23話 あの板が憎い!(Byタマモ
えー、余裕で十時間ほどぶっちぎっています、こんばんは←汗
お休みの日は怖いなぁとしみじみと思いますね、はい。
さて、今回はサブタイがぶっ飛んでいますが、内容は、まぁ、うん、タマちゃんのアレなところが爆発しているというところですね。
なぜか復活したアッシリアと一緒にタマモは仕込みを再開していた。
だが、いまはさきほどまでのように単純にキャベベを一口大に切り分けていられるわけではなかった。というよりもタマモは集中できなくなっていた。
「なるほど、なるほど。タマモは屋台を開いておるのか」
「え、ええ。一応ですね。それなりにお金はありますが、ないよりかはある方がいいので」
「ふむ、たしかにのぅ。なさすぎるよりもあった方がよかろう。資金があるのとないのとでは大違いじゃからなぁ」
うんうんとタマモの言葉に頷くアオイ。そんなアオイに笑いながら相手をするタマモ。
一見すれば、フレンド同士での穏やかな会話をしているため、タマモの手が止まり気味になっている風ではある。
しかし実際のところは──。
(あ、アオイさん! それは、それはダメなのです! それはボクに対する特効なのですよ!)
タマモの性癖に突き刺さることをアオイが素で行っているからであった。
ちなみに現在のアオイは屋台の注文口に半ば体を乗り出して、キッチンスペースを覗き込んでいる。それもちょうどタマモの目の前でである。
アオイとしてはタマモと話をするためなのだから、タマモの前にいるのは当然であるし、まさかタマモに特効が入るとは考えてもいないのである。
むしろタマモの手際に集中していて、タマモのあけすけな視線にはまるで気づいていなかった。
(ふぅむ。単純な工程ではあるものの、見事よなぁ。惚れ惚れとするのぅ)
目をキラキラと輝かせながらタマモの手元に集中するアオイ。その光景は母親に調理の手解きを受けようとしている娘のようであり、とても和やかなものだった。
そう、タマモの心情が、現在の心情がわからないかぎりは。
(なんて、なんてことでしょうなのです! あ、アオイさんのお胸があんなに──っ! どうしてボクは板じゃないんですか!?)
アオイがタマモの手元に集中しているように、タマモはアオイの胸をガン見、もとい集中していた。
正確には体を乗り出していることで、ふにゅりと潰れた胸に一点集中していた。
(憎い。ボクはあの板が憎いのです!)
柔軟性と弾力性の極地と言えるアオイのそれが屋台の注文口、古ぼけた板のうえで潰れている。
羨ましいを通り越して憎悪さえ抱いてしまっているタマモ。それこそ血涙しながらアオイが乗り掛かっている板を睨みそうであった。
(……本当にこいつは)
あまりにも露骨なタマモに、血の涙を流しながらアオイとアオイが乗り掛かっている板を見やるタマモに若干引きつつも、相変わらずだなぁと思うアッシリア。
長年幼なじみ兼親友として過ごしてきた日々は伊達ではなかった。
「のぅのぅ、タマモや!」
「は、はい! なんでしょうか?」
不意にアオイが顔を上げた。タマモは一瞬で笑顔に切り替えた。そのあまりの早業に隣で包丁を振るっていたアッシリアは唖然としていた。
(……本当に相変わらずよねぇ)
顔を合わせるのは、そろそろ七、八ヶ月ぶりになるはずなのだが、まるで変わっていないタマモの姿に安心すればいいのか、それとも呆れればいいのか、悩みそうになるアッシリアだった。
そんなアッシリアをよそに若干アレなふたりであるアオイとタマモのやりとりは続いた。
「いま用意しているのはなんなんじゃ? キャベベばかりを刻んでいるようじゃが」
「あ、えっと、キャベベ炒めを作るためなので、キャベベだけになってしまうんですよ」
あはは、と笑うタマモ。笑いながらも目はアオイの顔ではなく、ちょうど目の前にある胸にロックオンされていた。
本来であれば、そんな露骨すぎる視線ではアオイも気づきそうなものだが、当のアオイはタマモのすることはなんでも興味がありそうだった。
さながら小学生の飼い主にじゃれつく大型犬のような光景である。
「キャベベ炒め?」
「現実で言うと、キャベツ炒めですね」
アオイが首をかしげるので、キャベツ炒めと訂正したのだが、アオイはまだ首をかしげていた。
「……「姫」、もしかしてキャベツ炒めを知らないの?」
恐る恐るとアッシリアが訪ねると、アオイは素直に頷いた。
「初めて聞いたのぅ。どんな品なんじゃ?」
「どんなって、キャベツを各種調味料と一緒に炒めるだけのお手軽だけど、奥の深いものよ」
「ほう。そんなものがあったのかえ。知らなんだ」
興味深そうに頷くアオイ。頷くと胸が一緒に動くため、自然とタマモの視線も動いていた。それどころか、思わず生唾を飲んでしまうほどである。
そんなタマモにまた呆れてしまうアッシリアとやはり気づかないアオイ。
「ふむ。興味があるのぅ。ひとつ頼めるかえ?」
「……まだ仕込みの段階なのだから、提供できるわけがないでしょう。無茶を言わないの、「姫」」
「むぅ、我は「明空」には聞いておらんもん! 我はタマモに言っておるのじゃ!」
「……子供か、あんたは」
「人は誰しも親の子供であろうが」
「そういうことを言っているんじゃないの!」
「うるさいわい、このお小言ババア!」
「あぁ!? 誰がババアだ、てめえ!」
「な、なぜ怒るのじゃ!?」
「怒らないわけがねえだろうが!」
アッシリアがそれまでの穏やかそうな口調からとても荒っぽくなってしまう。あぁ、こういうところはアリアと似ているなぁと思いつつも、アッシリアに襟を掴まれて涙目になっているアオイをかわいいなと思ってしまうタマモだった。
「ま、まぁまぁ、アッシリアさん。落ち着いてください。キャベベ炒めならすぐできますので」
「だけど」
「せっかく食べたいと言ってくれているのですから、一食くらいなら問題ないです。なのでアオイさん。少しお待ちくださいです」
「ほ、ほれ見ろ、「明空」! タマモはこう言うておるぞ!? やはりタマモは心優しいのじゃ! どこかの誰かとは違っての!」
涙目になりながらも引き続きアッシリアを挑発するようなことを言うアオイ。そんなアオイに舌打ちをするアッシリア。
「仲がいいなぁ」と思いながらタマモは仕込みの手を止め、キャベベ炒めの「調理」を始めたのだった。




