えないスキル扱いされているのかは、その効果にある。その効果はとても単純なものであり、「尻尾を自由自在に扱うことができる」というものだった。
むろん、尻尾がなければなんの意味もないスキルだが、尻尾があったところでやはりあまり意味はないのだ。
なにせ単純に尻尾を思い通りに動かすことができるだけであり、有用な効果など一切ないのだ。どう考えても外れスキルないし、意味のないスキル扱いされていた。
もっとも「尻尾操作」が外れスキルであるのは間違いことである。ただし、それは尻尾が一つだけであればの話である。
「尻尾操作」は複数の尻尾を持つ種族にとっては、チート扱いされるスキルとなる。
尻尾がひとつだけであれば、わざわざ「尻尾操作」を使わずとも、尻尾を動かすことはたやすいのだ。
しかし尻尾が一本増えただけでその難易度は跳ね上がることになる。
たとえば片腕だけを動かすのと両腕を同時に動かすのでは両腕を同時に動かす方が難しい。
片腕だけであれば、ただその腕だけに集中すればいい。
ゆえに思う通りに動かすことはたやすい。
しかしこれが両腕となると、それぞれを注視しながら動かさなければならなくなる。
片腕だけのときよりも集中力が分散してしまうのだ。
要は一点集中から多点集中になるということ。
ひとつだけに集中するのではなく、それ以外にも集中するというのは、非常に難しい。
それは尻尾にも同じことが言える。
ひとつの尻尾をただ動かすのと複数の尻尾を別々に動かすのでは、難易度はまるで違うのである。
その難易度がまるで違うことを「尻尾操作」では一本の尻尾で行うのと同じように扱えるようになる。
たとえどんなに尻尾が増えようとも、である。
加えて「尻尾操作」はレベル制なので、レベルが上がれば上がるほど精密度が向上し、なおかつ尻尾を使った武術が扱えるようになる。
ちなみにタマモがガルド戦で使ったのは「尻尾操作」のレベルが1でも使える「武術」である「尻尾三段突き」だった。
その名の通り尻尾を使った三連続攻撃だが、「尻尾三段突き」の恐ろしいところはパッシブ系の「武術」であり、パッシブであるがゆえにアクティブ系の「急所突き」の効果と併用できるということだった。
その結果がガルドのHPを削り切るという結果に繋がったのだった。
そのことをサクラに伝えるべきかどうかをタマモは悩んでいたが、そのサクラの頭をマスターであるローズが叩いたことでうやむやになった。
「捲し立てて聞くのはダメだよ、サクラ」
「だ、だけど、ローズ姉」
「親しき仲にも、だよ? 狐ちゃんたちが勝ち残ったことが嬉しいのはわかるけれど、勝ち残ったということは後々戦うこともあるんだから、一方的に情報を収集するような真似はしないの」
「……はぁい」
ローズの言葉にサクラは肩を落としてしまった。そこまで気にすることじゃないと言おうとしたタマモだったが、ちょうどそこに件のコメディアン5人組が舞台に上がってきたのだった。
「あ、危ない。間に合わないかと思った」
「というか、さっきの狐っ子!」
「俺たちを置いて行くなよ、悲しくなっただろう!?」
「そういうのは本当にやめようよ!?」
「いじめになるんだぞ!?」
タマモたちに対する罵詈雑言はどこに行ったのやら、コメディアン5人組はいまにも泣きそうな顔かつ涙声でそんなことを言い出したのだった。
「……本当に面白い人たちだなぁ」
コメディアン5人組の言動にローズがしみじみと呟いた。その呟きに全力で肯定するタマモだった。こうしていろいろと騒ぎはあったものの本戦の開会式は無事に始まったのだった。




