25話再臨セシ鬼
サブタイがとんでもなく物騒ですが、大丈夫です。ただのコメディー回ですので←
アオイによる対タマモ特効を受けつつも、タマモはヒナギクの指導のもと、散々作ったキャベベ炒めをいつものように作り上げた。
「おまちどうさまです、タマモ印のキャベベ炒めです!」
作り上げたキャベベ炒めをタマモはアオイにと差し出した。油通しはきちんとしてあるし、キャベベひとつひとつの大きさも均等にそろえていた。各種調味料もヒナギクの教えから逸脱するレベルに掛けてはいない。どれをとっても完璧と言えるものだった。
「おぉ、これがキャベベ炒めかえ!」
タマモが差し出したキャベベ炒めに目を輝かせるアオイ。手にはすでに箸が握られており、食べる準備は万端だった。「そんなに食べたかったのかな」とタマモはつい笑ってしまっていた。
「……「姫」、期待しているところ悪いんだけど、キャベベ炒めってそこまで絶品というわけじゃないのよ?」
あまりにも期待が大きすぎるアオイに、アッシリアは恐る恐ると言った。アオイは異様なほどに期待しているようだが、キャベベ炒めとはそこまで期待されるようなものではなかった。
とはいえ、不味いわけではない。しかし絶品というほどでもない。よくも悪くも家庭の味であった。
ゆえに期待値が大きすぎても裏切られるだけだ。
だからこそアッシリアは釘を差したのだが──。
「あぁ、タマモが我のために作ってくれた一品か。どれほどに美味かのぅ」
──アオイはアッシリアの話を聞いていなかった。というよりもアッシリアの声が耳にまで届いていなかったようだ。
「……てめぇ、聞いてんのか」
アッシリアの口調が荒っぽく変わる。だが、やはりアオイの耳には届かない。それどころか、アッシリアの存在さえ忘れているようで、その目もその耳もすべてタマモとタマモのキャベベ炒めにだけ注がれていた。
そんなアオイにさらに苛立つアッシリアと、必死に「まぁまぁまぁまぁ」と言って宥めようとするタマモ。しかしアオイは相変わらずタマモのキャベベ炒めに集中していて、タマモたちのやり取りには気づかなかった。
とはいえ、気づいていないのはタマモたちも同じであった。
いましがた「調理」したばかりだというのにも関わらず、タマモの屋台の周りには人がいなかった。初日には常に列が途切れなかったはずのタマモ印のキャベベ炒めのはずなのに、なぜか誰も近づいてこなかった。
だがそれには理由があった。というのもアオイのあんまりな態度に苛立つアッシリアが放つ殺気と威圧感に近寄れるプレイヤーが皆無だからである。
結果3人のやり取りをほとんどのプレイヤーが遠巻きで見守ることしかできないでいたのだ。……ごく一部を除いて。
そのごく一部のプレイヤーはゆっくりと屋台に近づいていた。
そのプレイヤーは笑っていた。いつもは穏やかなのだが、ふとしたときに見せる「鬼」のような姿には誰もがSAN値をごりごりと削られてしまう。そのことをタマモは身を以て、それもこれでもかと知っていた。トラウマになりかねないほどに知っていたのだ。
現にいまもそのプレイヤーによってSAN値がごりごりと削られたほかのプレイヤーたちが泡を吹いては倒れていた。
そんな「鬼」のようなプレイヤーの後ろには折檻を受けた別のプレイヤーが光を失った目で、ぶつぶつと「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」と呟いていた。
そのプレイヤーのあまりにもな姿に倒れずにいたプレイヤーたちが言葉を失っていた。
しかしそんな数々の視線を集めていても「鬼」のようなプレイヤーは気にすることなく歩み続けていた。そして──。
「あれれぇ~? おかしいなぁ~?」
──タマモの屋台にたどり着くやいなやとても明るいが、同時にとても威圧感のある声でタマモに声を掛けた。その声に大きく体を震わせるタマモ。
ゆっくりと声の聞こえた方へと振り向くのと同時に腕が伸びてきた。いきなりのことに「え?」と言葉を失うアオイとアッシリア。
しかしその腕の持ち主はアオイとアッシリアの反応をまるっと無視してタマモの首根っこを掴むと、そのまま持ち上げてしまう。その光景はまるで子猫が首の後ろを掴まれて持ち上げられているかのようだった。
いきなり体が自然と宙に浮いたことと聞き覚えがあるどころか、忘れられない声を耳にして、タマモが恐る恐ると顔を上げると──。
「私たしか仕込みをお願いとは言ったけれどぉ~、「調理」していいよって言っていなかったよねぇ? なのになんで私の許しもなく「調理」しているのかな、タマちゃん?」
──にっこりと笑うヒナギクと、「鬼屠女」の称号がこれでもかと似合う笑顔を浮かべたヒナギクと、ご対面することになったのだった。
まぁ、ひと言で言えば、ヒナギクの最恐っぷりは変わらないということで←顔を反らす




