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18話 悲鳴と悪魔とフォーク

 若干サブタイがあれですが、まぁ、そういう内容です←

「武闘大会」2日目──。


 現実世界では同じ日だが、ゲーム内、それも「闘技場」内の限定では今日で2日目になる。


 ログアウトせずに、日を跨ぐなんて初めてだなと新鮮な気持ちになりながらタマモはベッドから起き上がると──。


「ひ、ヒナギクさん、もう勘弁してください!」


「なぁ~に? 聞こえなぁ~い?」


 ──なぜか朝からすでに悪魔モード化したヒナギクとそんなヒナギクの前で正座しているレンがいた。


 よく見るとレンは半ば泣いていた。そしてヒナギクの手にはなぜかフォークが握られている。……若干先端の色が変わっているように見えるのは気のせいだろうか?


「……なにをしているんですか? ヒナギクさんもレンさんも」


 ふたりの行動に若干引き気味のタマモ。タマモに声を掛けられて悪魔モードのままで振り向くヒナギクと「助けが来た」と涙目になって満面の笑みを浮かべるレン。


(……同じ笑顔というくくりのはずなのに、どうしてこうも印象が違うんですかね?)


 ヒナギクとレンの笑顔はそれぞれに異なっているが、どちらにしろ引いてしまうタマモ。

 

 悪魔モードのヒナギクの笑顔も怖いが、涙目で満面の笑みを浮かべるレンも怖いのだ。


 ヒナギクは根元的な恐怖を抱かせてくれるが、レンの場合は背筋が寒くなる、なんとも言えない恐怖を与えてくれるのである。


(うちのクランは朝からかっ飛ばしていますよねぇ)


 しみじみとそう思いながら、とりあえずふたりの話を聞くことにした。そう、ふたりから話を聞こうとしたのだが、話をしたのはヒナギクだけだった。


「「炉痢魂」の話なんて聞かなくてもいいよね?」


「いや、そういうわけには」


「聞かなくてもいいよね?」


「で、ですから」


「……聞かなくてもいいよね?」


「……はい」


 タマモとしてはふたりそれぞれの話を聞こうとしていたのだが、ヒナギクの笑顔の前にタマモは完敗し

た。見惚れたのではなく、単純に恐怖したからである。


 なにせ最後は笑っているはずなのに笑っていなかったのだ。笑っているとタマモには認識できなかったのだ。


 さすがは悪魔モードの笑顔だとタマモは思う。それを朝から向けられるなんてどういう了見だろうか。


 逆に言えば朝からヒナギクを悪魔モードにさせるなんて、レンはいったいなにを──。


「この「炉痢魂」さんさぁ、私が起きたらタマちゃんを襲っていたんだよねぇ」


「……ほぇ?」


「だ、だから襲っていないよ! 単純にベッドを間違え──」


 思わぬヒナギクの一言に固まるタマモ。そのヒナギクの一言に慌てて撤回しようとするレンだったが、ヒナギクが「あは」と楽しげに笑いながら握っていたフォークをレンの足の裏に突き刺したことで強制的に黙らされてしまう。


(……あぁ、あのフォークってそういう意図で)


 なぜ朝からヒナギクはフォークを握っているのだろうと思っていたが、その意図をようやく理解できた。


(……致命傷にはならないものでなおかつ満足には動けない相手を一方的に攻撃するって、わりと酷いような)


 ヒナギクの所業はまさに「鬼屠女」だとつい思ってしまったタマモ。

 

 だが当のヒナギクは攻撃の手を緩めない。ザクザクと小気味いい音を立てさせながら笑っていた。……その音を立てさせている物体がなんであるかは、もはや語るまい。


「へぇ~? 間違えた。間違えたかぁ~? どう間違えたらタマちゃんを後ろから抱っこしながら耳をはむはむと甘噛みするなんてふざけたことになるのかなぁ~? ヒナギクわかんなぁ~い」


 笑っているはずなのに、顔色を変えず、フォークで突き刺しながらも一息で言い切るヒナギク。


 よく見るとヒナギクの笑顔には陰影がかかっていた。


(……ボクはなにも見ていないのです)


 タマモはそっと顔をそらした。


 この世には認識してはならないことも往々にしてあるものである。


 ゆえにタマモは顔をそらした。


 目の前で行われていることを認識してはいない。


 いや、目の前ではなにも行われてなどいないのである。


 ザクザクと小気味いい音が絶えず聞こえてなどいない。


 レンの小さな呻き声など聞こえてなどいない。


 なによりもちょっぴり耳が湿っているなぁなどと感じてもいないのである。


 タマモはなにも言わずにそっとベッドから立ち上がり、そそくさと部屋の入り口に向かっていく。


「た、タマちゃん? ど、どこに?」


「え、えっと、昨日もお客さんがいっぱい来てくれたので、その仕込みに行ってきますね」


「あぁ、そうだね。仕込みをお願いするね、タマちゃん」


 ニコニコと笑うヒナギク。その手が絶えず振り下ろされているように見えるが、きっと気のせいだろう。


「で、ではまた後で」


「ま、待って、行かないで、タマちゃぁぁぁーん!」


 レンの悲鳴じみた叫び声が聞こえる。しかしタマモは振り向くことなく部屋を出た。


 その後、部屋の中からはレンの悲鳴が絶えず聞こえたというが、それはまた別の話になる。

 フォークは地味に武器ですので←

 某らじおでは←ぼそり

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