中二病の正体
「こんにちは、最強の魔法使いサナ様」
そこにいたのは、もう、半端なく凄い人だった。
何が凄いかっていうと、あれだ、胸だ。
なんかもう悪魔的なくらいに胸の大きい上、胸を強調するような際どい服を着た女性が、そこには立っていた。
「あ、はい、こんにちは」
危ない危ない、胸の圧力、略して『胸圧』のせいで軽くぼうっとしてしまってたぞ。
なんて悪魔的な胸なんだ……。
「私は、魔族のアスモデウス。魔王秘書をやっている者ですわ」
魔族……? 確かにそれならこの悪魔的なプロポーションも分からなくはない。
あ、というかお尻のあたりからそれっぽい尻尾が生えてる!
「ま、魔王秘書……?」
「えぇ、こちらにシャルル・サータ……。シャルル様が来られていると聞きましたのでお迎えに参りましたの」
「……え? シャルルちゃん、本当に魔王なんですか?」
「魔王ではなく、魔王の一人娘ですが……。まあ、次期魔王ですわね」
シャルルちゃん、まさかの次期魔王!
というか、部下にも覚えてもらえないのかあの名前。もはや軽い呪いでもかかってるんじゃないか?
「えっと、シャルルちゃんなら今、応接間にいますよ」
「でしたらお邪魔してもよろしいですか? あの方は担ぎ上げでもしないと動かないと思いますから」
担ぎ上げるって……。
まあでも、何となくわかる気がする。言っても聞かなそうな感じはした。
「どうぞ、入ってください」
「ありがとうございます、お邪魔しますわ」
こうしてアスモデウスさんを家に招き入れると、応接間まで案内した。
『コンコン』
「入るよ〜」
「あっ、はい、どうぞ」
中のハンカから許可が出たので応接間に入る。
すると、中にはハンカと、その膝の上でスヤスヤと寝息を立てるシャルルがいた。
「初めは暴れていたんですが、無理矢理私の膝に頭を持っていったらすぐ寝てしまいまして」
「それ気絶してるとかじゃないよね!?」
「大丈夫ですよ。ほら、今もこんなに安らかな顔をしていますから」
「それアウト! 気どころか命失ってるやつ!」
ハンカはステータス的には一流冒険者顔負けだし、あり得ない話でも……。
私が背筋が冷えるのを感じていると、シャルルが起き上がって伸びをした。
「む、むぅ……何だ、騒がしいな……」
「よかった生きてた!」
「何だ、我がそう簡単に死ぬわけないだろ!」
なんか凄い魔王っぽいセリフだ。
ゲームとかでHP削りきったら第二形態になる系の魔王がいいそうだよね。
「……あれ? でもサナが外に出てからの記憶が……」
「あー、うん。それは考えない方がいいかも」
真実を思い出したら凄い落ち込んじゃいそうだし。
「うむ、サナがそう言うならやめておこう」
「それがいいと思うよ」
妙に素直なのは、泊めてもらう事への恩義か何かなのかな? なんにしても、変に突っ張らないのはいい事だと思うよ。うん。
「あの、私はいつ紹介していただけるのですか?」
後ろからアスモデウスさんの声が聞こえてきた。
あ、完全に忘れてた……。
「い、今の声はアスモの声……!? いや、しかしこんな所にアスモがいるわけ……!」
シャルルはまるで組織の陰謀に気付いた時のような表情をしながらあからさまに驚いた。
「えっとね、こちら、魔王秘書をやられてるアスモデウスさんです」
「どうも、お久しぶりですわ。シャルル様」
「アスモォォォォォ!!!!」
シャルルがなんか凄い叫び声をあげた。
「な、なぜアスモがこんな所にいるのだ!」
「シャルル様、魔王城の転移装置使われましたよね? あれ、転移先の記録が残るのですよ」
「え、そうなのか……?」
「ええ、そうなんです」
なんかよく分かんないけど、とにかく二人がちゃんと知り合いだってことはよく分かった。
すると、アスモデウスさんは応接間の中に入っていくと、おもむろにシャルルを肩に担いだ。
まるで土木工事の木材担ぐおじさんみたいだ。
「よし、それじゃあ帰りましょうか」
「えっ、ちょっ、我はまだ帰りたくない! 父の後を継ぐのはまだ嫌だ!」
担がれたシャルルは涙目で暴れていた。
シャルルは私に自分の全てを話してくれた。
あの時は中二病的な世界観がおり混ざってると思ってたけど、魔王の娘であることを念頭におけば、かなり納得のいく内容だった。
魔王、それがどんなことをする仕事なのかは分からないけど、少なくともシャルルがやりたいものではないのは分かる。
今日はなんか分からないことが多いような気がするけど、それだけはわかった。
分かって、しまった。
あんな年端もいかない……いや、600歳超えなんだけど、見た目的には幼い少女が嫌がっているのに、助けられなくていいのか?
私はその程度の人間なのか?
自分自身にそう問いかけた瞬間、私の口は自然と動き出していた。
「あの……ちょっと待ってください」
私の言葉にアスモデウスさんがピクリと反応し、振り返った。
「何でしょうか?」
「その、シャルルちゃんは嫌がってます。私には魔王の大変さとか、その重要性とか、全く分かりませんけど、それでも! シャルルちゃんみたいな可愛い女の子が困っているのを放っておくことはできません!」
「か、かわっ……! 何を言ってるんだ貴様!」
シャルルが頬を染めて恥ずかしがった。
そんな姿も可愛いよ!
「確かにシャルル様は可愛いですわ。すこぶる可愛いです。頑張って威厳を身につけようと背伸びしてる感じも、少しポンコツ気味なところも、毎日鏡の前でカッコいいポーズの練習してるところも、全部ひっくるめて可愛いですわ!」
「ちょっ、アスモ!?」
「しかし! この方は次期魔王となるお方です! 魔族にとってなくてはならない存在なのです! リーダー的にも、アイドル的にも!」
「待て! アイドル的には要らないだろ!」
「「いや! いる!」」
私とアスモデウスさんの主張がハモった。
シャルルちゃんは我が家のアイドルにするんだい!
「おや、サナ様とは気が合いますね……」
「はい。しかし、それ故に決して交われない……」
家に匿ってあげたい私と、魔族の元に帰したいアスモデウスさん。
お互い、シャルルちゃんが可愛いという一点において同じ考えを持っているのにも関わらず、だからこそに譲り合えない。
譲ることなんて、できない。
「だから、勝負して決めましょう」
私のステータスはカンストしている。ならば、いくら魔王秘書でも私には勝てないはずだ。
あんまり手荒な真似はしたくなかったんだけど、こうなっては仕方がない。
「へぇ、勝負ですか……。それは素晴らしいですわね」
アスモデウスさんは、ニヤリと怪しげな笑みを浮かべた。
怖いんだけど、どこかエロい。
「あの……すみません師匠」
不意に、ずっと黙っていたハンカが手を挙げた。
「何? どうかしたの?」
「はい、その勝負、私に任せてはくれませんか?」
予想外の申し出だったけど、ハンカは何気にバトルジャンキー。勝負と聞けば飛び込みたくなる野生児みたいなところがないでもないっぽい。
「……大丈夫なの?」
私は、生唾を飲み込みながらハンカに尋ねた。
「はい、勝負は私の得意分野ですから」
ハンカはキリッとした目でそう言った。
「……うん。なら、今回はハンカに任せるよ」
「ありがとうございます、お任せください」
ハンカは静かに立ち上がると、アスモデウスさんの前まで移動した。
「と、いうわけで、アスモデウスさんのお相手は私、ハンカが勤めさせていただきます」
「ふふ、私は勝負が出来れば構いませんので」
うお、どっちもバトルジャンキーだな。
「それでは、尋常に始めましょうか」
「ええ、そうですわね」
二人はニヤリと笑みを浮かべると、同時に叫んだ。
「「料理勝負を!」」
………………あれ?
若干忙しさが増したので、ちょっと更新乱れるかもです