愛してるゲーム
新作の案出しの合間の暇つぶしに書いていたら完成しちゃったので投稿しました。
だいぶ時代遅れ感はありますが、個人的には最近知ったのでタイムリーなゲームです。
王都から帰ってきてしばらくした頃、
「サナさん、サナさん」
「ん? どうかした?」
「えっとですね、愛してます!」
エンジュから突然愛を告げられた。
そういえば今までいろんな形で愛情は伝えてきたけど言葉に出した記憶はないな。
せっかくエンジュが愛してるなんて言って来てくれたんだし、私も相応の態度で対応しなくちゃいけないだろう。
というわけで、私は「私も愛してるよ」とでも言おうとしたんだけど、
「私もあ……あいし……」
口から出かかったところでものすごい羞恥心が襲って来た。
あれ、エンジュのことは大好きなのにおかしいな……。
私がそう羞恥心と葛藤していると、
「あ、照れたのでサナさんの負けですね!」
エンジュはそれはもう元気よく宣言して来た。
……負けって何?
「ごめん、どういうことかいまいち理解できないんだけど説明してもらえる?」
「いや〜『愛してるゲーム』っていう遊びで、向かい合って『愛してる』って言い合って、先に照れた方が負けっていうゲームなんですよ〜」
「へぇ、ゲームかー」
エンジュに愛してるって言ってもらえてちょっと嬉しかったんだけどな。
「あ、でもサナさんの事は本当に大好きですよ〜」
「ほんと? 私もエンジュは大好きだよ」
「えへへ、ありがとうございます〜」
ああ、幸せ空間だ。
平和って本当にいいよね。
「それにしても、なんで急にそんなゲームしようと思ったの?」
個人的には嬉しかったし、やってもらう分には一向に構わないんだけどね。むしろ推奨したいくらい。
「さっき村に行ってきたんですけど、若者の間で流行ってるらしいんですよね〜。それで教えてもらったので早速家でやろうかなぁ、と」
「へぇ、村で流行ってるんだ」
村中で愛してるが飛び交ってると思うと結構すごい絵面だな。
まあ、流行ってるとは言ってもさすがにそこまででは無いとは思うけどね。
「あ、そうだ、せっかくならサガミ家全員で勝負してみましょうよ! 今日は家事も全部終わって暇ですし!」
サガミ家全員で愛してるゲームを……?
それってつまり、合法的にみんなの口から愛してるが聞けるって事……?
「うん、やろう! 今すぐやろう! 早急に!」
「はい! 早急に〜!」
─────────
というわけで5分後、私達四人はリビングに大集合していた。
大集合って言っても、普段から結構集合してるんだけどね。
「というわけで、エンジュ主催、第一回サガミ家愛してるゲームトーナメント〜!」
「「イェーイ!」」
「い、イェーイ」
パフパフという音が聞こえてきそうなエンジュの開催宣言に、私とシャルルちゃんは元気よく反応する。
一方、ハンカは若干恥ずかしそうな顔をしながら、それでもちゃんとノリに合わせてはくれていた。
普段なら恥ずかしいなら参加しなくてもいいよと言っただろうけど、今回ばかりは事情が違うからな。多少無理をしてでも参加してもらわねば。
「まあゲームとはいえど勝負ですしね。やるからには全力でやりましょう」
ハンカはこのゲームも勝負事の一種と考える事で恥ずかしさを和らげてるっぽかった。
そういえばハンカって何気にバトルジャンキーだもんな。
「よし、それじゃあ早速いきましょー!」
エンジュはどこからともなくくじ引きを用意していた。ほんといつもどこから用意してるんだ。
「映えある第一回戦は、じゃん! サナさんとシャルルさんです!」
「早速我か! 負けないぞサナ!」
「望むところだよ!」
お互いやる気満々で向かい合って座る。
「それじゃあ先行はシャルルさんからで〜」
「うむ、サナ、愛してるのだ!」
あぁ、可愛いな。なんというか、我が子に『お母さん大好き』って言ってもらえてるような感じだ。
まあ私結婚してなかったんだけどね。
「私もシャルルちゃんの事愛してるよ」
自分の子供だと思うと意外とすんなり『愛してる』って出てくるな。
と、少し感心していると、シャルルちゃんの顔がどんどん赤く染まっていって、
「……これは心臓に悪いのだ」
ギブアップした。
「あれ、意外。シャルルちゃんはこういうの強いと思ってたよ」
「我のお父さんはあんまり好きとか愛してるとかは言わないタイプだったのだ……」
シャルルちゃんのお父さんといえば魔王か。
確かに娘を溺愛する魔王って若干威厳にかけるな。悪いことではないと思うけどね。
「それじゃあ二回戦は私とハンカさんですね!」
「ええ、勝負である以上負けはしませんよ」
今度はエンジュとハンカが向かい合って座った。
「先行は……サナさん、決めてください!」
「それじゃあエンジュ先行で」
「分かりました! ハンカさん、愛してます!」
おぉ、やっぱりエンジュの愛してますは破壊力があるな。
それでもハンカは眉ひとつ動かしていない。さすがだ。
「ありがとうございます、私もエンジュさんの事は愛していますよ」
ハンカの笑顔は、もうとにかくすごかった。
前々から気品があるとは思っていたけど、その気品が大爆発していた。
エンジュが元気な幼なじみ系だとしたら、ハンカはどこかの貴族の一人娘みたいな感じ。
私はどっちも大好きだけどね。
「…………っ!」
対戦相手のエンジュは、そんな破壊力のある笑顔を前に必死に照れまいと耐えていた。
発案者だからな。意地もあるんだろう。
「あ、愛してます!」
「愛しています」
必死にエンジュが返しても、ハンカはノーダメージで返す。
これはもう圧倒的だな。
「あい……いや、もうギブアップでお願いします〜」
エンジュもそれを悟ったのか、両手を上げて降参した。
「ハンカさんとんでもなく強いですね〜」
「いえ、そんな事はありませんよ。結構照れました」
「あ、照れてくれてたんですね。よかったです〜」
何がよかったんだ? と思わなくもなかったけど、そんなことよりも次に行きたかったので訴えることにした。
「よし、じゃあ次行こう!」
「そうですね、では師匠、よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
というわけで、エンジュと私が入れ替わってハンカと向かい合う。
「では先行はハンカさんで〜」
「分かりました。師匠、愛しています」
うお、正面から見るとすごい可愛いな。
でも、そう簡単に負けるつもりはない。長引けば長引くだけ『愛してる』が引き出せるわけだしね。
「私も愛してるよ」
気持ちを落ち着けつつ、気持ちを込めて。
まだ一回しか愛してるって言ってないけど、羞恥心はだいぶ薄れてるな。
とは言っても、さっきエンジュの愛してるでも眉ひとつ動かさなかったハンカだもんな。多分ノーダメージで返してくると思って顔を見て見ると、
「……」
そこには表情を一切変えず、顔の色だけが真っ赤に染まったハンカがいた。
あれ? これ照れてない?
「あ! ハンカさん顔真っ赤じゃないですか! アウトですよこれは!」
「うっ……。いや、師匠の愛してるは卑怯ですよ……」
ハンカが珍しく子供みたいに拗ねてる!
「というわけで、第一回サガミ家愛してるトーナメント優勝者は、サナさんでーす!」
「イェーイ!」
「おめでとうなのだ!」
「おめでとうございます」
「じゃあこれにて愛してるトーナメント終了ですね〜」
あんまり愛してるって言ってもらえなかった気がするけど、優勝したからいいか。
「あ、私トイレ行ってきますね〜」
「うん、行ってらっしゃい」
まあ何はともあれ、今日も今日とてサガミ家は平和だ。
─────────
私はトイレに入ると、その場でしゃがみこみました。
「ふぅ、緊張しました〜。変なこと言ったりしてなかったですかね……」
サガミ家のみんなにちゃんと気持ちを伝えておきたくてゲームなんて方式をとってしまいましたが、ちゃんと自然にできていたか正直自信がありません。
「というか、ゲームを使わなきゃ気持ちを伝えられないなんて我ながら情けないですよ」
ちょっと前までは愛してるくらいすんなり言えた気がするんですけどね。
本気で思ってると言いにくくなるっていうやつなんでしょうか?
「まあでも言えたしよしとしましょう!」