天使さんに起きた事
この回には回想シーンがありますが、そこを読む前にプロローグを読み直しておくと入りやすいと思います。
リビングに集まった私達は、自然と食卓についていた。
エンジュさんもいるし、応接間に行こうかとも思ったんだけど、ハンカが紅茶を食卓においてくれたし、エンジュさんも迷いなく席についてくれたのでもうこれでいいやとなったのだ。
「やっぱりハンカの入れたお茶は美味しいね」
「はい、すごい香りが立ってます!」
「ありがとうございます……!」
私とエンジュさんが総出で褒めると、ハンカは顔を真っ赤にしてにやけながら俯いた。
共同生活を始めてから結構褒めるようにしていたと思うんだけど、やっぱりまだ褒められ慣れてないのかな? 照れてる姿も可愛いから全然問題ないんだけどね!
ちなみに、シャルルちゃんは「なんか苦い!」とか言ってミルクと砂糖を大量投入して飲んでいた。
すごいシャルルちゃんらしい。
「それにしても、本当にいい香りしてるね。なんて名前の紅茶?」
「たしか、ダージリンだったと思います」
へぇ、こっちの世界にもダージリンとかあるのか。
いやまあ転生前の世界にあるものって大抵こっちの世界にもあるから、似たようなものはあるんだろうとは思ってたけど、殆どがゼリリウムみたいに名前が違ったりするんだよな。
だから、名前まで同じなのは少しびっくりだ。
「気に入っていただけたのなら、また貰ってきますね」
「うん、ありがと。その時はまたお願いするね」
「はい、是非とも!」
ちょっと嬉しそうな顔のハンカを見て幸せを感じつつ、私はエンジュさんの方に視線を移した。
「ん? どうかしましたか?」
目があった。
「いや、そろそろ何があったのか教えてもらいたいなと思いまして」
そう、忘れているかもしれないが、元々エンジュさんをこの家に招いたのは何があったのかを教えてもらうためでもあったのだ。
大分落ち着いたし、そろそろ聞いても大丈夫だろうと思うけど……。
「あぁ、そういえばそうでしたね。では、私の身に何があったのか、ご説明しましょう! そう、あれはサナさんをこの世界に送った後のことでした……」
エンジュさんはどこか遠い目をしながら語り出した。
────────ここから回想です────────
「ハァ!」
私のそんな声に反応して魔法陣は明るく光り輝くと、サナさんを包み込み、異世界へと送りました。
「よかった、成功しました!」
何気に私、ちゃんと人を転生させたことが無いので成功するか怖かったんですよね。
でも転移先の座標も間違ってませんし、転生者に対する保護も施しましたから、成功でしょう。
「ふぅ、一仕事終えたらお腹すきましたね。なんか食べに行きましょうか」
そうして私は転生者と面会するための空間から出て、休憩室に向かいました。
そういえばよく、転生者の方達などから勘違いされるのですが、私達天使は別に使命とかで人々に祝福を与えたり、転生させたりしているわけではありません。
ではなぜそんなことをしているかというと、仕事だからです。
私達は就職して、働いて、お給料をもらっているのです。
その点は、人間と大差ない生活をしていると言えるでしょうね。
まあだから何が言いたいのかというと、普通に休憩室とかありますよって事です。
休憩室についた私はまずコーヒーを入れました。
人間界からの輸入品ではなく天国産の物なので、香りは少し落ちますがそっちの方が安いので仕方ありません。
「せっかくなんで、何かデザートも欲しいですね」
太るので甘いものは控えていたんですが、転生なんていう大仕事を終えた後です。自分へのご褒美の一つや二つあったいいでしょう!
と、いうわけで私は備え付けの冷蔵庫を漁りました。
「あ、天使社製のプリンがある! これを頂きましょうか」
天使社製のプリン。
値段も味も安いんですが、その安っぽさがたまらない一品です。
「それじゃあ、いただきます!」
無駄に甘いプリン、なんか不思議な匂いのするカラメル、少し薄めのコーヒー。この安っぽさがたまらなく至福です。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
プリンを食べ、コーヒーを飲みきった私は仕事に戻ることにしました。
良い事をした人に祝福をもたらすという大事な仕事です。
「あ、その前にサナさんに手紙でも送っておきましょうか」
転生者が迷わないようになるべく導いてあげるのも、天使の仕事なのです。
「これでよし、と。置く場所はリビングの机の上とかで良いですかね」
そうして私は机の上に手紙を転移させると、仕事に戻りました。
仕事に戻ってからしばらく、私の業務はほとんど滞りなく進んでいました。
ちょっと祝福を与えすぎたり、逆に少なすぎたり、与える人を間違えたりしちゃいましたが、まあいつも通り進んでいました。
そんな時でした。上司の神様がやってきたのは。
暇になったと思えばすぐに忙しくなるという現実の謎仕様め……!
でも頑張ります! ナメクジ並みの速度になろうとも止まりません!