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尊い!

今回ちょっと話が重めです。

ただ、多分この小説だとこの話が最重量ですので、ご安心あれ!

「それで私、その神様にしこたま怒られまして、罰としてこっちの世界に送られちゃったんですよね〜」


 エンジュさんはそう話を締めくくりながら、笑っていた。

 軽いな。


「えっとつまり、上司のプリンを食べちゃったから左遷、みたいな感じですか?」


「まぁ、そんなとこですかね〜」


 それなら普通もっと悔しがるんじゃないだろうか? 

 どうやらエンジュさんは、出世とかには興味がないタイプっぽい。


 前世の知り合いにも責任負う恐怖があるくらいなら一生お茶汲みでいい、とか言ってる人がいたけどあんな感じかな?


「ちなみに、どのくらいの間こっちの世界にいる予定なんですか?」


「さぁ? どのくらいいるんですかね?」


 質問を質問で返された!


「いやぁ、だってどのくらいとか言われずにこっちに送られたんですよ。私が知るわけないですよ〜」


 軽い感じで結構えげつない事を明かすエンジュさん。


 それならなおさらもっと焦ろうよ! なんでそんなに落ち着いていられるの!?



 私が少し唖然としていると、横でハンカが小さく手をあげた。


 どうかしたのかな?


「すみません師匠、私の力では今の話を理解できなかったのですが……」


 あ、そうか。今の話はエンジュさんが天使である事を知らなかったり、私が転生者だと分からなかったら理解するのは難しいのか。


 となると、説明にはやっぱり私が転生者である事の説明とかが必須になってくる。

 もう何度も言うように、転生者としてはその辺は隠しておきたいんだけど……。


 どうするべきか、エンジュさんに助言を求めようと視線を向けると、エンジュさんは小首を傾げてニコニコしていた。

 可愛いけどそうじゃない……!


 まあでも、この様子だと多分、こっちの世界の人に自分が天使だとバレちゃいけない、みたいなルールもないんだろう。


 なら転生者とバレても大丈夫だろうし、この辺が潮時かもしれない。


「……うん、ハンカには全部話しておこうかな」


 私はそう決心した。


 決心した理由はただ一つ。前々から、ハンカを騙しているような気がしてならなかったからだ。


 というのも、ハンカがこの家にいる理由は私の強さを身につけるために弟子入りしているから。

 でも、私の今の強さは天使さんのミスによりステータスがカンストしたからで、私の努力とかじゃない。


 ハンカもこれまでは特に疑問も持たずに私の弟子でいてくれたけど、この先それでやっていけるかというと多分無理だし、ハンカにも申し訳ない。

 だから、これを機に全部話してしまおうと思ったのだ。


「一応シャルルちゃんにも話して……って、寝てるね」


 シャルルちゃんはエンジュさんの話が長かったのか、スヤスヤと寝息を立てていた。


「本当ですね、起こしますか?」


「んー、いや、寝かしておいてあげようか」


 すごく気持ちよさそうに寝てるし、わざわざ起こすこともないだろう。


 シャルルちゃんは私の強さを学ぶためにここにきたわけでもないから細かい話は知らなくてもいいだろうしね。



 ともあれ、そこから私は、ハンカにこれまでの事を全て話した。


 私が転生者である事も、その過程でステータスが上がった事も、エンジュさんが正真正銘天使である事も。


 それを聞いたハンカは、はじめの頃こそ信じられない様子だったけど、最終的にはきちんと理解してくれた。


「つまり、師匠は別の世界からやってきてて、その時に事故でステータスが上がったという事ですか?」


「うん、そういう事」


 さすがハンカ、完璧だ。


「だからさ、実は私に弟子入りしても別に強くはなれないんだよね。それで、もし、ハンカが弟子をやめてこの家を出て行くなら、私はそれを止めないし咎めない」


 私はまっすぐにハンカを見つめてそう言った。

 すると、その真剣さが伝わったのか、ハンカの表情も引き締まる。


「それはつまり、私はここにいるべきではないという事ですか?」


 何かを勘違いしたのか、ハンカが重々しく言った。


「ち、違うよ! そうじゃなくて、このままハンカを騙し続けるのは申し訳なくて……!」


 そう、私は別にハンカに出て行って欲しいわけじゃない!

 むしろ、ずっと居て欲しいとすら思っている!


「わ、分かりました! 分かりましたから離れてください! は、恥ずかしいです……!」


 あ、熱がこもって思わずハンカに詰め寄っていた。


 もう、すぐ前にハンカの目がある。

 すごく綺麗な金色だ。


 ……ではなく。


「ご、ごめん、思わず……」


「いえ……大丈夫です」


 私がゆっくりハンカから離れると、ハンカは頬を赤く染めていた。


 可愛いけど、今はそれどころじゃない。


 私は緩みそうな口元を引き締めて、改めてハンカに向かい合う。


「それで、ハンカはこれからどうしたい?」


 正直、罵詈雑言とか浴びても仕方ないなと身構えていたんだけど、


「……もし、師匠が許してくださるなら、私はこの家に残りたいです」


 ハンカは少し恥ずかしそうに言った。


「……え? わたし、別に強くなる方法とか教えてあげられないよ?」


「構いません」


「今まで騙してたんだよ?」


「そんなの、気にしてません」


「多分これからもハンカに迷惑かけることあると思うよ?」


「それはお互い様ですよ」


 ハンカはまるで天使のように、ニッコリと微笑んだ。


 可愛い……!


 いや、これは可愛いを通り越して、


「尊いっ!」


 私はたまらず、ハンカを抱きしめた。


「ちょっ、師匠!?」


 ハンカはそんな私を引き剥がそうとするけれど、カンストの力を引きはがせるわけもなく、やがて諦めて私を受け入れた。


「ハンカ! これからもよろしくね!」


「……はい、よろしくお願いします」


 ハンカは少し困った感じの声でそう答えた。

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