5.シャーロッキアンになりたい人の本棚整理
昔からブックオフが大好きだった。通っていた大学の近くには都内でも指折りの規模を誇るブックオフがあった。毎週というかほぼ毎日そこに寄っては2時間ぐらいうろついて、105円で本を買ってはまたブックオフに通っていた。毎日行っても若干本が入れ替わっていたり、目当てだった本がより安くなっている瞬間を見ると心が躍る。社会人になってからは家の近くにないので、残念ながら通い詰めることが出来なくなってしまったのだが、代わりにゲオ先生に寄っては本を買って帰っていく。
こういう「本買っちゃい癖」は家の影響であることは間違いないのだが、そうなると、家にある本の数がすさまじいことになるわけで。
諸事情があって今度我が家に本と本棚が増えることになったのだが、そのために本棚整理をしようと改めて我が家にある本の数を見たら、案外、とんでもないことになっていた。自分の本棚含め、とりあえず「本」が押し込められているものをすべてじっくり見てみると、とにかく量が凄い。数えるのが嫌になるぐらいある。
そして同じタイトルの本が複数冊ある。
スタンダールの『赤と黒』は文庫版と河出書房から昔出た全集と2冊あり、倉橋由美子の『聖少女』は昔の新潮文庫版と桜庭一樹が解説を担当して復刊した最新版の2冊ある。向田邦子の『あ・うん』は旧版と新版で2冊ある。その他、数知れないタイトルの重複がある。
まぁ、本が重複しているものの犯人はちょいちょい私だったりする。『聖少女』が2冊あるのは家にあるのを全く知らずに私が買っちゃったものだし、『あ・うん』の犯人も私である。……ちなみに私は定金伸治の『ジハード』の1巻を3冊持っているが、1)ジャンプJブックス版、2)集英社文庫版、3)星海社文庫版 とすべてバージョンが違う上に文章が違うのでこれはこれでカウントしない。
しかし流石に、出版社も訳者も装丁もまったく同じ本が3冊も出てくると「何ゆえに!?」と目を剥きたくなる。
コナン・ドイルの『緋色の研究』である。
全て別の本棚にあったのだが、どこをどう見ても新潮文庫版が3冊。せめて1冊は創元推理文庫版であってくれよ、と思ったりもするのだが、そんな思いもむなしく装丁も出版社からの紹介文も全く同じ。
私にとって縁があるようで微妙になかったホームズシリーズ。パスティーシュにはいくつか手を出していたので正典も読んでみよう、と思っていたところ、「『シャーロック・ホームズ』シリーズを最初に読むならホームズとワトソンが出会った『緋色の研究』から読むとよろしいでせう」と最近友人から教えて頂いた。
3冊ある中の1冊はその直後にゲオ先生で私が買ったものである。もう1冊は兄弟の一人が学生時代に買ったものだった。それでは残りの1冊は誰が? 家の人間に「『緋色の研究』買ったことある?」と確かめたら「太古の昔に買って読んだ」との返答が二つ来た。という事は『緋色の研究』はこの3冊のほかにあと2冊どこかにある可能性があり、それはそれで恐ろしいのだが、その2冊は「所在不明A」「所在不明B」と処理し、探さない。
これは誰が……。本を裏返してみると、貼られていたのはブックオフのシール。
犯人は誰だと如実に語られた瞬間だった。アメリカで製作されているホームズのパスティーシュドラマ、『エレメンタリー ホームズ&ワトソンinNY』にはまっていた頃の昔の自分が買ったのだろう。そしてそのまま忘れていたのだろう。わかったのはいいのだが、もう少し、中古屋で買った事実ぐらい覚えてはいないものなのか自分。
愕然とし、そうして結局自分の本棚すら大して整理できずに一日が終わった。