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魔法少女☆ソルシエ  作者: Rio.K
3/38

3話 ー新任教師(2)ー



ー ドーン!ガッシャーン!ガラガラ!!!! ー


西園寺は花瓶を持ち上げてりおに投げつけた。



「遅ぇんだよ何してたんだ。2分も待たせやがって殺されてえのかコラ!」




『あちゃー』と額を抑えるつばさ。これは確実に最初に入った者負けだ。


しかしそんなつばさはというと、今日一日西園寺とどういう会話をしようかずっと考えていたようだ。

計画的で、行き当たりバッタりが大嫌いなつばさは今この場で考えたのではまとまらない

とわかっていた。しかも今まさにりおをひたすら罵倒する声が廊下にまで響きわたっている。

これでは話に集中できない。やはり事前に考えてきてよかったと胸をなでおろすつばさだった。



ー30分後 ー

フラフラの状態で指導室から出てくるりお。



「じ、地獄だぁ。おまえは腐ってるとかダブルだからって調子のんなとかずーっとそればっか、、。」



「あー知っている。全部聞こえていた。しかし言い方はキツイがほとんど当てはまっていたぞ。

 少しは反省しろ!」



「ぅ、ぅうーつばさまで、、、ぅわーん!!!帰るーーー!つばさのばかぁぁーーーー!!」



りおはすごい勢いで走り去って行った。

こういう時ぐらい慰めてほしかったのだろう。足がグルグルとタイヤのようになっていた。



続いての面談はつばさだ。やっとかと言わんばかりにグンと前へ進み、扉をノックする。


ー コンコン、、ー



「失礼します!武藤つばさと申します!よろしくお願いします!」


堂々とした挨拶と機敏な動きはどこか軍隊の隊員をも彷彿させ、そこらへんの男性よりもよっぽど男前だ。

応接間のような指導室は3人掛けのソファが四つ置いてあり、真ん中に大きなテーブルが置いてあるだけのシンプルな作りだ。

ソファの横に立つ西園寺は鋭い眼光でつばさを見ている。



「ほー、中々できたやつだな。まあ座れ。」



「はい!失礼します!」



ソファに腰をかける二人。沈黙が数秒続きつばさはあることに気づく。

「喋り出し」だ。会話の中でどういう風に自分のペースに持って行こうかばかりを考え、

もし相手より先に自分が喋ることになったらというシチュエーションは想定外だった。

そんなつばさの焦る心を汲み取るかのように西園寺が切り込んだ。



「私に質問がある、そうだろ武藤。そんな顔をしている。」


ギクッ!とするつばさ。

しかしこれ以上の焦りを悟られてはいけないと思い、つばさはすぐに正直な答えを返した。



「はい!私には一つ、いえ、、、3年6組の全員が持っている疑問が一つあります!

それは、、、それは西園寺先生の自信の根拠です!

現実的に考えてレベルAのソルシエを意図して作り出すのは不可能に近いはずです!

それを先生は志願者全員にとおっしゃいました。クラスはいま混乱しています!」



つばさの言っていることは正しかった。

生徒たちからすれば、今日の今日現れた新任教師が突然非現実的なスローガンを打ち立てたところで、

それについてくる人間など一人もいないのは当然だ。が、逆に言えばそれだけ皆が真剣ということだ。

レベルAがどうこうでなく、この場合は信用問題なのだ。

まっすぐな視線でつばさは西園寺に訴える。しかし西園寺は顔色一つ変えはしなかった。



「そうか。私はなあ、自己紹介は短くって決めてんだ。いちいち生い立ちとか、経歴とか、

特におまえらみたいなカスみたいなガキ共にベラベラ自分の素性を喋るのは好かねえんだよ」


それを聞いたつばさは怒りの感情をも混じえたようなに強く言い返した。



「それでは誰もついてきませんよ西園寺先生!」


つばさはその時心で違和感を感じた。自分の言っていることは間違っていないはず。

なのになぜこんなにも感情的になる?いつものように冷静でいればいいのに。

なぜ、、わたしはこの人の前でこんなに心をあらわにしてしまうんだ。


西園寺を取り巻く空気に、心を奪われていくような感覚だ。

彼女の絶対的な自信に『圧倒』されている。




「ほう、、おまえ度胸があるな」




そう言ってにやりと笑う西園寺。

一方つばさのほうは、今の一言にかなり神経を使ったのかじわりと汗をかいている様子だ。

わずか数分で室内には暗雲が立ち込めている。つばさは西園寺から一切目を離さない。

まるで試合前のボクサーのようだ。つばさの視線が西園寺の瞳に食らいついている。



「目に見えないものを感じるのがソルシエだろうが。

 おまえもシングルとはいえまだまだお子様だな。

 おまえも小さい頃親に言われて仕方なくソルシエになったたちか!

 そういうあまちゃんがなぁ!この業界を腐らせんだよ!」



さすがのつばさもいてもたってもいられなくなった。

なぜならつばさにはソルシエになった揺るがない理由があるからだ。

そのため母親の反対を押し切ってやっとの思いでシャルム学園へ入学した。

彼女は天才ではなく努力家だった。そのためシングルまでの道のりも並々ならぬ苦労の連続だった。

どんな試練も歯を食いしばって乗り越えてきた彼女の努力は、いつしか才能を凌駕し国内トップクラスへと登りつめさせた。




「西園寺先生、今の言葉は聞き捨てなりません!私は懇願してソルシエになったのです!

幼い頃にS4がこの国で起きた大きな危機と戦いました!その時から私は自分もS4のようになって

世界の闇と戦うと強く決めたんです!だから今までどんなに辛いことにも耐えてこれたんです!」



「フンッ、馬鹿者が。S4はその戦いに敗れただろうが!結局多くの人を救えずにノコノコ帰って行ったんだよ。おまけに今は一人減って3人だ。

 いいか武藤、奴らは結局世界を相手にする器じゃなかったんだ。

 武藤!あんなアイドル紛いの奴らの栄光にすがるんじゃない!これからは前を見ろ!」



つばさはの体は小刻みに震えだしていた。

怒りからだろうか、はたまた悔しさからだろうか、自身の生い立ちを侮辱され今にも爆発しそうな様子で立っている。

今にも何か言い返そうとしたがゴクリと飲み込みんだ。



「とにかく、、、これがいったいどういうことなのか説明していただかなければ、

 わたしは、、、」



「学園を辞めるか?どういうことかはじきにわかるだろう。もういい。今日は帰れ。」




つばさは『失礼します』と一言いいその場からそそくさと去っていった。



(あんな担任に1年間ついていくのは無理だ!1日ですらだ!いくら教師とはいえ言っていいことと悪いことがある!もしクラスの変更ができないのなら私は、、、退学する!)




校門にはつばさを待つりおの姿があった。



「帰るぞ!りお!」



早足で通り過ぎるつばさに一瞬言葉をかけようとしたがすぐにやめ、

りおはつばさのすぐ後ろを着いていく。




指導室に残った西園寺は冷静だった。

長時間罵声を浴びせたのにも関わらずわずかな疲れも見えない。

フーと息を吐き立ち上がって窓の外から校門を出るりおとつばさを、じっと見つめていた。





ー翌日ー


今日は新学期の全校集会。

内容はいたって普通で通常の学校ととりわけ変わりはない。

もちろん新任教師の紹介もここで行う。

同席する保護者たちはそこで初めて、どんな教師に我が子を預けているのかがわかるという保護者にとっては非常に重要なイベントだ。

通常は新学期初日に開くのだが、今年は理事長ミエル・ルヴァンの都合で2日目に開かれた。

とはいっても今年の新任教師は西園寺のみ。

『早く帰れる』という理由だけではあるが、生徒たちにとってもこういうものは短く終わった方が何かと都合がいい。



「えー続きまして、新任教師の紹介に入らせていただきます。

 それでは、西園寺響子先生、よろしくお願い致します。」


ー パチパチパチパチッッッ!! ー


講堂内の盛大な拍手の中壇上へと上がる西園寺。会場からはそのあまりの美しさと輝かしいオーラにどよめきが起こっている。

拍手がようやく鳴りやむと西園寺はしばらく会場を見渡した。

マイクスタンドからマイクをとり、一瞬キーッ!!というノイズが響き渡る。



「ぅぁ、なんだこれ、るせぇな、、!

ゴホン!えーご紹介に預かりました西園寺です。

私は自己紹介が苦手ででしてね、本当はしたくありません」



一瞬シーンとしたのだが、教師らしからぬ言葉に、先ほどとは明らかに毛色の違うざわめきが起こる。

保護者たちが心配そうな目で見つめる中、西園寺はさらに会場を驚かせた。



「えーですので、自己紹介に代わり私の魔法と魔力を、みなさんにご覧いただきたいと思います。」



会場のどよめきは次第に増していくが一番驚いているのは理事長だ。

どうやらこの展開を全く知らなかったようだ。

しかも尋常でない焦りの表情を浮かべている。なぜそんな焦っているのだろうと辺りにいる生徒たちの中には笑っている者も大勢いた。


しかし、3年6組だけの生徒たちは大盛り上がりだった。

あれだけ大口を叩いていったいどんな魔法を使って見せるのか、実力のほどを伺える絶好のチャンスだ。

とはいえこんな屋内でいったいどんな『モノ』を見せるのだろう。

当然ながら屋根や壁があり、スペースが狭いため使える魔法も魔力も限られているのではないか。と誰もがそう思っていたその時だった。



ー ガシャーーーーーンッッッッッッ!!!!!! ー



突然爆発音が横から聞こえてきた!

砂埃が全て吹き飛ぶとそこには目を疑う光景が広がっていた。



「ぁ、ぁ、か、壁が、、、なな、、なななくなってましゅぅーー!!!」



体育館の片方の側面が全て綺麗になくなっており、校庭が丸々見えるような状態になっている。

爆発の際に飛んできた破片や金属などは、魔力を察知した上級生のソルシエたちが一斉に保護魔法のバリアを張って中は守られていた。

壇上に目をやると、風を受けたように髪を逆立てた西園寺が目を閉じ無表情で立っていた。



「みんな上よ!上を見て!」



空から何かが降ってくる!

すごい数の衝撃弾だ!



ー ズドーーーーーーンッッッッッ!!!!!!! ドドドドドッッッ、、、、、ー



校庭には無数の穴が開き、一番大きなモノでは直径30メートルほどの穴が空いている。

凄まじい地震と衝撃音の中で、皆立っているのがやっとだ。

大きな穴からはマグマが『ゴーーーーーッッッ』という大きな轟音を立てて勢いよく吹き出てきた。


立っていられのがやっとの中で、つばさは冷静に西園寺を凝視している。



「マグマまで到達しただと、、?なんて力だ、、、いったい彼女は、、、!」



そして空高く噴射したマグマは重力によって地上に降り返ってくる。

体育館はすぐにマグマで覆われ、生徒達は持てる力の全てを使いマグマの侵入を防いでいる。

が、バリアも崩れてきたのか段々と中の温度が上がってきている。




ー キャーーーーッッッ!!みんな溶けちゃうーーーッッ!! ー



講堂のすべて燃え去り、あたりもう赤一色だ。

そこにいる全員が死を覚悟した。



「だめだ、、、もう限界だ、、、、あの人はいったい何を、、」




その時、西園寺がいる壇上のあたりから微かに光が発せられているのをつばさは発見した。



「、、、あ、、、あれは、、、!」


スパーンッッッ!と光が弾け、先ほどまでの真っ赤な景色があっという間に光に包まれる。


壇上に目をやるとそこには西園寺とは別人の、青い目にプラチナブロンドの女が立っていた。

しばらくするとその女はゆっくりとマイクを口元に運んだ。



「皆様、、私は、、、西園寺響子。ソルシエールとしての通り名は『ティターニア・ルヴァン』。以後お見知り置きを。 少々手荒ではありましたが自己紹介が終わりました。」




「ば、ばかな!?ティターニア・ルヴァンだと!?」



つばさは自身の耳を極限まで疑った。元S4のリーダーであり、世界三大ソルシエールの一人である

彼女が目の前にいるはずがないからだ。



西園寺はすぐに保護魔法と修復魔法を使い、校庭の穴を体育館の壁を修復し、

マグマも一瞬で消し去った。



そして、放心状態のつばさを残しちあきやりお、ほとんどの生徒や壇上に押し寄せた。

あろうことかその中には保護者も多く混じっている。



ーー きゃーーーーー!なんでなんでーーーー!!なんでいるのーーー!!! ーー


ーー ティターニアーーー!!!!サインちょうだーーーーい!!!!! ーーー


ーー 私もーーー!!!!!握手してーーーーー!!! ーー


ーー 写真!写真!こっちみてーーーティターニアーーーー!!!  ーーー




西園寺はその場に立ちながら笑顔を見せていたのも束の間、すぐに元の姿へ戻り



「おらぁ!お前らうるせんだよ下がれぇーー!またマグマにぶちこまれてぇのかこらぁ!」


『キィー!』激しいノイズを立てながら講堂に響き渡ったその罵声を受け、

そこに留まる者は誰一人おらず、全員が所定の場所へ逃げるように戻っていった。

しかし会場のどよめきは全くおさまっていない。

そんなことは気にもとめず再び西園寺はマイクを取る。



「武藤つばさ。」



名前をよばれたつばさは心臓が止まったかのように微動だにせずまばたきすら忘れれてしまうほどだった。

講堂内の視線はつばさに一点集中している。



「志願者全員レベルAだ。これがいったいどういうことなのか、まだ説明が必要か?」



西園寺がそう言い放った瞬間に再び大きな歓声が上がった。



ー きゃーーーッッッッ!!かっこよすぎィィィッッ!!!!ー



ー 6組でよかったぁぁぁぁぁッッッッーーーーーー!!ー



ーー わたし人生の運全部使っちゃったかもーーーーー!! ーー




思わぬ超大物の登場に6組の生徒は歓喜した。

もちろんそれは他の学年やクラスであろうと同じだった。

一生のうちですれ違うだけでも幸運といえるであろう存在。その人がいま目の前にいる。

世界中のソルシエにとって『ティターニア・ルヴァン』とはそれほどの人物だ。



歓声で溢れる中、つばさは何も言わずに立ち尽くしていた。



続く

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