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37話 残念すぎるダメな姿。そしてマイナスイオン←

 いつも通りタイトルが若干アレですが、まぁ、気になさらずに←

 舞台上では、タマモたち「フィオーレ」が惜しみない拍手と歓声に包まれていた。


 ヒナギクとレンも賞賛されているが、一番の賞賛を受けているのは、ふたりに挟まれているタマモだった。


「ふふふ」


 アオイは舞台上で泣きじゃくるタマモを見て、頬を染めていた。

 

 端から見ればもらい泣きしていたようにも見えるかもしれない。


 泣きじゃくるタマモの姿に、それなりの事情があるんだろうと思わないプレイヤーはいないだろう。


 語られることのないバックボーンを想像して、感涙してしまうプレイヤーはちらほらといるのだ。


 アオイもそのうちのひとりと思われていた。


 しかし実際はまるで違っていた。


「あぁ、愛らしい。愛らしいのぅ。あのように人前で泣くなんて。ふふふ」


 アオイはタマモの泣き顔を見て興奮していたのだ。


 アオイが見たタマモの泣き顔は恐怖に染まったときのものや、アオイ自身も恐怖に打ち震えていたときのものであり、まじまじと眺められなかったのだ。


 だが、いまはアオイ自身が恐怖に染まってもいなければ、タマモが恐怖に打ち震えているわけではない。じっくりとタマモの泣き顔を観察できているのだ。


 そうしてタマモの泣き顔を観察して思ったことが「愛らしい」という感想だった。


「あの泣き顔をもっと見たいのぅ。あれでも十分すぎるほどに堪能できるが、やはりあの子の魅力を引き出すには、感涙ではダメじゃな。あの子はやはり悲しみの、それこそ信じていた者に裏切られたうえでの涙こそがもっとも愛らしくあの子を彩ってくれるはずじゃ。ふふふ、さぁてどうしたらいいかのぅ」


 アオイは瞳を輝かせていた。その輝きは狂気ゆえのものだった。


 いや、その笑顔自体が狂気に染まりきっていた。


 タマモにはまだ決して見せることのないもの。


 しかしいつかは常に見せることになる姿だとアオイ自身は考えていた。


「……あなたはやっぱり壊れているね、「姫」」


 そんなアオイのそばでアッシリアはぽつりと呟いた。


「ふふふ、壊れている? 結構結構。壊れる程度で、あの子をこの手にできるのであれば、いくらでも壊れるとしよう」


 アオイは上機嫌に笑っていた。


 その目はやはり妖しく輝いていた。その目に、その笑顔に、その言葉にアッシリアは寒気を感じた。


 寒気を感じながらも改めて思った。


(やっぱりこいつにまりもは渡せない)


 アオイにタマモを好きにはさせない。アッシリアは改めて決意した。


 そう決意したのだが、その決意を実現へと向けることはなかなかに難しいことだった。


「あ、アオイさんなのです!」


 不意にタマモの声が聞こえてきた。


 見れば舞台上にいたはずのタマモたち「フィオーレ」が屋台にと戻ってくるところだった。


 どうやらアオイがトリップしている間に舞台を降りたようだった。


 そのトリップもまだ続いているようなので、アオイの本性をタマモに知らせるいい機会のはず、だったのだが──。


「おぉ、タマモや! よく頑張ったのぅ!」


「わふ」


「……え?」


 ──気づいたときにはアオイは、タマモを抱き締めていた。


 その際、バビュンだの、バシュンだのという妙な効果音とやけに強い風が吹いた。


 どうやらタマモの姿を見た瞬間に、飛び付きに行ったようだ。


(なんなの、その迷いのないスタイルは?)


 あまりにも迷いがなさすぎてかえって恐ろしくなるアッシリア。


 しかし当のアオイは目にハートマークを浮かべながらタマモをその胸の中に閉じ込めている。


 いわゆる「ヘヴン状態」になっているかのようである。


 もっともそれはアオイだけに限った話ではないのだが──。


「はぁ~、アオイさんにハグされるとそれだけで癒されるのです。マイナスイオンを感じるのですよぉ」


 ──アオイに抱き締められているタマモはハートマークこそ浮かべてはいないが、鼻の下がだらしなく伸びきっていた。


 現実のまりもの自室でよく見たものであり、現実で「女の子なんだからそういう顔をするんじゃない」と口が酸っぱくなるほどに注意したものだ。


(……あぁ、もうどうしてこんな似た者同士が惹かれあっているのよ)


 どちらがどちらかにドン引きさえしてくれればいいのにとは思うが、現実はアッシリアにはとても厳しい。


「ふふふ、それは我のセリフじゃな。タマモを抱き締めるとそれだけで我は癒されるのじゃ。いわばタマモは存在こそが我にとってのマイナスイオン!」


 くわっと目を見開きつつ、どばどばと派手に鼻血を流しながら暴走しているアオイと、鼻の下をだらしなく伸ばしながらアオイの胸に顔を埋めるタマモ。


 ふたりの言っていることは「おまえらはなにを言っているんだ?」と言いたくなるような内容である。


 どちらとも残念すぎるほどにダメな姿を見せてくれているのに、お互いにお互いを愛でることに集中しているのか、まるでお互いの様子に気づいていないのだ。


 むしろ不思議なフィルターが掛かって、現実の残念すぎる姿が見えていないのではないかとさえ思ってしまうアッシリアである。


 特にさきほどまでは舞台上で拍手と歓声を一身に受けていたはずのタマモの変わりっぷりは目を疑うものがある。


(こいつら、ダメな部分の方向性は違うけど、ダメすぎるほどにダメなところがそっくりすぎるのよねぇ)


 どうしてゲーム内でも現実でも面倒くさい若干アレな連中の相手をしなければならないのか、理不尽さにため息を吐きたくなるアッシリア。


「タマモは本当にかわいいのぉ」


「アオイさんは落ち着くのですぅ」


「……本当に勘弁してよ」


 そんなアッシリアの苦労をよそに若干アレなふたりは、その若干アレな姿で周囲を引かせていく。


 そんな若干アレなふたりを見てアッシリアは大きく、そして深いため息を吐くのだった。

 気づいたらタマモのスキルについて書けなかったというね←

 タマモのスキルは明日にて。今度こそ、たぶん←

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