30話 試合までの時間を
「そう言えば、そなたらの今日の試合は何番目かの?」
試合の展開速度は初日から加速する一方だが、その分試合数が多いため、次々に試合が行われていく。もっとも初日に比べると試合数自体は20パーセントにまで落ちている。
だが、それでも試合数は100を超えているのだから、2日目が終わるのもなかなかに時間がかかりそうだと思いながら、キャベベ炒めを作りながら、返却された皿をアオイに渡したときだった。
不意にアオイが試合についての話を振ってきたのだ。
(唐突ですねぇ)
それまで試合の話など一切していなかったはずだったのに、いきなり飛んできた話題に少しだけ唖然としてしまうタマモ。
しかし今回のイベントは決して「料理コンテスト」ではなく、「武闘大会」なのだからアオイが試合について尋ねてくるのは別におかしなことではなかった。
ただ単にタイミングがおかしいというだけのことであり、実にアオイらしいことだと思いながら、タマモはステータスウインドウを開き、運営から送られてきた試合に関するメールに表示されている内容をざっと読んだ。
「えっと、いま何試合目でしたっけ?」
お知らせには2日目の43試合目と書かれていた。
予選から試合の組み合わせ内容は運営にしかわからない形になっていた。わかるのは当日のそれも試合直前で、舞台に上がろうとしている面々を見てようやくわかるという形式になっていた。
直前まで対戦相手のことがわからないというのは、情報収集がひどく難しいということになる。
次の試合が誰となのかがわかっていれば、その相手のことを調べればいい。
しかし直前になってようやく判明するとなると次の相手への対策は取れなくなってしまう。
対人戦では特に相手への対策が重要となる。その対策が取れないのだ。
自然と試合は白熱したものになりやすくなる。
対策を取られてしまえば、わりと一方的な展開になることも往々にあるものだった。
その対策を取られなくなってしまえば、試合中に対策を取ろうとすれば、自然と一進一退の攻防となり、試合も盛り上がることになる。
一方的な詰まらない試合ではなく、どちらが勝つかわからない手に汗握る試合を。運営が考えている試合展開はそういうものだというのを伝えられているようなものだった。
もっとも一応対策を取れないわけではない。ただそれをするには膨大な量の試合を観戦し、なおかつ事細かく調べ上げなければならないという、非常に手間のかかる作業が必要となるのだ。
そのことを踏まえて、すでに情報を取り扱っているクランもいるようだが、そこまでは運営側も制限していなかった。
そもそも試合中でなければ、「屋台で商売してもいいですよ」と薦めてくる運営なのだから、絶好のビジネスチャンスを損わせるような真似をする気はないのだろう。
基本は鬼畜だが、変なところでは鷹揚さを見せる。なんとも不思議な人たちだなぁと思うタマモだった。まぁ、それはそれだった。
「いまはたしか──」
顎に指を当てながら試合数を思い出そうとするアオイ。
しかしいろいろと忙しかったこともあり、タマモも憶えていないことだった。
当然アオイもよくわかっていないだろう。
もっともそれぞれのクランの試合が近づいたら、メッセージが送られてくる。
それがいまのところ送られてきていないので、まだ試合時間ではないのだろう。
「とりあえず、まだ時間ではないと思いますね」
「そうじゃな。いまのところ我らにも送られてきてはおらぬようじゃし、当分先であろう」
「ですねぇ」
とりあえずまだ出番ではなさそうだとアオイともどもに結論を出したそのとき。
「これより第35試合の準備を始めます。出場者は舞台袖にお集りください」
試合準備のアナウンスが流れた。気付いたらずいぶんと試合が進んでいたようだった。それでもタマモたちの出番まであと8試合あるようだった。
「いまのところ試合準備の方が長いから、だいたい試合と準備の時間が5分くらいよね」
「となるとまだ1時間くらいはありそうですね」
アッシリアとヒナギクはフライパンを振るいながら、苦笑いしていた。
ずいぶんと試合が進んでもまだ終わりそうにないのだ。
となれば、まだ当分はこうして「調理」をしている必要がありそうだった。
「でも、まぁ、あと1時間もしないうちに試合ですし、もう少し頑張りましょう」
屋台でもクランでも代表者であるタマモは肩を竦める面々に向かって笑いながら言った。
その後41試合目が終わるまでタマモたち「フィオーレ」は屋台での商売を続けたのだった。
そして42試合目もあっという間に終わり、いよいよ2日目の「フィオーレ」の試合を迎えたのだった。




