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16話 一日目終了

「──最終試合開始」


 無情に響いたアナウンス。


 会場内の雰囲気は完全にアオイたち「三空」のアウェイと化していた。こんな一方的な内容が許されるのかとタマモは憤慨していた。


 しかしどんなに憤慨したところでいまのタマモの力ではどうすることもできなかった。仮に無理にアオイを応援したところで、そのしっぺ返しを喰らうのはほかならぬタマモ自身であり、そのタマモとクランを組んでいるヒナギクとレンだ。


 自身を応援したせいで、タマモたちに被害が及ぶことをアオイは決して望まない。そうヒナギクとレンに説得されたタマモは、悔しさを押し殺しながら声に出さずにアオイを応援していた。


(せめて無事でいてください、アオイさん)


 勝ってほしいとは言わない。いや、言えるわけがない。この状況でかつアオイひとりでPKKの10人を、それも選抜された10人をアオイひとりで倒せるわけがなかった。そんなことはアオイのクランのメンバーである残りのふたりもわかっているはずだった。


 しかし残りのふたりは動く気配はない。アオイだけに戦わせるつもりのようだった。


(アオイさんがなにをしたんですか! ひとりでなにができるんですか!)


 タマモは唇を噛み、拳を握りしめながら舞台上の光景を涙目になって見つめていた。いつもは悲鳴を上げて涙目になるが、恐怖によっての涙だが、今日の涙は悔しさによるものだった。


 しかしその悔しさをいまはただ受けとめることしかできない。


(もっと強くなりたいのです。もっと、いまもよりももっと強く!)


 これから舞台上で行われるであろう私刑じみた光景に耐えることしかできない。そうタマモは思っていた。だが、そんなタマモの決意と覚悟はあっさりと裏切られることになる。


「──ぎゃーぎゃーと喚くなよ、下郎」


 赤い虎縞模様の鎧を身に着けていたPKKのリーダーへとアオイは剣を一閃させた。その瞬間から会場の雰囲気とは、アオイの負けを期待する雰囲気とは真逆の情況になった。


「クラン「炎の絆」のマスターが戦闘不能になりました。「炎の絆」は敗退となります」


 無情に響いたアナウンスは再び無情さを響かせた。しかしそれはさきほどまでのものとは違い、PKKたちにとっての無情へと繋がった。


「あ、アレン!」


 もうひとりのリーダーが叫ぶ。冷静そうな見た目からは信じられないような焦りがその声には込めれていた。その焦りの声とともにアオイは行動していた。


 後方にいた魔導師たちを、すでに敗退していた「炎の絆」のメンバーもまとめて襲い掛かったのだ。そのことにまだ敗退していなかった「ブリザードヴォルフ」のリーダーが怒りに燃えた。その怒りのまま、手に持った弓のEKでの一矢を放ったのだ。


 弓系の武術を使うにはアオイとの距離は近すぎたからだろう。それでも武術は使えなくても矢を放つことはできるようで、全力の一矢をアオイに放った。そう、全力の一矢だったのだろう。だが、その一矢をアオイは人差し指と中指の間で挟みこむようにして受け止めたのだ。


「ブリザードヴォルフ」のリーダーの唖然とした表情がやけに鮮明に映った。その後、「ブリザードヴォルフ」のリーダーにもアオイは剣を一閃させた。そして──。


「クラン「ブリザードヴォルフ」のマスターが戦闘不能になりました。「ブリザードヴォルフ」は敗退となります。クラン「三空」以外のクランの敗退ないし棄権を確認しましたため、クラン「三空」の勝利となります。予選一回戦すべての試合が終了いたしました。「武闘大会」一日目は終了となります。二日目は明日の午前8時より開始となります。なお第一試合の出場クランは後ほどメールにてご連絡させていただきます」


 矢継ぎ早に告げられるアナウンス。その内容をぼんやりと聞きながら、タマモは舞台を見つめていた。剣を肩に担いで笑うアオイを見つめていた。


 だが、アオイを見つめていたのはタマモだけではない。会場内にいたほぼすべてのプレイヤーがアオイを見つめていた。


「ぴ、PKKの選抜チームが瞬殺?」


「う、嘘だろう」


「ど、どうなっているんだよ」


 静かだった会場内がざわめきだす。しかしそのざわめきを気に掛けることなく、アオイは舞台から降りていく。それは残りの「三空」のメンバーも同じだった。舞台に残っているのは、それぞれのリーダーを一蹴されたPKKの選別チームの、高い士気を誇っていたはずの選抜チームたちの魂さえも抜けたような、変わり果てた姿だけだった。


「……なんだよ、あれ」


「……心配して損したね」


 ヒナギクとレンの表情が凍り付いていた。普段見ることのないふたりの姿にタマモはなんて言えばいいのかわからなくなってしまった。だが、そうしている間にもアオイは会場内から離れて行く。追えばいいのか、それともふたりに声を掛ければいいのかもわからなかった。


 そうして悩んでいるうちにアオイたちの姿をタマモは見失ってしまったのだった。


「アオイさん、あんなに強かったんですね」


 見失ってしまったアオイ。しかしその強さは、いや、その戦う姿はたしかに「悪魔」と称されるのもわかるほどに恐ろしいものだった。だが、普段のアオイはとても優しい。普段の姿と戦闘時の姿のギャップがありすぎて、同一人物とは思えなかった。


(いったい、どっちが本当のアオイさんなんでしょうか)


 タマモが抱いた疑問に答えられるプレイヤーは誰もいなかった。その疑問を抱えたまま、タマモはヒナギクとレンとともに「フィオーレ」用に用意された部屋へと向かった。その間ヒナギクとレンはタマモに向けてなにも話さなかった。ただひと言だけ呟いてはいた。


「あれがこのゲームの本当のトップの実力か」


「思っていた以上にすごいね」


 ふたりはそれぞれに呟きながら笑っていた。その笑顔はどこか戦闘時のアオイを思わせるような少しだけ怖いものだった。


 その笑顔にわずかに怯えながらも、タマモはふたりと一緒に部屋へと向かった。こうして波乱の「武闘大会」の一日目は終了したのだった。

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