やってきた、中二病!
シャルルを一階の応接間的なところに通すと、向かい合って座った。
「こちら、きのこ茶です」
ハンカが私とシャルルの前にお茶を一つずつ置いた。
「きのこ茶! すごい美味しそう!」
「アマガサタケっていうきのこを使っているので、リラックス効果があるんです」
「へぇ、すごいね」
「ありがとうございます。それではごゆっくり」
まるでお店みたいな事を言って、ハンカは応接間から出て行った。
一応ハンカにも話し合いに参加してもらっても良かった気がするけど、私次第みたいなことも言ってたし本人的にはさほど興味がないんだろう。
「こ、これ、毒とか入っていないよな?」
「何でわざわざそんなもの入れるの。というか、突然来たのに毒なんて用意できるわけないでしょ」
「そ、それもそうか……」
シャルルはすごい訝しみながら、きのこ茶を口に運んだ。
飲んだ瞬間「あっ、美味しい」とか言ってたし、お気に召したっぽい。
「と、まあとりあえず本題に入ろうか。多分もう知ってると思うけど、私の名前はサナ・サガミね」
「ああ、最強の魔法使いだろ」
うっ、この子もその二つ名知ってるのか。
まあでも否定なら後でも出来るし、とりあえず話を進めることにした。
「それで、泊めて欲しいって言ってたけど、何でうちに泊めて欲しいの?」
この世界の文明レベルだと家なき子なんてものも十分あり得るんだけど、この辺りは四方が森に囲まれていて、人の住むところといえば村くらいしかない。
村の子なら多分村の人達が手厚く保護するだろうし、家がないからとこんな年端もいかない子が森を抜けるとも思えない。
だから、何でうちに泊めて欲しいなんて事になるのか、想像もつかないのだ。
「それは……うむ、どこから話したものか……」
「時間ならあるし、好きなところから話していいよ」
「それならば、我が父の話から───」
それから30分くらい、シャルルはやたら難しい言葉を混ぜながら自分がここに来た経緯を話してくれた。
30分の話をギュと凝縮すると『父親が死んだんだけど、父親の仕事を継ぐのが嫌で家出して来た。だからうちに泊めて欲しい』って感じの事だった。
それで、家に連れ戻そうと魔族の追っ手が来るので最強と噂される私の元に来たらしい。
なんかもう、すんごい中二病設定だ。
「って事は、一人で森を越えて来たんだ。まだ小さいのにすごいね」
「小さいとかいうな! 我はもう613歳だぞ! 貴様より年上なんだぞ!」
「はいはい、分かった分かった」
「コラ! 信じてないだろ!」
「イヤ、ソンナコトナイヨー」
「無茶苦茶棒読みではないか!」
だって、どう考えたって嘘だもの。
「くそぅ……我は嘘などついていないのに……。まあいい! それで我を泊めてくれるのか?」
「うーん、まあ、なんか悪巧みしてるって感じではないし、別にいいよ」
「本当か!」
シャルルの顔がパッと明るくなる。
本来は家に返すべきなんだろうけど、多分この調子じゃ「我が家は魔王城だ!」とか言って誤魔化すだろうし、何より継ぎたくもない家業を継がされるというのはそれなりに辛い事だろう。
家の人が迎えに来るまでとかなら、この家に匿ってあげてもいい気がした。
「うん、でも家事とかはちゃんとやってもらうからね。いい?」
「家事か……。やった事はないが、この左眼を開放すれば造作もない事だ! 任せろ!」
シャルルは左目の眼帯に手を添えながらそう言い放った。
凄い元気だ。
シンシラさんとかとは違うベクトルの元気さだ。
『コンコン』
応接間の扉がノックされた。
「すみません、入ってもよろしいですか?」
扉の向こうから聞こえてきたのは、もちろんハンカの声だった。
きちんとノックしてから確認ができるあたり、やっぱりしっかりした子だと思う。
ノックした直後とかに断りなく入って来られると、何もやましい事してなくてもなんか嫌だよね。
「うん、こっちの話もひと段落ついたし、いいよ」
「失礼します」
扉をあけて、ハンカが部屋に入ってきた。
ケトルとコップが乗ったお盆を持っている。
「師匠、何だか凄い人がお見えになってます」
凄い人? 何だそのアバウトな説明は。
「えっと、どんな人なの?」
「何といいますか……こう、とにかく凄いんです」
こうもはっきりものを言わないのはハンカらしくない。
余程の異常事態なのかもしれない。
「その人、今玄関にいるの?」
「はい、そこで待っていてもらっています」
「うん、それじゃあ私行ってくるよ。それまでシャルルと仲良くしておいてあげて。その子、しばらくうちに泊めてあげる事にしたから」
「はい、分かりました」
「仲良くしておいてあげて、とはなんだ! 我はこんな者と仲良くする気など───」
なんかシャルルがやけに嫌がっていた感じもしたけど、無視して応接間を後にした。
あんまり人を待たせるのも悪いしね。
そういうわけで、私は玄関に行ったのだが……
「こんにちは、最強の魔法使いサナ様」
そこにいたのは、もう、半端なく凄い人だった。