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料理は好きです

「シンシラさぁぁぁぁん!!!!」


 バタリと机に突っ伏したシンシラさんに飛びつくと、すぐに脈を確認する。


 大丈夫、生きてはいるみたいだ。


「あ、悪魔の……あj……」


 シンシラさんはそう言い残すと、『チーン』という効果音が出そうな感じに私の腕の中で力つきた。


「シンシラさぁぁぁぁん!!!!」




 その後、シンシラさんを私の部屋のベッドに寝かし、一通りの回復魔法をかけておいた。

 HP回復はもちろん状態異常回復魔法もかけてみたけど効果がないあたり、HPが減ってるとか状態異常になっているとかではなさそうだった。


「状態異常以外に体調を崩すようなことってあるの?」


 私は隣で立っているハンカに尋ねた。


「……? それはもちろん。むしろ日常生活の中ではそういったタイプの体調不良の方が多いですよ」


 ハンカは不思議そうにしながらも、きちんとそう答えてくれた。


 確かに日本で生活してる時も、睡眠ならまだしも、麻痺とか毒とかなった事ないし、石化なんて存在すらしなかった。

 ファンタジーのくせして、結構前世の世界に近い規格のこの世界でも状態異常よりも体調不良の方が多いのだろう。


「と、なると、やっぱり原因はあのカレーか……」


「おそらくですが、私もそうだと思います」


 深く頷きながらそう賛同したハンカは、見た感じだと状態異常っていう雰囲気でもないので、と付け足した。


 カレーを作ったのはアスモデウスさんだ。話を聞くなら本人に聞くのが一番手っ取り早いだろう。


 私はそう判断すると、ハンカにシンシラさんを任せ、一階のリビングに戻る事にした。



「その、大丈夫でしたか?」


 リビングに行くと、心配そうな顔をしたアスモデウスさんがそう声をかけてきた。


「はい、今は寝かしてます」


「それは良かったですわ……」


 張り詰めた表情を崩しながら、深く息を吐くアスモデウスさん。

 反応からするに、わざとヤバいものを作ったって感じではなさそうだった。


「それで、一応の確認なんですけど、あのカレーの中、何入れたんですか?」


「何……? 別に、普通の材料ですが……」


 アスモデウスさんは不思議そうに答えたが、私はなんとなく、アスモデウスさんにとっての普通が既に普通じゃないのだろうなと悟っていた。


 よくいるよね。いや、現実じゃいないけど、漫画とか小説とかでヤバい材料ぶっ込んで化学兵器料理作る人。

 アスモデウスさんは多分、その域の人だ。


 シャルルちゃんに視線を向けたらすごい苦笑いをしていた。

 うん、間違いなくアスモデウスさんは向こう側の人間、もとい魔族だ。




 それから約1時間後、最悪今日1日は寝込むんじゃないかと覚悟していたのだけども、予想よりもずっと早くシンシラさんは復活を果たした。


「なんか川の向こうから祖母が手招きしてました……」


 シンシラさんは、顔を青く染めながらそう話していた。


 三途の川を見せるとか、どんな殺人的料理なんだ、あのカレー……。


 ともかく、ほぼ成立していないも同然の料理対決は、


「そんなの、最初に食べた方に決まってますよ!」


 ものすごい剣幕で訴えるシンシラさんの判定により、言わずもがな、ハンカの勝利で幕を閉じた。



 その後、少しふらつきながらも村に帰ったシンシラさんを見送ると、空はすっかり赤く染まっていた。


 正直約束なんて反故にして、無理やりアスモデウスさんがシャルルを連れ帰るなんて事も考えてはいた。

 だけど、そんな私の心配をよそに、アスモデウスさんは素直に魔王城へと帰るようだった。


「そういえば、魔王が倒されたって言ってましたけど、今は誰が魔王をやっているんですか?」


 別れの直前、ふと気になった私はアスモデウスさんに尋ねてみた。


「現在もシャルル様のお父様が続投されておりますわ」


「あれ? でもお父さんは死んだって……」


 私は首を傾げながらシャルルちゃんに視線を向ける。

 すると、シャルルちゃんは胸を張って言い放った。


「人間ごときに負けるなんて、魔王としては死んだも同然だろ!」


 ……何だその理論。


「それだと、まだしばらくはシャルルちゃんは継ぐ予定もないってことですか?」


「あー、いえ。そのお父様が勇者に負けたショックで自室の隅っこで丸まっておられるんですよ」


 何だその試合に負けた甲子園球児みたいな雰囲気は……。


「なので、できれば将来の勉強がてらシャルル様に魔王になっていただきたくはあります。まあでも、そんな急ぐものでもありませんし、しばらくは大丈夫ですわ。魔王様なら、無理やり引っ張り出すので」


 腕まくりをしながらニヤリと不敵に笑うアスモデウスさん。

 すごい、怖かった。


 まあでも、何はともあれシャルルちゃんがうちで暮らすというのも、問題ないという事だ。

 実は途中から頭の隅で懸念していた事が解決して安心している。


「シャルル様、サナ様、ハンカ様、それではまた」


 アスモデウスさんは魔法で空間転移の穴を開けながら、私達にそう言った。


「うむ、またな!」

「はい、さようなら」

「あの、今度、お料理を教えますね……」


 流石にこんな最終兵器魔族を残しておくのはまずいと感じたのであろうハンカは、苦笑い気味になっていた。


「ええ、よろしくお願いしますわ。それでは」


 ニッコリと優しい笑みを浮かべたアスモデウスさんは空間転移の穴に消えていった。


「それじゃあ改めてこれからよろしくね、シャルルちゃん」


「ああ、よろしく頼む!」


 私が手を差し出すと、案外素直にシャルルちゃんは握手をしてくれた。

 そして、その上にハンカが手を置いた。


 そうして新しくできた家族を受け入れたところで、私は一度手を叩きながら言った。


「それじゃあ、シャルルちゃんの部屋の掃除をしよう!」


「「おおー!!」」


 これまた予想外にもノリが良く、二人は拳を突き上げてやる気を見せてくれた。


 そうして始まった部屋の掃除だったが、想像を絶する速さで終わった。

 そりゃ三人がかりで一部屋を掃除したんだから、すぐ終わるのも当たり前だろう。


 ただ、私にはこの事が随分と幸せに思えた。


 だから、心の底から、天にいるかもしれない転生担当の天使さんに向かって宣言した。


(私、良いスローライフ送れそうです!)


 と。

以前ここで一時完結していたため少し最終回っぽさがありますが、しっかり続きます。

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