24話(前) ー きい ー
つばさが作戦を中断しようと言った夜。きいが一人、会議を抜けた夜。
あの夜からきいは3人と口を聞いていない。
よっぽどのことだったのだろう。
今までこんなことなどなかったのだから。
ちあき、りお、つばさの3人は昼休み屋上へと集まった。
そして本当に今後どうしていくかを決めるには、やはりきいの意見も必要だという結果に至った。
中でもりおは人一倍きいを気に留めているようだ。
「、、んー、、、なんてゆーかあたしは、、、別に大丈夫なんだけどなー。なんとなくお父さんが関わってるのもわかってたというかなんとゆーか、、。お父さんというよりは、「桐嶋守」という男にはいつかぶち当たるかもって段々思ってたし。ただ、、、、、」
大丈夫大丈夫という割には浮かない表情のりお。非常に複雑な心境だろう。
秋葉原は自分たちの理想の方向に改変しつつあるのだが、その分『桐嶋守』の立ち位置は徐々に変化を見せている。
いや、「肩身が狭くなっている」と言った方が正しいだろうか。
「りお、私たちの前では無理をするな。これは飽くまでもしもの話だが、秋葉原を100%改変した時に
おまえの父親や家族がどうなっているかわからないが、今の傾向からならだいたい予想はできる。
おまえはそれでも改変を望むのか?私が作戦を中断したいと言ったのは、おまえを守るためでもあるんだぞ。」
「わかってる。だけど、どっちにしても今のあの街はおかしいよ。今のアニメだっておかしい。
今のオタク文化もおかしい。何かねじれてる。それは絶対事実だし、どうにかしなきゃいけないんだよ。
きっときいもその思いでいてくれてるんだと思う。
あたし、何であんなこと言っちゃったんだろう。
ずっと4人で頑張ってきたのにさ、、。
その先に正しい未来があるんなら、、あたしはどうなってもいい。」
りおの思いは固かった。自分より、家族よりも守りたいもの。
それは自分たちの信じた『未来』だ。
その強固な思いを目の当たりにしたちあき、つばさは再び奮起する。
「りおちゃん、つばさちゃん。今日帰ったらきいちゃんに話そう。最後の作戦を決行するって。」
「ああ!」 「うん!」
ー キーンコーンカーンコーン♪ ー
学校も終わり足早に寮へと帰宅した3人は、リビングできいの帰りを待っていた。
いつものようにすぐ帰ってくるだろうと思っていたのだが、何故だろう。
1時間、2時間経っても帰ってくる気配はない。
テレビでもつけて待っていようと、りおがリモコンを手に取る。
ー えー、、、速報です。本日17時5分、小金井にてアイドル殺傷事件発生ー
「ちょ、、ちょっと待って!アイドルって、、、、」
アイドル文化へ焦点を絞った矢先の出来事だった。
その時ちあき、つばさの2人はある日の出来事を思い出した。
ー りおが留学から戻る2年前 ー
『本日17時頃、アイドルグループAKIBA49の握手会場にて、傷害事件が発生しました。犯人の動機は、、、』
2014年 5月25日 、それは突然の出来事だった。
アイドルグループAKIBA49の握手会場にて、のこぎりを持った男がメンバーを襲撃するという事件が起こった。
ちあき、つばさ、きいの3人はそのニュースを寮内で見ていたところだ。
「こ、これは、、犯人も悪いでしゅ、、。で、、でも、、。」
「でも、、?きいちゃん?でもどーしたの??」
どう考えても犯人が100%悪いで終わる話だ。きいの穏やかな性格なら尚更。
しかし、この日のきいはどこか違っていた。
「ア、、アイドルなんてう、、うそのかたまりでしゅ、、。ひげきの、、ひげきのみなもとでしゅ。」
「おいおい、きい。どうした。そんなことないだろう。」
明らかにいつもと違う様子のきいに、ちあきとつばさは顔を見合わせ困惑していた。
きいのおかしな様子を見て、この場をなんとか和ませようとちあきはきいへ喋りかける。
「きいちゃんにも、嫌いなものがあるんだね。ハハハ、、。」
「べ、、べつに、、きらいとかじゃ、、な、、ないでしゅ。ただ、、、」
「ただ、、?」
「これいじょう、、、これいじょう秋葉原を、、け、、けがさないでほしい、、だ、、だけでしゅ、、。」
その時は一体なんのことか全くわからなかった。
しかし今日、ちあきとつばさはやっとその意味を理解した。
ー そうか、、そういうことだったのか。きいは気づいていたんだ。ー
2人はそう思った。
だとしたらなぜあの時わかってやれなかったのか。つばさが『アイドル文化がなんらかの形でこの街の...』と言ったとき、その後きいが席を外してしまった時、なぜ彼女の訴えに気づいてやれなかったのか。
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
となればおそらく、きいは小金井の事件現場に駆けつけているはずだ。
曲がりなりにも自分たちが土壇場で打ち立てた、『アイドル文化破壊作戦』の上、ニュースを見ていてもたってもいられなくなり、きいは何かを実行しているはずだ。
どんなことがあっても、自分の信じた道を疑わない。滑舌は悪くとも、誰よりも熱い心の持ち主。
それが東山きいというソルシエだ。
故に突拍子もない行動をとることが多かった。いつも一緒の4人から外れて一人違うことをしている時がよくあった。
みんながラーメンを食べる時、一人だけうどん屋さんを探してうどんを食べることがあった。
映画を見ていた時一人だけグースカ寝てることがった。
4人が同じ方向に進む中、そんな風に逆方向に歩いて行ってしまうことが多々あった。
それがまたきいの面白いところでもある。
今回もきっとその延長線上で、また普通に目の前に現れる。
この事件を解決したらきいに謝ろう。
3人がそう思っていた。
続く




