8話 ーラブレイブ “みんなが叶えるストーリー” ー
「よし次だ!国望!東山!」
ー はいッッ! ー
今日は学園で週に1度ある『対プレット 戦闘シミュレーション』の日だ。
二人一組になって目の前に映し出されるプレットの仮想映像と実際に戦う。
秋葉原が大幅に改変されて3日ほど経ったが、まだその改変理由は明らかになっていない。
規則などは無いのだがソルシエ達は普段の生活の中でプレットに遭遇することが多々ある。
不測の事態に備え、この手のトレーニングもしっかりと消化するのだ。
だが4人は少し特別で密かに遂行している作戦があるため他のソルシエの誰よりもどのチームよりも日々実践をこなしている。間違いなくそれは事実だ。しかし作戦が極秘のため周りにそれを知る者はいない。
「きいちゃん!どっちがどっちで行こうか!?」
「じゃ、、じゃじゃ、じゃあここはき、きいが動きを、、、」
「あ!きいちゃん危ない!きゃぁ!」
ちあきはきいに襲い掛かってきたプレットを制止しようとしたが、空振りしてしまいその場に転んでしまった。
「ち、ちあきしゃん!だだ、大丈夫でしゅかぁ、、、?」
仮想映像は途切れ、あたりは通常の景色にゆっくり切り替わっていく。
クラスメイトは授業の様子(戦闘シーン)を上のガラス張りになっているスペースで見学できるのだが、
そのほとんどはちあきの転倒を見て笑っていた。
<あははは!見たあれ?さすがにあれは無いよねー!>
<どうやったらあんな空振できるんだろう?わざとかな!?>
<あれでよくソルシエやってられるよねー>
そんなクラスメイトをりおとつばさは睨みつける。
『学年の二強』に睨みをきかされ笑い声はすぐにやむが、不満そうな顔がいくつもあった。
「よし、今日はここまでだ。各自今回の授業を明日までにノートにまとめてこい!
やってこなかったら殺すからな!」
授業の終わりが告げられ、りおとつばさは急いで下まで降りる。
笑われてきっと落ち込んでるにちがいないからだ。
「ちあき!」大丈夫か!?」
「あ、うん大丈夫大丈夫、、、いつもみたいに転んじゃっただけだから、、、はは、、。
やっぱりわたし、、、ダメだなぁ、、、。今日は、先に帰ってるね。」
そう言うとちあきは身体をゆっくりと起こし服についたほこりを払った。
ちあきが一人になりたい時のテンションは非常にわかりやすい。
そしてもうひとつわかっていることは、『こういう時はそっとしておいてあげる』のが一番ということだ。
「ちあき!」
「ぅん?」
「あとでな!」
「うん、、、。」
3人はちあきを追わずその場に留まっていた。
ちあきは何故伸びないのだろうか。何が特に悪いというわけでもない。
しかし異様にどんくさいというかトロいところがあるのは自他共に認めている。
これまでちあきを強化しようと3人がかりで取り組んできたことが何度かあったが、いずれも失敗に終わっってきた。
ただその結果わかったことがある。それは彼女が『優しすぎる』ということだ。
優しすぎるばかりに相手が敵だろうとなんだろうと「最後の一撃」に踏み込めない。
それを繰り返していくうちにどんどん自信を無くしていってしまい今に至る。
彼女の知らないところで3人はその課題と向き合ってきた。
「おい、貴様らそんなとこで油売ってる場合か?あいつにかまってる時間などないだろガキども。」
いつの間にか西園寺が近くに立っていた。
その表情は相変わらず教師とは思えない。
そんな西園寺に何を血迷ったかりおが噛み付いた。
「友達がミスして落ち込んでるとこ励まそうとしてなにが悪いんですか!授業も終わってるのにそこまで言われる筋合いありませんよ!」
りおは西園寺の言い方にカチンときてしまった。だが、すぐにハッとし『ヤバイ!殺される!』
という表情に切り替わる。
つばさときいも一瞬凍りつき、唾をゴクリと飲み込んだ。
「あ?ほんとに、、、バカなガキどもだ。
おまえらが国望とどれだけの付き合いだか知らないが、いい加減気づいたほうが身のためだぞ?」
意味深な言葉にすぐに反応したのはやはりここでも冷静なつばさだ。
「先生、それはどういうことですか?」
「いいか、国望はじきにお前たちを超える。それもちょっとやそっとの話じゃない。人の心配してる暇があったら自分のスキルを磨け。武藤、桐島、貴様ら二人は特にだ。」
3人は聞こえてきた言葉を処理するのに一瞬思考が止まってしまった。
ー 自分たちを越える?ちあきが?しかもすぐに。ー
何をどう考えてもさすがにそれは無いだろう。そんな言葉しか出てこない。
それもそのはず、ちあきはここ数年学力以外は何一つ進歩していないのだから。
困惑する3人を気にもせずに西園寺は眈々と話を続ける。
「貴様らはソレイユ・ルヴァンがなぜ伝説なのかを知ってるか?」
「たった一人でプレットを根絶させたから、ですよね?」
唐突な質問だったが、ソレイユ大ファンのりおにとってはなんてことのないクイズだ。
得意気に即答してみせた。他の二人ももちろんそのことは知っている。
ソレイユの伝説をソルシエの中で知らない者はいないだろう。
二人も小さくうなずいた。
「馬鹿者。それだけではない。奇跡の光を知らんのか。」
「奇跡の、、光、、?」
「ああ。ソレイユはな、戦っている時光っていたんだ。
一説ではその光を浴びただけでどんなプレットも一撃で消滅すると言われていた。
わたしも一度だけ見たことがある。」
ー 光だけでプレットを消滅、、、?ー
普通なら到底ありえない話だが伝説のソルシエだ。どんな逸話を持っていても不思議ではない。
ただそんな逸話が表沙汰になっていないことが少々気になるところだが、それどころではないりおがあることに気がついた。
西園寺がなぜソレイユの話を始めたかだ。
いままでちあきの話をしていたのに突然ソレイユの話に変わった。
ということは、、、ソレイユがちあきの母親だと知っている!?
「先生!なんでいきなりソレイユの話を始めたんでしょうか!?」
「愚問だな。ちあきの母親だろうが。」
「知ってたんですか先生!?」
「当然だ!貴様私を誰だと思っている!私は6歳の頃にソレイユから直々に指導を受けていたんだ!
今そんなことはいい!おまえら新任講師紹介を覚えているか?」
3人があの悍ましい恐怖の新任講師紹介を覚えていないはずが無かった。
「あの時私が出現させたマグマを消した者がいる」
西園寺がソレイユに指導を受けていたことはかなり衝撃的だが、さらに衝撃なことはその後だ。
“西園寺が出現させたマグマを消した者がいる”
それはすなわち西園寺の魔力を上回る魔力の持ち主があの中にいたことになる。
言うまでもないが西園寺、つまりティターニア・ルヴァンは世界3大ソルシエールの一人でその魔力は規格外だ。
彼女に匹敵するソルシエールがいるとすれば、同じく3大ソルシエール二人、『シルフ・ルヴァン』と『エルフ・ルヴァン』ぐらいだろう。
しかしその二人があの場所にいるわけがない。
その時、つばさは何かを悟ったのか西園寺に問いかけた。
「ちあき、ですか?」
3人は息をのんだ。そして堰を切ったように西園寺は答えた。
「そうだ。側から見ればわたしがやったように見えていただろうが、実際にわたしの魔法を消し去ったのは国望だ。それも一瞬でだ。わかるか?相当な魔力だ。
おそらく本人にその自覚は無い。
それと、奴は光を放っていた。わずかではあるが、ソレイユの放っていたものと同じ光だ。」
ー その頃ちあきは。 ー
一人秋葉原の街を歩いていた。ちあきは小さい時から落ち込むと一人になるクセがある。
落ち込んでいるところや泣いているところを人に見られたくないためだ。
小さい頃は負けず嫌いで勝負に負けるといつも大泣きをしていた。
そういう意味では他人に弱みを見せたくないというところで、まだ負けず嫌いの名残が残っているのかもしれない。
「やっぱりわたしはダメなんだな、、。才能もないしお母さんみたいになんてなれない、、。
もう何回もやめようと思ったけど、今回こそほんとに最後かな、、。」
独り言を小さくつぶやきながら下を向き歩く。
ちあきの精神状態はもう限界だった。
これ以上仲間の足を引っ張るぐらいならいっそ、潔くやめたほうがいいのではなかろうか。
こんな時も頭の中に流れるのは、『ソルシールになって』という母の言葉だ。
もうなにが正しいのかもわからなくなっていた。
そんな中UDXの巨大モニターにアニメのコマーシャルが流れている。
<話さーなくーていいんだよわかるーからー♪胸のなーかでーひーかるーエーナジー♪>
「あ、これ『ラブレイブ』、、、今日OVA発売なんだぁ、、、ん?OVA?、、映画じゃ、、ない?」
『ラブレイブ』とは2013年に放送されたアイドルアニメだ。
その爆発的な人気で社会現象にまでなり、劇中のアイドルグループは実際に東京ドームでライブをするまでに成長した。
聞き覚えのある曲に反応しスクリーンを見上げたちあきは、すぐに違和感をおぼえた。
「、、それに、、こんな子たちだったっけ?ラブレイブ、、、、」
「ちあきーーーーッッ!」
ちあきが画面を見つめていると、後ろからま聞き覚えのある声が近づいてくる。
りおだ。つばさときいも後ろを走ってきていた。その表情は何か焦っているようにも見える。
見る限り間違いなく励ましにきた表情ではない。
ちあきは思った。近づけば近づいてくるほど顔が焦ってるのがわかる!怖い!
「ちあき!秋葉原が改変されてから何にも見つからなかったじゃん?でも今日やっと見つけたよ!
ラブレイブのキャラデザが9人全部違ってるんだよ!」
「う、、うんそれ私もいまちょっと思った、、、でもラブレイブって確か、、、」
「そう!私のお父さんの作品!」
空前のヒット作品となったラブレイブはなんとりおの父親がプロデューサーを務める作品だった。
そしてそれを聞いて黙っちゃいられないのはつばさだった。
「お、おい!ちょっと待て!ラブレイブって制作会社ムーンライトの作品だろ!ブリリアントの元請けじゃないか!なんでそんな大事なことを言わなかったんだ!」
「まあまあつばささん。メインディッシュはとっておかないと、、、」
ゴツン!!
「バカやろう!なにがメインディッシュだ!」
どんな小さな情報でもばかにならない状況で特に理由も無しに黙っていたりおをつばさは許せなかった。
とはいえこれは大きな発見だ。遅かれ早かれわかるであろうことだったが、これならちあきの落ち込みもうまく交わしてことへ望めそうだ。
そして話し合いの結果課題が決まった。こうなった以上多かれ少なかれ秋葉原が改変された理由はラブレイブにあることの可能性が高い。
それを探りに再度時間遡行を行うわけだが、今回は狙いを定める必要がある。
ある程度対象が定かなだけに時期や時間をピンポイントで探る必要がある。
「でも、、、ラブレイブだけを手掛かりにってなるとまずは何をすればいいんだろう?」
「そーれーがー!調べたらラブレイブだけじゃなくてもう一つあったんだよ!」
3人はちあきがいじけている間、ラブレイブのキャラクターが変わっていたことを知り、放課後の時間を使ってしらみ潰しに2001年以降のアニメキャラクターを調べていた。自分たちのわかる範囲で調べた結果あるアニメのキャラデザが9人丸々変わっていたのだ。
「え!?それって!?」
4人にまたしても訪れたチャンス(?)試練(?)
まだわからないまま彼女たちはまた時間をめぐる。
この街の本当の姿を取り戻すために。
続く




