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24話 苦労人なアッシリア

 タマちゃんが暴走して若干気持ち悪いことを考えていますので、苦手な方はご注意くださいね。

 仕込みを一旦やめてタマモはアオイが注文したキャベベ炒めの「調理」を始めた。


 その仕込み自体もほぼキャベベを切り分けることくらいしかやることがないし、キャベベ炒め自体、その工程は単純であり、時間もさほどかからないので引き受けたのである。


 ほかに理由があるとすれば、タマモにとっての理想の嫁像を体現するアオイにねだられたがためである。


 もっと言えば、アオイにカッコいいところを見せたいという、思春期なっぽいことを考えたがためであった。


 はっきりと言えば、アオイへのポイントを稼ぐため、つまりは不純な動機ゆえである。


 だが、たとえ不純な動機であってもアオイのためにという意思だけは不純ではない。


 ただ理由が不純なだけであって、その気持ちは清純なものだった。


 そう、たとえ視線がすべてアオイの一部分だけに向けられていたとしても。


 アオイが気づていないがゆえにじっくりと観察していたとしても、アオイのために仕込みを止めて「調理」をするという意思だけは清純なものだった。


(美味しいキャベベ炒めを作りますよ! そして──)


『……なんということじゃ。こんなにも美味なものが存在するのかえ。そしてそんな美味なものを作ってくれたのがタマモとは。礼として、その、じゃのぅ。タマモのお嫁さんにしてもらえぬかのぅ?』


 頬を真っ赤にしてアオイがもじもじとしながら、じっと見つめて来るという若干アレなことを考えてしまうタマモ。


 想像している内容が思春期女子というよりも、思春期の男子のようなことなのだが、残念なことにそのことを指摘できる人物は誰もいなかった。


 なにせタマモの脳内でのできごとである。指摘できる人物など存在しない。……ただひとりを除いては。


(……こいつ、またアホなことを考えているなぁ。ほわんわほん顏をしているし)


 そう、アッシリアにはタマモがなにを考えているのかをなんとなく理解できていた。


 さすがは幼なじみだった。しかしそのことに気付いていないタマモは順調に若干アレなことを全力で考えていく。


『タマモや。その、灯りを消しておくれ。……恥ずかしいのじゃ』


『ダメですよ、アオイさん。アオイさんのかわいいところを見られないのです』


『う、うぅ、我の旦那様は意地悪なのじゃ。でも』


『でも?』


『……そういうところもまた好き、じゃよ』


『……オシオキです、いえ、オシオキだよ、アオイ』


『あ、優しく──』


 頬を染めてなぜかベッドの上でタマモを見上げるアオイ。


 そんなアオイをなぜか長身になったタマモが、美化200パーセントくらいの姿のタマモが、まるでひと昔前の少女漫画のキャラクターのように目に星を宿したタマモが見下ろしていた。


 よく見るとアオイの目はハートマークが浮かんでおり、そんなアオイにタマモの理性はぷっつんするという、おまえの性別はなんだよと言いたくなることを考えてしまうタマモ。


 そもそも「エターナルカイザーオンライン」は10歳からプレイできるゲームなため、そういうアレなことはできないという、この手ゲームでのお約束な仕様となっている。しかしいまのタマモはそんなお約束などはるかかなたに置き去りにしていた。


(アオイさんにアオイさんが産んだ子供を抱かせてあげるのですよ!)


 目を光らせながら「調理」を行っていくタマモは、全力で関係ないことを、というか、同性ではどうあっても無理なことを心の中で叫んでいた。


 そんなタマモにアッシリアは「気持ち悪いことを考えているんだろうなぁ」と幼なじみゆえの長年の経験と勘によって気づき、若干引いていた。そしてタマモの妄想と心の叫びを理解できていない、当のアオイはと言うと──。


(ほぅほぅ。油通しをしてからの醤油などの各種調味料で味を調えつつ、キャベベを炒めるのか。たしかにこれはキャベベ炒めじゃのぅ。「明空」の言う通り、単純な工程じゃが、その分作り手の腕がダイレクトに反映される。うむ、たしかに奥の深い一品じゃな)


 タマモの「調理」の工程を覗き込みながら、目をきらきらと輝かせていた。タマモの若干アレな思考と心の叫びにはまるで気づいていなかった。


 もっともタマモの思考と心の叫びに気付いたところで、アオイも若干アレな趣味の持ち主なため、かえって良好な関係のカップルとなることも可能かもしれないのが、このふたりの業が深いところである。


(……「姫」にまりもを渡さないようにするのって無理かもしれない)


 ふたりの姿を一番そばで眺めつつ、アッシリアは心の中で白旗を上げたい気分になった。


 だが、そんなアッシリアの嘆きに気付くことがないまま、若干アレな趣味のふたりはそれぞれの世界に入りながらお互いを見つめ合っている。見つめ合いつつも、一切甘酸っぱさがないのがとてもこのふたりらしいことだった。


 そうしてこのふたりらしい空気を形成しつつつ、タマモ手製のアオイの、アオイによる、アオイのためだけのキャベベ炒めはできあがったのだった。

 とりあえず言えることがあるとすれば、この話の中での苦労人度で言えば、レンとアッシリアはどっこいどっこいというところですね←

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