26話 ー チェックメイト ー
保井元
放送作家を経て80年代にアイドルグループをプロデュース。
空前の大ヒットを飛ばしアイドルグループ界に多大な功績を残した。
作詞家でも活躍する傍ら、保井は現代において再びアイドルグループのプロデュースを試みる。
新感覚の斬新な企画で自身のグループを国民的な地位までに押し上げること。
そして現実世界だけではなくアニメや映像業界にもその手をのばそうとアニメ制作プロデューサー「桐嶋守」をプロジェクト進行の役員に起用した。
2004年、企画への着手は目前だった。
そんな中、
「あ、あのさ、みんな何かごめんね。結局あたし、、だったんだね、、、。」
「何を言ってる。今はそんなこと言ってる場合じゃない。目の前の任務に集中しろ!りお!」
りおは幼少期の自分の発言をまだ気にしているようだ。
無理もないだろう。元より自分たちは、小学生の頃から秋葉原を改変するために皆が奮闘していたのだから。
まさかその事の発端が自分自身だとは夢にも思わなかったのだ。
そんなこととはつゆ知らず、4人で何気なく過ごしていた。りおはやりきれない気持ちでいっぱいだった。
「りおちゃん。大丈夫だよ。私たちは何とも思ってないよ!それよりもこれから、、」
「そうだ。『保井元』をどうするかだ。見たところりおの父親はプレットとは無関係で正常だったよな。
もしプレットが関わっているのであれば保井に憑依している可能性が高い。いやむしろ確実と言える。
しかし凶悪な事件とかではないからな。いたとして弱小なものだろう。」
保井の事務所ははもう目前だ。3人は保井に接触する前に作戦をまとめた。
まず保井の会社に行きそこに本人がいるかどうかを確認する。
安井は、桐嶋と違って自分達に何の関連も無いため言葉だけで説得するのは難しい。
したがって最終的には『強行的な手段』を使わざるを得なくなってくる。
作戦内容はこうだ。
1. もし保井にプレットが憑依していればそれを即座に討伐する。
2. プロジェクトに関する書類やその他を全て破棄。
3. 1と2を遂行した後、シャルム学園へ行き理事長を介して元の時間軸へと戻る。(タイムズタワーが建設中のため)
事情をそのまま説明すると面倒なことになるため、たとえ相手が理事長であろうと問いただされた場合は嘘をつくことを辞さない。
少々荒っぽいが、以上が限られた時間で練った即席の作戦だ。
3人の頭の中にはもう秋葉原の改変や、アイドル云々などもうとうない。
ー すべては大切な友達を救うため ー
「いま中をちょっと見てきたがそれらしき人物がいたぞ。しかも一人だ。」
「つばさちゃんほんと?あとは何かあったりした?」
「ああ、大有りだ。案の定プレットが憑依している。」
思った通りだ。保井にはプレットが憑依している。それならば話は早い。
プレットを討伐しさえすれば保井の企画の『大きな成功』は無き物にできる可能性が高い。
そのタイミングで桐嶋守からのアニメ化プロジェクト中止の一報が入れば尚その確率は高くなるはずだ。
ー もうここに賭けるしかない。 ー
「ちあき、つばさ、行こうか。私たちの未来をかけて。」
ちあきとつばさは大きく頷いた。気を高め戦闘に臨む。
秋葉原改変作戦に初めて着手してから5年。最初はお遊び程度で始まったこの作戦。
『ねじ曲がってしまった運命』を変えるために今日まで必死に、本当に必死に走ってきた。
いつしかそれは、『変えてしまった時間』と『失った切な友達』の、責任を果たさねばならないという
けじめに変わっていった。
これですべてが変わる。そう信じよう。
3人は結界を張りプレットを確認した。
しかし、
「ま、待て、、、これは、、、!」
「なんて魔力、、、。こんなのが憑依して立ってられる人間がいるなんて、、、。」
それは『一時代を築くに相応しい魔力』だった。もはや地球規模と言ってもいいだろう。
保井と桐嶋守によってこの魔力が日本中に散りばめられていたと思うと恐ろしく全身に鳥肌が立ってしまう。
「ダメだ、、、とてもじゃないが太刀打ちできない、、、!」
「、、いや、、ちあき!つばさ!あいつの動きを封じてもらえる?」
りおは突然二人に謎の指示を出した。ちあきとつばさは驚いた様子だが、りおの真剣な顔つきを見る限り何か勝算があると踏む。
りおを信じ、言われた通りすぐに二人掛かりで全力でプレットを制圧するちあきとつばさ。
そしてりおは二人を見て微笑んだ。
「デリト、、、、リウス、、、。」
ー スパーーーーーーンッッッッッ!!!!!! ー
目を開けていられないほどの閃光が放たれ、つぎの瞬間『ゴォォォォォッッッ』という音を立て
凄まじい風速の風が四方八方から襲ってくる。
「、、、お、、おい!りお!何をしている!!その魔法はダメだ!!!」
「大丈夫。心配しないで。あたしダブルSのソルシエだよ。これしかないんだよ。」
最高峰の破壊魔法デリトリウスは禁じられた古代魔法だ。一流のソルシールでもその身を滅ぼすと言われている。
りおは自らの左胸を強く押さえ、魔力を極限まで高める。
「りおちゃんだめ!そんなことしたらりおちゃんが!!!」
「みんな。これはあたしの責任なんだ。あたしがやらなければいけない。大丈夫。あとのことはお願い、、、ね、、、。」
りおは周りの空間がねじ曲がるほどに、ありったけの魔力を吸収した。
そしてりおは全力のデリトリウスを放つ。
ー りおォォォォォォォォォォォーーーーーーーーー!!!! ー
結界の中いっぱいにデリトリウスの黒い光が溢れた。
やがて、その光はゆっくりと収まっていった。。
気を失っていた安井が意識を取り戻した。しばらく辺りを見回したあと、
「あ、あれ?俺は、、、、今なにを、、、、。あ、、ああそうだそうだ秋葉原発のアイドルを、、。
なんだ、、この変な感じは、、、。」
憑依していたプレットは完全に消滅し、保井は正気を取り戻した。
憑依以前と今では思考が一致せず、自分が何をしようとしていたのかわからなくなっていた。
「おい!りお!りお!しっかりしろ!」
「りおちゃん!りおちゃん!」
ちあきとつばさは倒れこんだりおへ必死に呼びかけていた。
体は傷とあざでいっぱいになっている。
心臓は動いているため一命は取り留めいるようだ。
「、、、ん、、、ん?、、、、あたし、、、、」
りおはゆっくりと目を覚まして何とか言葉を発し、
ちあきとつばさの心配そうな顔を見てクスリと笑った。
「りおちゃん!よかった!!よかったよぉ!!!うぇーーーーーんッッッッ!!」
「バカ!本当に!おまえはいつもいつも!お前が、、、おまえがいなくなったら意味が無いだろうが!4人一緒だって約束したじゃないか!」
「う、、うん、、、ご、ごめんなさい、、、。でも、、、でも何であたし、、、?これ、夢??」
「理由は後で説明する!とにかく急ぐぞ!!」
その後すぐにちあきとつばさは安井の事務所にあるプロジェクト関係の書類を片っ端から破棄した。
紙切れ一枚残さずに。
これで全てが終わったはずだ。
長い長い戦いが終わったのだ。5年間の長い戦いが。
少なくともこれで何かが大きく変わっていく。
未来は開けているはずだ。
たとえ未来に帰ってきいが生きていなかったとしても、何度だって時間を遡る。
そしてきいが生き残る未来を何があっても掴む。
懲罰だってなんだってどんなに辛くても、何度だって受け止める。
それが3人の変わらない思いだ。
「立てるか?りお。」
「う、、、うん、でもちょっと右足が折れちゃってるみたい、、ははは、、ちょっと二人とも肩貸して」
なんともタフな少女だ。此の期に及んで笑っていられるのだから。
それもこれも、『望んだ未来』『大切な友達』がその先にあると強く信じているからだ。
しかしりおはどうしても気になった。
「ね、、ねえつばさ、、あたしなんで、、、?」
「ちあきだよ。ちあきが放つ光だ。」
このあと3人はすぐにシャルム学園へ行き、りおの怪我に応急処置を施した。
デリトリウスの反動ため上等な回復魔法でも完治はしなかったがいくらか痛みは少なくなった。
当時の理事長には、12年後の未来でタイムズタワーの屋上で遊んでいたところ、事故で時間を遡ってしまったと説明した。少々無理があるが。
そして学園からすぐに同じ時間軸へ戻してもらえるよう手はずを整えた。
戻ったら、どんな未来が待っているのだろう。
願わくば、すべてが理想のままとなった世界であってほしい。
もしそれが叶わないのなら、
ー せめてきいの命だけでも ー
その強い願いを胸に3人はシャルム学園より、12年後の未来へと転送された。
ー シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ、、、、、、、、 ー
包まれていた光がゆっくりと消えていく。体への負担はタイムズタワーの時と同様、全く無いと言っていい。
周辺の景色は徐々に出発地点だったシャルム学園のとある部屋へと移り変わった。
そしてそこにはある人物が立っていた。
「みなさん、、やっと来てくれましたね。待っていましたよ。大変なことになっています。すぐに出かける準備を。」
そこに立っていたのはミエル理事長と西園寺だった。
「おまえたち。今すぐに戦う体力は残っているか?おまえたちと行かなければならない場所がある。」
3人はなにが起きたのかわからずに呆然とし立ち尽くす。
そしてつばさは尋ねた。
「西園寺先生、どういうことでしょうか?」
「説明してる暇は無い。いますぐ私と一緒に行くぞ。今すぐにだ。」
続く




