13話 銀髪の悪魔
無事に更新できました。
体調はまだ完璧ではありませんが、頑張ります。
「予選一回戦最終試合を始めます」
ついに予選一回戦の最終試合の時間となった。
タマモたち「フィオーレ」の試合では舞台の損傷はほぼなかったこともあり、準備時間はさほど長くかからなかった。
「いよいよ、これで終りだね」
「これが最終試合だもんな」
長かった初日もこれで終る。だからか、自然と最終試合を観戦しようとするプレイヤーの数は多かった。
なかには後で動画がアップされるだろうからとすでに用意されている部屋に引き込み、明日以降の話し合いをしているクランもいるだろうが、ほとんどのプレイヤーは最終試合の観戦を選んだようで、舞台の周囲は多くのプレイヤーで混雑していた。
だが、混雑する中でも出場者は優先的に席を用意されているため、タマモたち「フィオーレ」は混雑する中でも比較的余裕をもって観戦できる席に座っていた。
「うわぁ~、みなさんカッコいい装備をしていますねぇ」
舞台に最終試合の参加者たちが上がっていく。どのクランもかなり高価そうな装備を身に着けている。そのうちふたつのクランは同じ意匠の装備を身に着けていた。その姿を見て、どよめきがあがる。
「おいおい、マジか! またPKK同士の戦いかよ!?」
誰の声だったのかは定かではないが、その言葉にどよめきが増していく。PKK同士の戦い。第八試合でも見たような高レベルの戦いが最終試合で再び行われるということがわかり、会場内の熱気は徐々に増していく。
「マジかよ、PKKと同じ組って最悪じゃんか」
がくりと肩を落とすふたつのクランは、明らかにお通夜ムードになっていた。かなり高価そうな装備をしているが、それでもPKKのチームには敵わないと考えているのだろう。
装備を見るかぎりは、ほかのクランとて前線での攻略組なのだろうが、PKKのチームにはどうあっても勝てないと考えているようだった。
「PKKと攻略組だとPKKの方が強いんですかね?」
タマモはヒナギクとレンに尋ねていた。二つのクランは弱そうに見えない。むしろかなりの強豪だろうと思っていた。
その強豪たちが早々に予選突破を諦めている風である。
たしかに第八試合での一騎打ちは凄まじかった。だからと言って、最終試合に登場したPKKのチームが第八試合のような激戦を行えるとは限らないとタマモは思ったのだった。
「ん~。ゲームにもよると思うけどね。PKKって対PKのためにステータスが高めなことが多いんだよね。攻略組も相応に高いとは思うけれど、PKKには劣るんじゃないかな?」
「それと装備の質もPKKのチームの方が高そうだよね。仮にプレイヤースキルが同じくらいだったとしたら、あとは装備の差が響いてくるし。もちろん装備がいい方が必ず勝つってわけじゃないだろうけれど、少なくとも優位性はあるよねぇ」
「そのプレイヤースキルにしても、常に対人戦を行っているだろうPKKには敵わないだろうし。ああしてお通夜ムードになるのも仕方がないと思うよ」
「なるほど」
たしかに対PKであるPKKのプレイヤーは常に対人戦を行っているようなものなのだから、今回のような「武闘大会」ではかなり有利だろう。
そのうえPKKでも選抜されたチームとなれば、より水準は高くなるうえに、装備もまた高性能なものを支給されるはず。
となれば、たしかに攻略組と言えど、分はひどく悪い。それこそ試合開始早々にギブアップを告げてもなんら恥でもないくらいにはだ。
むしろ攻略組として腕を鳴らしている側としては、下手に惨敗した姿を衆人観衆の前で晒すのは憚れるのかもしれない。
なかには惜敗まで持ち込めるクランもいるかもしれないが、自分たちのクランがそこまで行けるかどうかはクランのマスターが一番わかっていることだろう。
「あー、運営さん。俺たち棄権するわー」
「同じく。やってられんわ」
お通夜ムードから一転することなく、ほかのふたつのクランは残りひとつのクランが登場する前に棄権を宣言していた。その宣言を聞き、アナウンスが流れる。
「承知しました。クラン「那由多」とクラン「画竜点睛」の棄権を受諾します」
お通夜ムードのクランふたつの棄権を受諾したことがアナウンスで流れていく。
試合開始されてもいないのにクランが半減してしまった。
これでは残りひとつのクランも棄権するだろうという雰囲気が会場に漂い始めた。その雰囲気の中最後のクランが舞台に上がった。
「クラン「三空」舞台へと上がってください」
アナウンスが流れた。しかし会場内にいるプレイヤーたちは誰も上がってこないだろうと思っていた。
タマモもこの雰囲気の中で誰も舞台に上がるはずがない。そう思っていた。だがそのアナウンスとともに舞台に三人のプレイヤーが上がっていた。
「おいおい、マジか、あいつら」
「勇気あるなぁ」
「いや、無謀だろう」
周囲から聞こえる声は「三空」というクランに注がれていく。
誰もがPKKの選抜チームのための試合と考えていた。ゆえに早々にあの三人は脱落するだろうと思った。そのため注がれていた視線は同情と憐憫。誰も期待などしていなかったのだ。しかし──。
「アオイさん?」
──タマモは「三空」を見て気づいた。メンバーの中にアオイがいることに。アオイがどれほどのプレイヤーであるのかはわからない。
しかし知り合いであり、理想の嫁像であるアオイが参戦するとなれば、応援せずにはいられなかった。
「レンさん、ヒナギクさん! アオイさんを応援しましょう」
「ん~。まぁ、顔見知りだしなぁ」
「誼で応援するのもありかもね」
タマモの熱に渋々とだが頷くヒナギクとレン。そうして「フィオーレ」が一丸となってアオイが所属する「三空」を応援しようとしていた。
「さて、「明空」と「宵空」よ。この試合は我だけでよい」
「承知いたしました、「姫」」
「了解。でも、ひとつだけアドバイスしておくよ」
「うん?」
「……初撃は避けてね。絶対に防御してはダメ」
「ふふふ、承知した」
アオイは笑っていた。笑いながらその姿を隠していたフードごとマントを放り投げた。その瞬間、会場内から音が消え去った。
マントが宙を舞う。ばさばさという音だけが会場内で響いていく。その異様さにタマモたちは首を傾げた、そのとき。震えるような声が聞こえてきた。
「あ、悪魔?」
「ぎんぱつの?」
「ぎ、「銀髪の悪魔」だぁぁぁ!」
叫び声が響く。その叫び声を皮きりに会場内はPKKたちが現れたときよりも、数倍も大きなどよめきに包まれたのだった。




