表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/984

プロローグ

 新作始めます。

 とりあえず三が日は一日四話ずつ更新する予定です。

 まずはプロローグになります。

 闇が広がっていた。


 見渡す限りの闇。誰かがいたとしてもわからないほどに、そこは闇に覆われていた。


(……いますね)


 だが、そこに「彼女」がいることをタマモは感じていた。


 左右に握る得物を何度か握り絞めた。ここまで来るだけでも激戦だった。


 しかしいままでの戦いはこのときの前座にしかならない。


 ここからが本番だった。大きく息を吸い込んでから、一歩闇の中へと踏み込んだ。


「……遅かったの、タマモや」


 闇に踏み込むと「彼女」の声が聞こえてきた。


 同時に闇の中に青白い炎が不意に現れた。


 炎は一定の間隔を空けて左右に別れると、やはり間隔を空けて奥へと向かっていく。


 炎はまるで「彼女」の元までの道しるべのようだった。


「ふふふ、なにを呆けている? さぁ、奥へと来るがいい」


「彼女」は笑っている。とても楽しそうだ。だがタマモとしては楽しくはない。


 ただ楽しんでゲームをしたいだけだし、「彼女」のことを嫌っているわけではないし、もう憎しみはない。わだかまりはまだわずかにだが、しこりのように心の中に残ってはいる。


 しかしそれは相手もまた同じだ。


 いわばお互いにわだかまりを抱き合っている。であればこれ以上お互いに言い合う必要はない。


 争いは憎しみしか産まない。そもそもゲームの中で憎しみ合っても無駄なことだとタマモは思えるようになっていた。


 だが、「彼女」は──アオイはそう思ってはいないようだった。


「……アオイさん。もうボクらに余計なちょっかいを出すのはやめてくれませんか?」


 奥へと向かって歩く。炎はだいぶ先にいるが、それ以上奥には行こうとしていない。


 一旦止まっているだけなのか、それともそこが終着点なのかはまだわからない。


「余計なちょっかい?」


「ボクらはただ楽しくゲームができればいいのです。たしかにPvPやGvGはできる仕様となっているゲームですが、それでもこうして潰し合いなんてする必要はないのです」


「……」


 アオイは答えなかった。ほんのわずかに舌打ちをする音が聞こえてきた。


 どうしてこうもお互いの意見が合わないのか。いや、アオイは聞いてくれないのか。タマモは少しだけ悲しくなった。


「最初の頃にボクは戻りたいのです。最初にあなたと会ったときにボクは──」


「黙れ」


 苛立った声とともに闇の中で銀髪が翻り、風が肌を打った。


 最上級の移動専用スキル「縮地」を使ったのだろう。


 駆け寄ってきたにしては音がなかった。


 間違いなく「縮地」を使って距離を詰め、そして一撃を放ってきた。


 たしかに速い。速いが反応できないわけではなかった。


 左右の得物を交差するように構えた。すぐに全身を衝撃が駆け巡っていく。


 踏ん張ることはできず、数メートルほど後方に飛ばされてしまった。


 無用心に近づきすぎてしまった。着地のために体勢が崩れてしまう。その隙を見逃すアオイではないはずだ。


 まずいとは思ったが、飛ばされてしまった以上はもうどうしようもない。


 せめて後の先を取れるように、初期クールタイムなしの武術アーツである「双破斬」を選択した。


 そして着地と同時に「双破斬」を発動させようとして、ふと違和感に気付いた。


(攻めてこない?)


 アオイはタマモを吹き飛ばしたままの体勢でいた。


 動く気配はなく、その手にある身の丈を超えた得物を肩に担いだまま動こうとしていなかった。


 アオイらしくないことだと思ったが、その理由はすぐにわかった。


「言うたであろう、タマモや。貴様がしたことを我は忘れぬ、と」

 アオイは苛立っていた。それもいままでになく、だ。


 せっかく整った顏が怒りに歪んでいることは想像に難くない。


 勿体ないとは思うが、いまそれを言うと逆効果にしかならないことをタマモはわかっていた。


「……それを言うのであれば、あなたがしたことをボクは忘れていませんよ」


「はっ! 所詮はデータだけの存在であろうが。あの程度のことをいつまでも気にするとは小さいものよ」


「あの程度?」


 ずっと心の中に残っていたしこりのようなわだかまりがあった。


 あくまでもしこりのようなものにはなってくれた。どんなに怒り悲しんだところで、時間の流れはその怒りも悲しみも呑み込んでしまう。


 だがその呑み込んだはずの怒りと悲しみがアオイの言葉によって再燃してしまった。タマモは強く両手を握りしめた。


「なんじゃ? 怒ったのか? あははは! かの「フィオーレ」のマスターがたかがデータにご執心とはな。笑わせて──」


「……黙れ」


「っ!?」


 セットしていたスキル「縮地」で距離を詰め、左右の得物を一度ずつ全力で振り抜いた。


 アオイもその手の得物で防いだが、アオイの方がSTRの数値は高いため、吹き飛ばすことはできなかったが、後退させることはできた。


「ふ、ふふふ、まさか「縮地」をそなたも使えるとはな」


「……あなたも使えるんですね、アオイさん」


「あたり前であろうが。我を誰だと思っている?」


 アオイが手を掲げると灯りがついた。


 灯りによって周囲を見渡せるようになったが、見渡せるようになったことをタマモは少しだけ後悔した。


「……悪趣味、ですね」


「ふふふ、褒め言葉として受け取っておこうか。なにせ我は──」


 炎を道しるべにした理由も頷けた。


 なにせ一歩踏み外せばそれだけで「死ぬ」仕様なのだから。


 炎の道しるべの外側は底の見えない穴になっていた。


 落ちたらまず助からない。そしてアオイにはタマモをいつでも穴の底へと落とすことができる。


 STRの差もあるが、それ以上に得物の違いが大きかった。


「我は「しゃもじの魔王」アオイであるぞ?」


 アオイは得物である身の丈を超えた、漆黒のしゃもじこと──「獄刀おしゃもじ」を上段に構えた。


「さぁ、そなたも構えよ。「おたまの英雄」タマモよ」


「……あんまりその称号は好きじゃないんですけどね」


「ふふふ、奇遇よな。我もだ。だが、不思議じゃの。このゲームの中では自然とその名を口にしてしまう」


「そうですね」


 アオイの言うことはタマモも常々感じていることだった。


 だが、いまはお互いの認識をすり合わせている状況ではなかった。それでももう一度だけあえて言っておきたかった。


「もう一度だけ聞きますよ、アオイさん。元のボクとあなたに戻るつもりは」


「くどい!」


 アオイが「縮地」を使う。その姿が一瞬だけ見えなくなったが、黙って攻撃を喰らうほどタマモもバカではなかった。


 アオイの「縮地」からほぼ間を置くことなく、タマモもまた「縮地」を発動させた。すでにクールタイムは終わっていたので問題なく使用できた。


 すでにアオイは当初の半分ほどに距離を詰めていた。


 タマモも負けじと距離を詰め、得物であるふたつを、右に握る「世界をすくうもの(おたま)」と左手の「世界をおさめしもの(フライパン)」で攻撃を仕掛けた。


 アオイもまた「獄刀おしゃもじ」で斬りかかってくる。


 お互いに神速の域に達した状態からの攻撃はまるで空間が破裂するような音を奏で、お互いの得物がぶつかり合うたびに稲妻のような強い光が起こっていく。


「ふはははは! さすが、さすがよな、タマモ! それでこそ我が好敵手! だがそれも今日までよ。今日こそは貴様を完膚なきまでに叩きのめさせてもらおう!」


「それはこっちのセリフです!」


 アオイの笑い声を聞きながら、タマモは「世界をすくうもの」と「世界をおさめしもの」を交互に振った。


 しかしアオイは「獄刀おしゃもじ」を一閃して防いだ。


 甲高い音が鳴り響き、両手に衝撃が走るもタマモは手を止めなかった。


 それはアオイもまた同じで、タマモの手数を一撃で潰そうとする。


 まだ始まったばかりの戦いであるはずなのに、互いの一撃は裂帛の気合とともに放たれていく。


 後にこのときのふたりの戦いは「エターナルカイザーオンライン」における最高の名勝負ないし、伝説の決闘と謳われることになる。最高とも伝説とも謳われるようになる決闘はこうして始まった。

 連載中の「なんでも屋」にも出て来るタマちゃんが主人公となります。

 少しだけリンクするところもあるかもしれませんが、お楽しみいただければ、と思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 今から一気見するんですが主人公が男とくっついたりしませんよね?百合百合な小説ですよね?
[一言] アオイが所詮データの存在と言っていたがプレイヤーもゲームに入っている以上データの存在では?その癖、自分はそのデータの事で怒っている。 察するに自分はnpcと違って特別だ!!みたいな感じなのだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ