天使の回想
やってきたのは見た目が完全に幼女の神様でした。
名前は確か、シルフィ様だったでしょうか?
結構偉い方だったはずですが、こんなところになぜいらしたのでしょうか?
「エンジュ! エンジュ・エル・フラムはいるかの!?」
なるほど、人探しですか。
どうやら、エンジュという人を探しているようです。
エンジュさん……どこかで聞いたことのある名前ですね……。
「あ、それ、私じゃないですか」
うん、間違いなく私です。フルネームで一致してますし、ここに私と同姓同名はいないはずですから。
というわけで、私は手を挙げて名乗り出ました。
「私がエンジュですが、何か御用ですか?」
「ん、お主がエンジュか。少し話がある、ついてくるのじゃ」
上司からの呼び出し。これほど怖いものは他にありません。
「えっと、ここじゃダメですか?」
「うむ、ダメじゃ。長引くじゃろうし」
長引くんですか……? もはや恐怖しかありません。
「じゃから、今から会議室に行って……って、そういえば会議室は今使われておるんじゃった……。他の部屋も空いておらんしどうしたものか……。あ、そうじゃ、休憩室なら大丈夫じゃろ」
と、いうわけで、本日二度目の休憩室と相成りました。
「これ、備え付けのを入れただけですけど、どうぞ」
「む、それはコーヒーかの? わらわはコーヒーは飲めぬのでな。お主が飲むといいのじゃ」
「あ、そうなんですね。ではいただきます」
本日二杯目のコーヒー。
少し飲みすぎな気もしますが、まあいいでしょう。
「それで、ご用件ってなんですか?」
もう怒られるのは目に見えています。
問題はそれが大きな問題か、小さな問題か、です。
「ああ、それなのじゃが、お主先ほどサガミサナという女を転生させたじゃろ」
「はい、しましたよ」
ついさっきの事なんですから、忘れもしません。
「実はな、その女が転生した瞬間に時空に異常が発生したのじゃよ」
「時空に異常、ですか……?」
どういう事でしょう?
正直なところ、私、あんまり小難しい話は得意ではないんですよね。
「えっと、それってつまり私の転生また失敗しちゃってたって事ですか?」
それだと、なかなかにショックなのですが……。
「いやいや、そういうわけではないのじゃ。対象の望む座標に転生させれていたし、そこに問題はないのじゃよ」
それなら安心ですね。
でも、それならなんで私は呼び出されているのでしょうか?
「では何故呼び出されたのか、なんて考えておるのかの?」
わぉ、当たりです。神様的な力で思考を読み取ったんでしょうか?
「ではエンジュよ、人間を転生させる際の注意事項3つを言うのじゃ」
「あ、はい。えっと、一つ目が転生後の過度な干渉は控える事。二つ目は、一つ目を犯さない程度に保護する事。三つ目が、上記を考慮した上で転生者の望みをなるべく叶える事、でしたよね?」
研修生の時に散々教わりましたから、間違いないはずです。
「うむ、正解じゃな。では続いて質問じゃ。お主はサガミサナに対して、どのくらいの保護を施した?」
「保護……ですか?」
何をしたでしょうか……?
「えっと、たしか、魔王でも壊せない家を作って、周辺の魔物をゼリリウム以外排除して、なるべく平和に生きられるようステータスを少し上げて、近くの村の物価を少し下げて、サナさんが人生で一番楽しそうだった18歳に見た目を合わせて、体内の時間を停止させる事で不老不死にして、魔法を全属性使えるようにして、異世界語を日本語として理解できるようにして───」
「ち、ちょっと待つのじゃ!!!!」
シルフィ様は、焦った様子で身を乗り出して私を制止しました。
「ど、どうかされましたか?」
「『どうかされましたか?』ではないのじゃ! なんじゃその異常なまでの過保護っぷりは!」
目を見開いて全身で感情を表現するシルフィ様。
……そんなに過保護でしょうか?
「神々の皆様っていつも『人間は弱い』みたいなことおっしゃってるので、このくらいはしておいたほうがいいのかなと思いまして……」
「いや、たしかに人間は弱いが、そこまでしなくとも良いのじゃ!」
なるほど、そうだったんですね。
反省です。
「ちなみに、ステータスを少し上げたとは、どのくらい上げたのじゃ?」
「ステータスですか? 神様たちを基準にしたのでHPとMPは10万くらいで、それ以外は5万くらいだったと思いますよ」
私がそう言うと、シルフィ様はその場で固まり、やがてゆっくりと頭を抱えました。
「お主って奴は……」
「い、いや、だってお客様は神様だってよく言うじゃないですか!」
「それはただの比喩表現じゃし、転生者は別に客ではないのじゃよ!!」
シルフィ様は声を荒げながらそう言いました。
「まあ過ぎてしまったことはもうどうしようもないのじゃ。今からステータスを変更なんて無理じゃし……」
シルフィ様は疲れ切った様子で一度ため息をつきました。
苦労人の姿ですね……。申し訳ないです。
「とりあえず、お主はサガミサナに謝罪のメッセージを送っておくのじゃ。わらわは疲れたので甘いものを食べるのじゃよ……」
「あ、はい、分かりました」
と、いうわけで、私はサナさんに手紙を出すことになりました。
内容はどうしましょう?
やっぱり簡潔にしたほうがいいですし、目に見えてわかるステータスの上げすぎを謝りましょうか。
他には───
「ない! どこにもないのじゃ!」
急にシルフィ様が叫びました。
どうかされたんですかね?
「エンジュ! お主ここに入っていた妾のプリンを知らぬか?」
「プリンですか? それならさっきいただきましたけど……」
「食べたのか!? わらわのプリンを食べたのか!?」
シルフィ様はそれはもう鬼気迫る勢いで詰め寄ってきました。
これは確実に怒られる流れですね……。
とりあえずサナさんには後で改めてお手紙を───
「何手紙なんて書いてあるのじゃ! わらわの目を見ろ!!」
「は、はい!!!」
私はシルフィ様の声にピンと背筋を伸ばしました。
というか、今ので間違えて手紙を送ってしまいました……。でもまあ要件はかけたので良しとしましょう。
それより今は、
「お主、自分が何をしたのか分かっておるのか!!」
シルフィ様のお話を聞かなくてはですね……。
予想以上に伸びましたが、回想はここで終わります。
次回からは現在に戻ります。