15.北関東にて大雪注意報が出ております 【ソチ五輪フィギュア観戦回顧録】
2014年2月。バレンタイン。ソチ五輪男子シングル決勝の日は、関東でも記録的な大雪の日だった。午後から雪が降り始め、夕方になってもやむ気配はない。そして牡丹雪ではなく粉雪なので、降れば降る程暴力的に積もる。
そんな中夕方に、自分用のバレンタインチョコを常連にさせて頂いている店に取りに行った。そこのおねーさんに「なんで取りに来たの!大雪なのよ、さっさと帰りなさい!」と言われた記憶がある。通常時なら、その店から家まで車で所要時間約20分。その距離を、降りしきる粉雪と渋滞に阻まれながら、1時間半かけて帰った。
この時ほど雪を恨んだ日はない。
ほんのりと赤ワインの味がするチョコレートを、カフェオレと共に口の中で溶かしながら、夜11時半から始まる男子シングル決勝に向けてスタンバイ。深夜放送なので、両親はもう寝ている。なお、ツイッターで実況が出来るように、また見ながら書き途中のフィギュアスケートの小説を書くために(まだ書いています。是非読んで頂きたく。以上、宣伝でした)、パソコンを起動させる。
少し前の記事で「日本のエースばっかり注目してんじゃねえぞ!」と言った私だが、実際の私は羽生結弦選手のファンである。好きな競技プログラムは『ムーランルージュ』の『ボレロ』(SP)と、最近のでは『ホープ&レガシー』(フリー)。ショーナンバーの『CHANGE』は三味線と和の雰囲気を出し、和洋折衷融合した屈指のプログラムだ、と個人的に考えている。
ソチ五輪はSP1位で折り返し、2位カナダのパトリック・チャン選手とは約4点差だった。3位ハビエル・フェルナンデス選手、4位高橋大輔選手と続いたが、この時のフリーは事実上の一騎打ちだった。どうなるか、と落ち着かなくなる。
そうして第1グループ第1滑走の、イスラエルのアレクセイ・ビチェンコ選手から観戦開始。深夜12時を過ぎていた気がする。3番滑走フィリピンのマイケル・クリスティアン・マルティネス選手を初めて見て「ちょう綺麗なビールマン!」とツイッターではしゃぐ。
第2グループが始まり、大好きなジェレミー・アボット選手の大好きなプログラム『エクソジェネシス交響曲』での、四回転は入らなかったけれど全てにおいてクリーンで美しい演技で泣く。第2グループ終わった時点でのトップは、チェコのトマシュ・ベルネル選手。途中ニュースが挟まり『それではここで、現在行われている男子シングルの現在1位、トマシュ・ベルネル選手の演技をご覧ください』と、10分前に見ていたベルネル選手のフリー演技をもう一度フルで見る。誰が考えたニュース構成なのか知らんが、とにかくグッジョブ!
第3グループ開始。カザフスタンのデニス・テン選手、フランスのブライアン・ジュベール選手、スウェーデンのアレクサンドル・マヨロフ選手と演技が終わり……。
ぶつっ!
キス&クライでマヨロフ選手が映っていたのだが、その画面が黒く塗りつぶされる。え、何故? なにゆえー? テレビが付かない。暖房が止まって一層寒さが強調される。外は雪。築ン十年の我が家が雪でみしみし言っている気がする。……大雪でブレーカーが落ちた!
まって!次ミハル(・ブレジナ選手)なの!!このまま落ちたままになっていたら、私ブレジナ選手の『シャーロック・ホームズ』見られなくなっちゃうの!お願いブレーカー復活して!大雪この野郎。寒波の馬鹿野郎。なんで今降ってやがるんだ!……念を押したらあら不思議、テレビが復活し、ギリギリブレジナ選手に間に合う。よかった!間に合った!あーもう、またこうなったらやだなぁ。と不安を残しながら観戦再開。録画が一部抜けてしまい、再び大雪を恨む。大雪への恨魂がひと段落したころ、第3グループが終わった。
ドッキドキの最終グループの6分練習スタート。個人的にはドイツのペーター・リーベルス選手がフリーの最終グループに入ったことが嬉しかった。
6分練習を見ているうちに、胃の中が落ち着かなくなる。ツイッターではもはや言語になっていない言葉をつぶやき始める。数時間前に食べたチョコとカフェオレが胃のムカつきを増長させる。書こうとしてほぼ手つかずになっていた小説はリセット。観戦しながら、文章をちょこちょこと見直していたりしたが、自分のものがたりに向き合う余裕が全くなくなる。正座したり椅子に座ったりを繰り返す。
6分練習が終わった時、男子シングルの解説を担当されていた本田武史さんが、『みんな緊張しています』というニュアンスの言葉を言っていたのが忘れられない。ファンでさえ、ここまでそわそわするのだ。競技に向かう選手の緊張なんて計り知れないほどのものだ、と思わされる。最終グループが始まり、しばらくたったころ。
ぶつっ!
緊張、途切れる。
なぜならば、再び画面が暗くなったからだ。
高橋大輔選手が終わり、次は羽生結弦選手。
……ブレーカーが、大雪のため再び落ちる。
何でしょうか、この大雪様は。わたくしに『見るな』とでも言っておいでなのでしょうか。お天気様が神の意思であるのは本当なのかもしれませんね。……なんて皮肉何て出ると思うか!テレビ復活しろ!そして間に合え!願わくば誰か今すぐこの大雪を燃やしてくれ!!!雪を燃やしながら爆走してくれ!!うおおおおお!!!
……ソチ五輪の男子シングル決勝の日。羽生結弦選手が初めての五輪金メダルを手にしたその日は、私の人生で一番雪を恨んだ日だった。慣れない雪道での運転。積もりすぎて車が強制的に止まる。家と車体がみしみし言い、粉雪が重いものだと初めて知る。
そして、大好きなフィギュアの観戦を邪魔される。一応、羽生選手の直前にテレビは復活したけれど、これが恨まずにはいられようか、いや、ない。
大雪には注意を。クロサキイオンは羽生結弦選手を応援しています。