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38話 様式美と2日目終了

「──これにて予選全試合を終了いたします。明日より「武闘大会」本戦を開始いたします」


 出来上がった最後のキャベベ炒めを渡すのと試合終了のアナウンスは同時だった。


 舞台上ではアオイが胸を張ってロングソードを肩に担いでいた。


 相変らずEKを出そうとしていないところが、なんともアオイらしい。


「また瞬殺だったね」


 調理器具をかたづけていたヒナギクが真剣な表情を浮かべていた。


 ヒナギクの目から見てもアオイの実力は圧倒的なものだったのだろう。


 タマモにとっては強いと言うのはわかるのだが、どれほどまでに強いのかがよくわからなかった。


「ヒナギクさんから見ても、アオイさんは強いんですか?」


「うん。そうだね。少なくとも現状であの人に勝てるプレイヤーはいないんじゃないかな? まぁ、私も全プレイヤーの対戦を見たわけじゃないから断定はできないけどね」


 ヒナギクははっきりと言いきった。


 断定できないとは言っているが、それでもアオイが現状における最強のプレイヤーだと言ったのだ。


 タマモ自身、アオイが強いというのはわかっていたが、まさかそこまで強いとは考えてもいなかった。


「PKKたちをまるで子供扱いだもの。あの人たちが決して弱いというわけじゃないことはタマちゃんもわかるよね?」


「……はい」


 そう、アオイはPKKたちをまるで問題視していなかった。


 それこそ路傍の石を見ているかのようであり、興味を持っていないようにしか見えなかった。


 普通PKKたちをあんな風に見るプレイヤーはいない。


 通常のプレイヤーはもちろんPKたちとてPKKたちを特別視するはずだ。


 だというのにアオイにとっては凡百という風に見えているのだろう。


 問題にもならない程度の相手と言う風にしか見ていないようだった。


「いったいどうすればあそこまでの境地に至れるのか、私にはさっぱりとわからないよ。少なくとも対人戦であれば、私なんかよりもはるかに場数を踏んでいるのは間違いないよ。場数だけの問題ではないかもしれないけど」


 ヒナギクはアオイをじっと見つめながら言った。


 その表情は普段のヒナギクらしくないほどに、緊張感を持ったものであり、いまの試合を見てヒナギクの中でアオイの位置づけがはっきりと決まった瞬間でもあったのだろう。


 タマモにとってのアオイは、穏やかで優しい、理想の嫁を体現したような女性だった。


 でもその理想の嫁であるアオイは、戦闘においてはとてつもない実力を持った人物だった。


 いったいどうすればヒナギクにここまで言わせるほどの実力を持てるようになるのかがタマモにはわからなかった。


「まぁ、いまは姫さんのことは置いておこうぜ」


 舞台上のアオイをヒナギク同様に見つめていると、レンがため息混じりに言った。


 アオイのことを気に掛けるのは間違いというわけじゃない。


 なにせアオイたち「三空」も本戦出場を果たしたのだ。


 本戦の組み合わせもランダムとなる。


 つまり次の試合で「フィオーレ」が「三空」と当たる可能性だって十分にありえる。


 とはいえ、決して次の試合の対戦相手となったわけではないのだ。


 あくまでも可能性があるということだ。


 将来的に当たるかもしれない相手よりも、次の試合の相手のことを考えるべきだった。


 もっと言えば、ちゃんと足元を見るべきなのである。


 地に足をつけて戦わねば勝てる試合にも勝てなくなるものだった。


 だからこそレンの言うことは間違いではない。


 もっともその次戦の相手がどのクランなのかもわからないのだから、現状において最大の壁となりえるアオイたちを注視するのも間違いではない。


 だがもっと視野を広げるべきなのは間違いなかった。


 そのことにレンは気づかせくれた。「ありがとうございます」とお礼を言おうとレンを見やると──。


「あぁ、レン様。カッコいいよぉ」


「決して驕らない、その姿勢に痺れますぅ」


「そんなレン様のそばにいられて幸せ、ぽっ」


 ──なぜかレンは囲まれていた。


 それも昼の段階で見た女性プレイヤーを除いても10人以上の女性プレイヤーに囲まれていた。


 その全員が目にハートマークを浮かべているのがなんとも言えない。


「……レンさん」


「……違うんだ。これは違うんだよ、タマちゃん。気付いたらこうなっていたわけで」


「下手な言い訳だねぇ、レンってば。クスクスクス」


 背中がぞくっと震えた。


 顔を向けるまでもなく、ヒナギクがどういうことになっているのかがタマモにははっきりとわかった。


 そしてそれはヒナギクと対峙しているレンにとってみれば言うまでもないことである。


 ゆえにこうなるのもわかりきっていることだった。


「待って。待とう。いや、待ってください、ヒナギクさん! そんな輝かん笑顔を浮かべるのはちょっと待とうよ、ねぇ!?」


「え~? なんのことだか、ヒナギクわかんないなぁ~?」


 笑いながらレンに近づいていくヒナギク。


 そんなヒナギクの顏を見ないようにして必死に片づけをしていくタマモ。


 そしてヒナギクに笑顔を向けられて必死に説得しようとするレン。


 だが、ヒナギクは止まらない。止まるわけがない。


「とりあえず、殴らせてね、レン」


「とりあえずの意味がわからないよ!?」


「あは、問答無用だよ?」


「デスヨネェ~!?」


 レンはそう言って逃げ出した。その後を「逃がさないよ?」と言って追いかけ始めるヒナギク。


「……仲がいいですね、おふたりは」


 しみじみと呟きながらタマモはレンとヒナギクによる追いかけっこを尻目に片づけを優先していく。馬に蹴られる趣味はないのだ。


「誰か! 誰か! ダレカタスケテぇぇぇぇーっ!?」


 プレイヤーがごった返すような会場内でレンの悲痛な叫びをBGMにして、「武闘大会」の2日目も無事に終了するのだった。

 やっぱりレンは「ダレカタスケテ」を言わないとダメだと思うのです←きっぱり

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