なんかいた
シャルルちゃん虫捕獲事件の後、はしゃいで先々行こうとするシャルルちゃんを律しながら、私達の進行は続いていた。
ちなみに今は安全面を考えてシャルルちゃんと私は手をつないでいる。
料理対決の時のリベンジ達成だね!
まあそんなこんなでルンルンで歩いていると、不意にシャルルちゃんがある疑問を発した。
「そういえば疑問なのだが、この辺りに獣はいるのだろうか?」
「うーん、どうなんだろ? あんまり話は聞かないけど」
イノシシとかの獣がいるなら、畑とかにある程度の被害が出てもおかしくないけど、村の人達からそう言った話は聞かない。
この辺りは出るものといえばゼリリウムくらいな、本当に平和な村なのだ。
「あ、そういえば結構前にハンカが『新鮮なお肉が欲しいのですが、この森ではとれませんね……』とか言ってた気がする」
「なるほど……つまり獣はいないのだな?」
「うん、そうだと思うよ」
なんかシャルルちゃんが妙に念を押してくるな。
「では、あれはなんだと思う?」
シャルルちゃんは呟くように言いながら斜め上を指差した。
あれ?
私は少し首を傾げながらシャルルちゃんの指差す方に視線を向ける。
するとそこには木の上でツタに絡まれながらごそごそ動く何かがあった。
って何だあれ!?
「ん? あ、もしかしてそこに誰かいますか? いるなら助けて欲しいです!」
喋った!?
ということは、人……?
何にしたって早く助けないと!
「い、今助けるので動かないでくださいね!」
「はい! ありがとうございます!」
ツタの塊からそんな声が帰って来たのを聞いてから、両手を向けて魔法の準備をする。
あのツタを風で動かして地面に下ろそうと思ったのだ。
「我のうちに眠る魔力よ、その力をもって……」
そこで私ははたと止まった。
そういえば私、突風を起こす魔法は知ってるけど優しい風を起こす魔法とか知らないぞ!?
多分村に戻ればそれっぽい魔法はあるんだろうけど、今助けるといってしまった手前、村に戻るのはよくない。
こうなったら、ノリで何とかするしかない。
「えっと、こう、ふわっとした風であのツタを囲って降ろせ!」
ふわっとした風というか、物凄くふわっとした内容の魔法。
でも、さすがはカンストともいうべきか。何ら問題なく発動してツタを私の前まで降ろしてくれた。
すごいな魔法。
そうして降りてきたツタをシャルルちゃんが短剣で切ると、中から青い髪の女性が伸びをしながら出てきた。
歳は多分18歳くらいで、すごく可愛らしい顔をしている。
シャルルちゃんといいハンカといい、この世界の顔面偏差値高すぎない?
というか、この顔どこかで見たような……。
「いやぁ、助かりました。ありがとうございます! 森を歩いていたら急にツタに絡まれちゃって……」
少女はとほほといった風に笑っていた。
急にツタに絡まれるってどういう状況なんだ……。
というか、この声もどこかで聞いた気がするな。
「ほんともう一時はどうなることかと……ってあれ? もしかしてサナさん? うん、やっぱりサナさんじゃないですか!」
私の顔を見た少女はすごく嬉しそうに私の名前を呼んだ。
やっぱり知り合いか?
ただ、こっちに来てから知り合った人ってそんなに多くないんだよね。
シャルルちゃんにハンカにアスモデウスさんにシンシラさん。もう、片手で数えられちゃうレベルだ。
だからこそ、知り合っていたら名前も含め絶対に記憶に残ってそうなものだけど……。
「すみません、顔は何となく見覚えがあるんですが名前を覚えてなくて……」
「あ、そういえばきちんと名乗った事ないですもんね」
少女はポンと手を叩くと、一回咳払いをした。
「では改めまして、私の名前はエンジュ・エル・フラム、あなたの天使ですっ」
そういって少女もといエンジュさんはウィンクをした。可愛い。
「って、ほんとだ! 天使さんじゃないですか!」
「はい、あなたの天使、エンジュですっ!」
そうだ、天使さんだ! あの転生の時にいた天使さんだ!
誰かわかると何で今まで気がつかなかったのか不思議に思えてくるけど、完全にこっちに転生して来てから出会った人だと思ってたからな。気が付かなくても仕方ないよね?
「いやぁ、それにしても知ってる人に出会えて助かりましたよ〜。正直このままのたれ死んでもおかしくないなぁとか思ってたので」
「それは助けられて良かったです」
一応転生させてくれた恩人みたいなものだから、死んでほしくはないよね。
「あ、そういえば、何でこっちの世界に来ているんですか?」
エンジュさんは天使なんだから、まず間違いなく住んでいる場所は天界的な場所なはずだ。
それなのに、こっちの世界にいるというのは何とも不思議だった。
聞いてる感じ自分の意思でやって来たって感じでもなさそうだし。
「いやまあちょっと色々ありまして……。長くなりそうなので、できれば体とか洗ってからにしてもいいですか?」
エンジュさんは少し申し訳なさそうに言った。
よくよく見れば随分と服が汚れている。
可愛い子をこんな格好のままにしておくのは普通にすごく嫌だし、何より恩人をこのままにしておくなんてとても忍びない。
「はい、もちろん構いませんよ。それじゃあ家に戻りましょうか。シャルルちゃんも、いいかな?」
「う、うむ。全然構わないぞ」
シャルルちゃんの許可も降りたので、私たちは家へと戻ることになった。
3章の最後に誰にも気付かれないレベルでしれっと入れた伏線回収できてちょっと満足です!