カンストしてた
結論から言うと、おじさんは本当に親切なだけだった。
村が分からない私のためにわざわざ時間を割いて、ここシルバ村が平和である事、日用品や野菜を売ってるお店や美味しい食事処、果てはお手軽なストレス発散法までもを教えてくれた。
疑っちゃって、ごめんなさい。
まあ、ともあれ、そんなおじさんの案内で、私は現在冒険者ギルドなる場所に来ていた。
どうやら魔晶石の換金はここで行うらしい。
「お邪魔しまーす」
なんか挨拶違うな〜、と思いつつも、私は扉を押し開けて中に入った。
それとほぼ同時に、奥の受付の女の子が元気な声を上げる。
「あっ、ようこそ冒険者ギルドへ!」
すごい歓迎オーラを感じる。
見た感じ私と受付の子以外人はいないし、暇だったっぽい。
「えっと、この魔晶石の換金に来たんですが……」
「お、ゼリリウムの魔晶石ですね!」
さっきの魔物、スライムじゃなくてゼリリウムとかいうのか。
なんかすごい元素っぽいな。
「えっと、冒険者ギルドに登録はされてますか?」
「いえ、してないです」
換金するのに登録とかいるのか。
登録料とか私、持ってないぞ。
「でしたら今しちゃいましょう!」
「あ、はい。でも私、お金持ってませんよ?」
「登録料とかは要らないので大丈夫です!」
ビシッと言い放つ受付の人。
元気だ。なんというか、もう、すごい元気だ。
「では、こちらに手を乗せてください! そうしたらステータスとかがわかってギルドカードが発行できるので!」
受付の人は、なんかファミレスとかによくある半円状のボタンみたいなのを取り出すと、私の前へ置いた。
私はおっかなびっくり、それに手を乗せる。
すると、ボタンが全体的に輝きだし、私の手の甲から光の線が上へと伸びると、顔くらいの高さに透明なモニターみたいなのを表示した。
すごいハイテクだ。
「えっとなになに……お名前はサナ・サガミさんで、種族は人間、ステータスが……ってなんですかこれ!」
モニターに表示された文字(日本語)を読み上げていた受付の女性が、目を見開いて叫んだ。
結構至近距離だから、耳に響くよ……。
「ど、どうかしましたか……?」
「どうかしましたかじゃありませんって! なんですかこの異様なステータスは!」
ビシッとモニターを指差す女性。
モニターの文字はこちらからは鏡文字になっているので、とても読みにくかったけどなんとか解読した。
『サナ・サガミ』
種族 人間
職業 魔法使い
Level 1
HP99999/99999
MP99999/99999
攻撃9999
防御9999
素早さ9999
知力79
スキル
魔法全属性適応
うん、この世界の平均は知らないけど、これはなんかおかしいぞ。
画面のほとんどが9で埋め尽くされちゃってる。
というか、知力低くない? なんか私バカみたいになってない?
「えっと……ステータスって平均どのくらいなんですか?」
私の恐る恐るの質問に、受付の女性は元気よく答えた。
「HP、MPは普通500もあればいい方です! 一流の冒険者の方でも4桁には乗らないですね! 他のステータスは50もあればいい方で、1つでも3桁台があれば一流の冒険者扱いをされます!」
うん、私のステータス、想像以上にいかれてた。
「それは、知力もですよね?」
「はい! 知力もです!」
なんかこの中だと知力がやたら低いせいで、アホの子みたいな感じするけど、一般からすれば高いんだなこれでも。
なんとなく安心だ。
「あの! 一つご質問よろしいですか!」
受付の女性がビシッと挙手する。
「はい、えっと名前は……」
「シンシラです!」
「シンシラさん、どうぞ」
私は受付の女性もとい、シンシラさんをあてる。
気分はさながら学校の先生だ。
「もしかして、サガミさんは魔王を討伐した勇者のパーティーメンバーだったりするのでしょうか!」
「い、いえ、違います。ただの引っ越してきた新入りです」
すごいキラキラした目で見つめられたせいで、思わずどもってしまったが、本当に私はただの新入りだ。
「しかし! こんなステータス、魔王を討伐した勇者様でもない限り、ありえないと思うんです! それに全属性の魔法が使えるのも普通じゃありませんし! 普通なら多くて2属性くらいですし!」
否定したというのに、身を乗り出してくるシンシラさん。
元気がいいね。
「いや、だからそんなんじゃなくて……。ほらレベルみてくださいよレベル! 魔王を討伐してレベル1の勇者とかありえないでしょ?」
私はボタンに載せていない方の手でレベルの項目を必死に指差す。
「確かにそうですね……。しかし! それならなおさらこのステータスの高さが理解できません!」
ぐぅ……。そう言われると言い返す言葉もない。
いや、多分天使さんが設定間違えただけなんだと思うんだけどさ。なんか途中で私のステータスいじってたし。
ただ、天使さんの説明をするとなると、自ずと転生の話も出てきてしまうわけで。
なんとなく、そんな事を話すのはあまりよろしくない気がしてならなかった。
なので、本気で返す言葉がない。
「えっと、ほら! 魔晶石の換金! 私のステータスなんか見てないでお仕事しないと!」
「えっ、いや、まあそうですけど……!」
私はボタンから手を退けてモニターを消すと、魔晶石を差し出して換金を催促する。
「うぅ……こちら、ギルドカードと換金代の600ゴールドです」
何やら納得していない様子のシンシラさんだったが、仕事という言葉を出されると拒否することはできないのか、案外素直に換金をしてくれた。
私は、差し出されたカードと銅貨6枚を受け取ると、一目散に冒険者ギルドから逃げた。
これ以上詮索されても面倒だし、何より答えようがない。
下手な嘘をついたって、どこかでボロが出そうだったので、いっそ逃げることにしたのだ。
素早さがカンストしているおかげか、光の速さで家まで逃げ帰った私は、机の上にまたもや手紙が置いてあるのに気がついた。
一応鍵とかかけといたのに家の中に届いてるってことは、
「天使さんからか」
私はさっきと同様に封を切ると中身を読んだ。
『親愛なるサナさんへ
ステータス、知力以外を弄った時、神基準の物にしちゃってました。ごめんなさい。
今、上司の神様からものすんごいお叱りを受けているので、また余裕ができたらお手紙書きます。
あなたの天使 エンジュ・エ』
名前が途中で事切れていた。
すんごいお叱りを受けているからだろう、うん。
まあ、何はともあれ……。
スローライフ初日、私は、最強の存在になっていた。