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月に舞う

作者: タチバナ

はじめてwebに文章をアップします。


これは、趣味で書いている戯曲です。

使う機会が無いので投稿してみました。


とても分かりにくいですし、見慣れない形式で読みづらいですし、小説に比べ改行がおかしいので読みにくいのですが、大切な物語ですので、読んでいただけると幸いです。


戯曲と言う形式をとっていますが、もし、一人でも読んでくださる方がいらして、戯曲だと読みにくかった。もっと読んでみたい、と言う方が居ましたら、小説に直したりしたいので、コメントをくださると幸いです。


また、興味を持った方の中で上演してみたいという方がいらしたら連絡をください。

台本提供なんでも受け付けます。



どうぞ、よろしくお願いします。

月に舞う


登場人物

 西野


 遠野


 先輩


 客


 本屋ジャンク堂。しかしそこには、山のような数の本は無く、申し訳程度の数の本が散りばめられているだけだ。中央に存在感のある机が一つ。しかしそこには誰も居ない。ここに一人の男がバイトの面接にやってくる。


男     失礼します

店長    はいどうぞ

男     (椅子を探すが椅子が無いことに気が付き)…

店長    どうしたの。何かあったの?

男     いや、逆に無いんですよ!

店長    え?

男     すみません…その椅子が無くて…

店長    (笑い)ああ!これは悪いことをしたね。ごめんごめん。ささ、これに座って

男     (椅子を取り出し)やりにくいな。はあ、ありがとうございます

店長    君は…西野君だね

男     はい

店長    好きな本は?

男     え?

店長    好きな本を聞けばその人の人柄、趣味、教養はそれくらいあるかがすぐにわかる。だから私は好きな本を聞くことにしているんだ

男     なるほど

店長    さあ聞かせてくれ。君の好きな本は何だい?

男     えーーーっとですね


 チク、タク、チク、タク。音が聞こえる。それは何かをたたく音か、あるいは何か刻む音か。チク、タク、チク、タク。音がする。やがて

音は声へと変わり、二人の人間が現れる。彼らは男を中心に回り始める。短針と長針だ。男は何が起こったのか見当もつかず混乱する。


短針    チク、タク、チク、タク音がする

長針    チク、タク、チク、タク声がする

秒針    チク、タク、チク、タク叫んでる

男     幼いころ、夜に寝るのが怖かった

針     チク、タク、チク、タク

男     叫ぶようで

針     チク、タク、チク、タク

男     刻むようで

針     チク、タク、チク、タク…(やがてその声は男の後ろで流れ続けている)

男     幼いころ、夜に寝るのが怖かった。寝よう寝ようと目を閉じると聞こえてくる(間)刻む音。まるで僕を追い詰めているような。退路を断っているような。だから僕は怖かった。逃げ場を無くされ、ただ、時間の流れにその身を投じろと言わんばかりにまくしたてるような音。音。音…だから僕は逃げ出した。その音から、時間の流れから。布団をかぶると、そこは静寂…何も僕を

責め立てるものはなく、まるで母親のお腹にいる赤ん坊のような。そんな気持ちだったんだろう。だけどこのままではいけない

(短針に代わる)

短針    (中央に座り)過行く時の流れの中で、全てのものは風化する。時の流れに乗らず風化していく建造物。彼らは遺跡へと名前を

変える。しかし人は違う。流れに乗らない人間はいずれ皆に忘れられていく


 やがて短針は少年へと姿を変える。すると拍手の音が聞こえる。少年の授賞式だ。しかし舞台の上に少年以外の人間はおらず、そこには

時計の針しかいない。針は絶え間なく動く。チク、タク、チク、タク。やがて声が聞こえるが、人はいない。


司会    今年度の美邦賞の受賞作品は、遠野さんの、『月に舞う』で決定いたしました!おめでとうございます

声     おめでとうございます!(絶え間なく光るフラッシュ)

少年    ありがとうございます

司会    なんと遠野さんは14歳という美邦賞史上初、最年少での受賞となります!

少年    ありがとうございます、ありがとうございます

長針    人は時間にしがみつく、人は歴史を作れない。

先輩    てんちょー!!


 長針の一言を皮切りに時計は進むのを止める。男はエプロンを着ておりブックセカンドで働き始めている。そこには男のほかに一人の女が仕事をしている。先輩だ。そして顔なじみの客が一人、彼はずっと立ち読みをしている。


先輩    てんちょー!てんちょー!

客     もー止めてくださいよ!わかりました。もうやめますから!(本を棚に戻す)

先輩    なに言ってるんですか。うちは立ち読み禁止ですよ

客     そんなぁ。お金が無いんですよ!わかってくださいよ、浪人生の懐の寒さを

先輩    そんなこと言われてもなぁ

客     そうだ!確か山田君だって浪人生だったよね!君なら僕の気持ちもわかるでしょ!ね!何か言ってよ

西野    え…まあ浪人っていうか、ただのフリーターですけどね…

客     あ、ごめん…

西野    いいですよ。別に気にしてないし。望んで大学行かずにフリーターやってるんですから。それに懐の寒さ。わかりますよ

客     だよね!君ならそう言ってくれると思ってたよ!

先輩    ちょっと…

西野    でも、一応僕も仕事中なのでね。立ち読みはお断りしております

客     そんなあ

先輩    西野君もやっと立派な本屋の店員になれたって感じだね

西野    まだまだミスばっかりですけどね

客     いやー、でも最初に比べたらほんと、仕事できるようになったよね

先輩    そうですよ。そもそもこの子、全然本読んだことなかったくらいですからね!

西野    漫画なら読んでるんですけどね

客     本はね、読むべき

先輩    ほんと

西野    店長に言われて読むようにしてます

先輩    へえ、君も言われたんだね

西野    先輩も言われたんですか?

先輩    うん。バイト初めて一か月たったくらいの頃にね

客     ちょっと。何の話ですか!僕も混ぜてくださいよ

西野    まあ、店長の口癖みたいなもんです

客     ほう

先輩    本は作家の人生が圧縮されている。その人が生まれてから、見たもの聞いたもの、感じたものが全てそこに詰まっている

西野    だから賢くなりたかったら本を読め。そう教えられたんです

先輩    本は先人がまとめてくれた人生の教科書だからってね

客     なるほど…これが人生の教科書…(続きを読もうとする)

先輩    だから立ち読み駄目ですって(本を取り上げる)

客     ああああ、あと少しなのに!

西野    何をそんな熱心に読んでるんですか?

客     ああこれ?これはね、遠野七夜先生の「月に舞う」

西野    「月に舞う」…

先輩    あ!知ってます!美邦賞最年少で受賞したって話題になった作品ですよね!

客     そうそう、話題になったけどそういえば読んでなかったなーって

西野    …どうでしたか?

客     え?

西野    その本。面白かったですか?

先輩    ええー、感想求めちゃう?立ち読みしてた客に感想求めるの?

客     んー。ラストまで読んでないから何とも言えないけど、ちょっと良く分からないな

西野    ですよね!

客     うん。言葉が良く分からないんだよね、詩的と言うかポエマーと言うか。こねくり回しすぎてて何が言いたいかわからないんだよ

西野    わかります!もっと普通に話したら良いんですけどね

客     そうなんだよ。僕はそういう言葉が苦手でね…よくあるじゃないか。愛の告白だけでだらだらだらだらと、光ったという間に

  消えてしまう稲妻にそっくりだとか、嬰児の眼をした天使たちの声に合わせるだとか、涙の大海原で溺れさせないでください。

  だの…いちいちねちねちみみっちい!男はね、もっと素直に、ストレートに愛を伝えるべきなんです。(山田の手を取り)お嬢さん。

愛しています!

西野    きゅん♡

客     と、まあこんな風に

先輩    へえー

客     何か言いたいことでも?

先輩    じゃあやってみてくださいよ

西野    え

客     え!

先輩    さあどうぞ

客     あ、あ、あ、愛の告白ですか?

先輩    そうです

客     や、まだくん!

西野    はい!なんでしょうか

客     これは、気があるってやつだよね

西野    え、まあそうなんじゃないですか?

客     いやぁ、どうしましょ

先輩    早くしてくださいよ

客     え、あ、はあ、それでは

先輩    はい

客     愛してます。僕と付き合ってください

先輩    …だめ

客     え

先輩    全然ダメ

客     え

先輩    まっっったくときめかない

西野&客  ええーー!

先輩    女の子は違うんです。素敵な王子様を待っていますから。愛してるや大好きだけじゃ伝わらない。どれくらいか、どうしてなのか。

人生で何度訪れるかわからない告白の時間が「愛してる」の一瞬じゃ寂しいじゃないですか

客     なるほど

先輩    じゃあ次、西野君。今のを踏まえて

西野    僕ですか!?

先輩    うん。ロマンチックにどうぞ

西野    (少し考え)自分の至らなさを思いまして、さしあげたいものも恥ずかしくて差し出せず、死ぬほど欲しいものをくださいという勇気はありません。でもこれは心にもない言葉、隠そうとすればするほど本心が大きく現れてしまいます

先輩    39点

西野    ええ

先輩    悪くないんだけどねー。ちゃんと自分の言葉を使わなきゃ

客     そうだよ。引用なら誰でもいえるだろ

西野    確かにそうですね

先輩    だから私は好きだよ。遠野先生の「月に舞う」

西野    読んだんですか?

先輩    うん。自分の頭の中に広がる世界を何万人もの読者に伝えようと、言葉を選び、紡いでる。それを14歳の子がやってるって

      考えただけですごいよね

西野    どうだか

客     あの時14歳だったってことは山田君とちょうど同い年くらいってわけか。だからそんなに毛嫌いしてるのか

西野    まあそんなところです

先輩    嫌いな割にはよく知ってるのね

西野    一応読んでますよ。あんなに話題になりましたからね

先輩    そう、読んだけど合わないってことね

西野    そんなところです

客     とりあえず僕はラストまで読んでみてそれから決めますね

西野    いい加減にしてください!店長呼んできますよ!(店長を呼びにはける)

客     そんな怒らなくても…


 退場する西野と入れ替わるように少年がやって来る。手には小説『月に舞う』。

すると先輩、客は時を刻み始める。チク、タク、チク、タク。やがて舞台は過去に戻る。


声     賞金は何に使われる予定ですか

声     ずばり今回の作品が生まれたきっかけを教えてください

少年    ええと

声     次の作品はいつ書かれるんですか?

声     全国の読者に一言!

少年    ええと


 戸惑う少年を尻目に、やがて彼らは少年を軸に回り始め、短針長針へと姿を変える。山田が入って来る。秒針だ。


短針    チク、タク、チク、タク音がする

長針    チク、タク、チク、タク声がする

秒針    チク、タク、チク、タク刻んでる

少年    僕は遠野。(本を朗読し始める)

      月にたどり着いた子供たち。家も家族も学校も、何もかもを投げ捨ててたどり着いた夢の国。しかし、皆の顔が晴れることは無い。目の前に広がる光景は楽園と呼ぶには余りにもふさわしくなかった。舗装のされていないむき出しのままの地表。地球と違う体の感覚。電気も水も文明もそこにはない。ただそこにあるのは地面と星空だ。ジャックの体は震えていた。手が先か、足が先か、気づいた時には全身がカタカタと音を立てていた。これからの未来の不安。自分はこの先生きていけるのか、今日一日も乗り越えられるのか。そんな不安でいっぱいだった。「月に舞う。月に舞え子供たち!」叫び声が聞こえ、少年たちの視線は声の主であるラルフへと向けられた。ラルフは周囲を一瞥し、息を大きく吸い込み、言葉を続けた。「月に舞う。月に舞え子供たち。僕らが捨てたあの星は、既に輝きを失っている。今度はここを輝かせよう。派手なネオンや炎でなく、この我々の溢れる元気で。恐れることは無い。道を惑わす悪魔も居なければ、頭の固い政治家もいない。ここは自由の国なのだ。」一瞬何が起きたかわからなかった。皆がラルフを呆然と眺めていると声が続く。ピギーだ。「月に舞う、月に舞え人間よ。そこはもう我々の楽園ではない。大人たちが食い尽くした食べかすだ!我々はどうして奴らの残飯処理をしてやらなければならないのだ!」ジャックの体は震えていた。しかしそれはさっきのような恐怖でない。今日を生き、明日を生き、そして死ぬまで生き抜くためのエンジンがかかったのだ。

先輩    ジャックも続いた。「月に舞う。月に舞え我々よ。地球と言う名の牢獄から逃げ出した、僕らは世紀の大罪人だ。これから世界を

やり直そう。月にウサギは居なかった。だから僕らは…僕らが?僕らの

西野    僕らはこの月で踊ろう

先輩    そうそれ!


 いつの間にか針は消え、舞台上には山田と先輩の二人だけになる。


先輩    よく知ってるじゃん。やっぱ好きなんでしょ

西野    嫌いですって

先輩    西野君にとって本って何?

西野    …人生の教科書でしょうか

先輩    それは店長の受け売りでしょ

西野    …先輩はどうなんですか

先輩    これ、読んでみてくれる?(原稿を渡す)

西野    何ですか、これ?

先輩    小説。書いてみたんだ

西野    小説家目指してるんですか?

先輩    まあね、全然面白くないんだけどね

西野    (慣れた手つきで原稿を読み進めていく)

先輩    早いね。いつもそんな速さで読んでるの?

西野    まあ、店長のおかげですかね

先輩    どうかな?

西野    この文章…

先輩    ばれた?やっぱ似てるよね。

西野    好きなんですか?

先輩    憧れてるんだ。遠野先生に。あの人の本が私を変えてくれた

西野    そうなんですか

先輩    西野君。私にとって本はね、時限爆弾なんだ

西野    時限爆弾ですか?

先輩    そう。時限爆弾。本はね。そこに世界を閉じ込めてくれるの。作者が仕掛けた爆弾は、本を開いたら最後。その世界に引き込まれてしまう!電気羊の世話をするアンドロイドの世界だとか、流れ着いた無人島で豚の頭をまつったり。四畳半の世界を旅したり!私を無限の世界に連れて行ってくれるの。だから私は本が好き

西野    先輩らしいですね。その考え、すごく好きです

先輩    そうかな…で!西野君はどうなの!

西野    僕にとって本は対話です。

先輩    対話?

西野    そう。対話です


 チク、タク、チク、タク。時が動く。時代は遠野の記者会見。チク、タク、チク、タク針が動き出し、山田を中心に回る。チク、タク、チク、タク。時を刻む音、声がする。遠野を呼ぶ声だ。舞台の奥で遠野は怯えてしまっている。


西野    本は対話だ。本は夢だ。本は願いだ。幼い頃、僕はいつも思っていた。いつかこの汚い世界を飛び出して、どこか遠くへ消えてし

まいたい。その時、僕は出会ったんだ!

遠野    アンドロイドのいる世界で電気羊の世話をして

西野    子供だらけの無人島で豚の頭を王にして

遠野    ノーチラス号で世界をめぐり

西野    カステラをコロッセオに見立てて

遠野    こんな世界がくだらなく思える

遠野・西野 そんな世界に!

遠野    僕は月に行きたかった。でも無理だった。だから願いを託した。この本に

先輩    少年たちは月を目指す。資源が枯渇した地球を見限り、仲間を集めロケットで飛び出して行く

西野    この本は僕を今までの世界から連れ出してくれた

客     遠野先生!次回作はいつ書き上がるんですか!

遠野    そこは月じゃなかった!

先輩    月についた少年たちは何年もの月日をかけ、彼らの理想の国を作る。そしてラルフはその国家の初代大統領となる。彼は告げる。「いいか!この国は我々のための国だ。ここには嘘も、暴力も、階級も何もない。ただ一つ必要なのは信頼だ。この国では互いの信頼こそが必要とされる。」

遠野    僕がたどり着いた世界は嘘と階級と欲望が溢れていた!次はどこで書く。いつ仕上がる。次回作はすぐに出せだの。読者のニーズに応えろだの!

西野    僕が夢見た世界はこんな世界じゃなかった

先輩    少年たちの国家が出来上がり、この本は終わっている。続きは今も書かれていない…

遠野    誰か、僕と対話して!僕の夢を、僕の思いを、僕の叫びを!誰かこの本を読んで

西野    そして遠野は消えていった

遠野    チク、タク、チク、タク

客     時間の流れは残酷で

遠野    チク、タク、チク、タク

客     やがて僕らはあの天才少年作家のことを忘れた

遠野    チク…タク…チク…タク…

客     こうして彼の人生は幕を閉じた

遠野    チク…タク…


 舞台上には動かなくなった遠野が横たわっている。その前で山田と先輩が並んで座っている。二人の間には原稿があり、何やら添削作業を

しているようだ。


先輩    だからこの子は居なくなってしまうの

西野    それからどうなるんですか?

先輩    わかんない

西野    ええ!決めてないんですか!

先輩    もう出ないからいいかなって

西野    例えそうだとしても作者は登場人物のことを全て決めなきゃなりませんよ

先輩    じゃあ、月に行こうか!何もかも投げ出して!

西野    それじゃ、遠野のパクリですよ

先輩    じゃあ遠野先生ならどう考える?

西野    え

先輩    あ、ごめん。間違えちゃった

西野    やめてくださいよ

客     (気づけば立ち読みをしていて)ちょっとー。店員さーん

先輩    あ、はい!

客     立ち読みしてる客がいますよー。どうにかしてくださーい

西野    あ。いらしてたんですね

先輩    ごめんなさい、全く気が付かなかった

客     ひどいな。で、そんなに熱中して二人で何してたんです?

西野    本を書いてたんですよ

客     西野君が?

西野    いえ、先輩が

客     ええ!見せてください(原稿を取ろうとする)

先輩    ちょっとやめてくださいよ!

客     どんな内容なんですか?

先輩    本屋さんの話

客     本屋さん?

先輩    河童横丁にある古本屋さんで働く少女がいてね。そこに来る客は立ち読みしかしないおじいさんくらいしかいないのよ

客     ほう

先輩    少女はいつも退屈している。確かに本は好きだけど、自分と同い年くらいの友達も居ないし、目新しい本が入荷することもない。

だから、いつも本の棚を整列して時間を潰してた

客     ふむふむ

先輩    そこに作家志望の少年がやって来る!少年は本が大好きで、いつか自分の描いた作品で萩原賞を受賞しようと考えてるの。その

勉強のために古本屋でバイトを始めた。

客     ふむふむ

先輩    少女の毎日は変わった。退屈だった毎日はいつの日か姿を変え、少年と小説のネタを出し合っている時間はかけがえのないものと

なった

客     それから?

先輩    そしてついに、少年の作品は完成するの!

客     おお!

先輩    しかし少年は消えてしまう。完成した小説を残して

客     え!どこに行ってしまったんですか!

先輩    (笑いながら)考えてないんだよね。どこに行こうか、北海道かあるいは沖縄、金沢もいいな。あとは三鷹?

客     三鷹!?

先輩    やっぱ月かな!月で新しい国作ってんの

西野    だからそれじゃ

客     遠野先生のパクリじゃないですか!

先輩    オマージュです

客     ほんと好きですね。遠野先生

先輩    まあねー

西野    なんでまたそんなに好きなんですか

先輩    私はね、「月に舞う」を読んで遠野先生に会った

客     え

西野    ええ!

先輩    私はあの本に救われたんだ


 やがて遠野はゆっくりと立ち上がる。先輩の呼びかけに答えるように。そして遠野は泣き出す。その姿はまるで母親から生まれたばかりの赤子のように。先輩に認知され、作品の中に隠れていた遠野はようやく生まれることができた。遠野の叫びは届いていた。

 気が付けば舞台上には先輩、西野、遠野の三人だけが存在している。チク、タク、チク、タク。時計の針か。先輩を介し、西野 は過去の自分自身「遠野七夜」と向き合い始める。彼が殺した彼自身と。

先輩    明日が分からなかった。高校三年生の春。何がしたいのかもわからない。どこへ行くかもわからない。夢もない。大きな『時の

ターミナル』。どこへ行けばいいのかも分からなかった

遠野    僕はどこかへ行きたい!誰も知らない夢の国!いつか作家さんになることができれば!僕はいつでもどこにも行ける。僕は時の

旅人になる!

西野    時は旅をできない。いつでも誰かに急かされて、次はどこ、次はどこ、次はどこ、次はどこ。どこまで行けば終わるんだ!

先輩    あの本は私に勇気をくれた。この子は14歳のはずなのに、ずっと先を見据えてる。ずっと未来を夢見てる。自分の世界を、自分の存在を皆に知ってもらおうとしてる

西野    誰かに知ってほしかった。誰かに認めてほしかった。誰か   月に連れて行ってほしかった

遠野    これは僕のSOS。これは僕のSOS(足を踏み鳴らす・・・―――・・・ ・・・―――・・・)

先輩    だから私は作家を目指す。あの時彼が残した言葉。あの時、彼がくれた勇気を、今度は私が返すんだ(闇に消える)

西野    (遠野をにらみ)うるさい!騒ぐな!地団太踏むな!

遠野    (母親に怒られた子供のようにピタッと止まる)

西野

    お前がいくら騒ごうと、お前がいくら喚こうと誰も聞いてくれはしない。誰もお前に用はない。誰もお前の叫びは知らない。14歳が!最年少で!小難しい言葉を語るから!だから見られた!それだけだ!

遠野    (泣きそうになる)

西野    (『月に舞う』を手に取り)あんな言葉を長々と語っても何も心に響かない。光ったという間に消えてしまう稲妻だとか、嬰児の眼をした天使たちの声に合わせるだとか、涙の大海原で溺れさせないでください。だの…いちいちねちねちみみっちい…人間はね、もっと素直に、ストレートに気持ちを伝えなきゃ何も伝わらないんだ

遠野    助けて

西野    歯に衣着せて、言葉をオブラートに包んで。耳当たりのいい言葉を並べても。誰も聞いてはくれやしない

遠野    助けて

西野    愛してる。その一言を言うためだけに、言葉を選び、例え、紡ぎ、謳う。理性で隠した言葉を使っても誰の耳にも届かない

遠野    (原稿を手に取り)この人は

西野    ん?

遠野    この人は違う


 チク、タク、チク、タク。時は進む。先輩の原稿を中心に、西野と遠野と客は針となる。チク、タク、チク、タク。

 やがて先輩が入ってくる。


短針    チク、タク、チク、タク音がする

長針    チク、タク、チク、タク声がする

秒針    チク、タク、チク、タク叫んでる

先輩    幼いころ、夜に寝るのが怖かった。

針     チク、タク、チク、タク

先輩    叫ぶようで

針     チク、タク、チク、タク

先輩    刻むようで。てんちょー!

店長    はいはいはい

先輩    (辞表を出し)これを

店長    ああ、辞めちゃうんだ

先輩    はい、これから就職活動もしなきゃならないんで

店長    皆にあいさつした?

先輩    まだです。

店長    いいのかい?

先輩    (原稿を置き)大丈夫です。これがありますから


 闇に消える先輩。そして彼女は二度と現れることは無い原稿を受け取り隅で読む遠野。立ち読みする客。そして西野がいる。


西野     ちょっと、立ち読み駄目ですよー

客      はいはーい(構わず本を読み続ける)

西野     てんちょー!てんちょー!

客      わかりました!止めます止めます

西野     わかればいいんですよ

客      寂しくなっちゃいましたね

西野     ですよね

客      連絡つきました?

西野     つかないですよ。どこへ行ったのかも分からないです…

客      心当たりとかあります?

西野     ありますよ

客      え!どこですか!?

遠野     彼女が書いた小説は、少女が少年の残した原稿を読み、それにこたえる作品を書くところで幕を閉じる。それが誰に向けられたメッセージかは言うまでもないだろう

西野     月でしょうね

客      月か…僕らのこと見守ってくれてるかな

西野    きっと見てますよ

遠野    彼女の本は時限爆弾だった。紙に閉じ込められた彼女の思い、メッセージは僕の胸へと刻まれた。チク、タク、チク、タクと。

彼女は書けと言っている。もう一度筆を握れ、思いをぶつけろと

西野    (遠野に並び、原稿を見て)続きを待ってます。遠野先生。今度はあなたの言葉で。だってさ

遠野    月に舞う。月に舞え子供たち

西野    地球と言う名の牢獄から逃げ出した、僕らは世紀の大罪人だ

客     これから世界をやり直そう。月にウサギは居なかった

先輩    だから僕らは月で踊ろう

遠野    これから世界をやり直そう。そこに夢は居なかった

全員    だから僕らはここで踊ろう


 やがて彼らは闇に消える。月に舞う。月に舞え子供たち。月に楽園はない。ここが僕らの楽園だ。


如何だったでしょうか?こんな長文の作品を読んでくださって、本当に感謝の言葉しかありません。


山田がいますがあれは西野です。


もし、何か思うことがありましたら教えていただけると幸いです。

あとがきについて良く分からないのでこれにておしまいです。


ご読了頂き誠にありがとうございました。

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