23話 ー 答え ー
「先生、、。」
「、、、あら、、、武藤さん、、、。どうされたのですか?」
西園寺はうつろな表情で言葉を返した。
普段の西園寺が嘘のようだ。
シャルム学園へ転勤してきた初日以来のおしとやかな西園寺だった。
つばさは一度3人のほうを振り返り、心を決めた。
そして神妙な面持ちで3人へ言葉をかけた。
「ちょっと、、、みんなちょっとだけ、、外してもらえるか。」
3人は戸惑うどころか、むしろその言葉を待っていたのか、
一度頷いてすぐにその場を無言で立ち去った。
不気味なぐらいの抵抗の無さ。
つばさはこの約2ヶ月を思いながら歩いた。
西園寺といえば、言葉も態度も強かった。
厳しいトレーニングの中優しい言葉など一つもなく、本当に辛かった。
そんな西園寺が今、言うがままに自分の後ろをゆっくりと着いてくる。
足音が一つ、また一つとその感覚を広げてゆく。
やがてつばさはある公園でその足を止めた。
「先生。いくつか質問があるのですが、よろしいですか。」
つばさの問いかけには答えず、ベンチに腰掛け下を向く西園寺。
そんな西園寺を目にしたつばさは、核心をつく質問を投げかけた。
「先生はなぜ日本へ来られたのですか?3大ソルシエールというお方が何故わざわざ日本へ?」
つばさの問いかけに微動だにせずうつむく西園寺。
いったい何を考えているのだろう。いや、何も考えていないのだろうか。
つばさは拳を握りしめ、無心で質問をぶつけ続けることにした。
「先生は私たちに罰を与えましたよね。あれは本当に規定によってなのですか?先生。
個人的な動機はひとつもありませんでしたか?先生、答えてください!」
ー 、、、、、、、、 ー
「先生は私たちの秋葉原改変を阻止しに日本へ来られたのではないですか?
でなければわざわざあなたのような大物がこんな小さな島国に来るはずがない。
私たちに罰を与えたのもそれが理由なのではないですか。
15年前にちあきが落としたキーホルダーが先日寮へ届きました。そこには部屋の番号も記載されていました。」
つばさが一旦質問を終えると、
西園寺がようやく小さな声でつぶやいた。
「何が言いたい。」
顔は未だ俯いているが、明らかに怒りの感情が込められた低い声。
つばさは一瞬すくんだが、それに負けじと震える体を抑え必死に平静を装う。
「例えばの話です。あなたが過去を変えられたくない理由があるとすれば私の知る限りひとつしかありません。
秋葉原通り魔事件の時の『バンシー・ルヴァン』の死を、、、」
つばさの質問の途中で西園寺はベンチから姿を消した。
そして瞬間移動でつばさの目の前に現れ、つばさの胸ぐらを掴み、片手でその体ごと持ち上げた。
「おい。勝手なことぬかすなよ?クソガキ。バンシーは死んでねぇんだよ。あたしの中でちゃんと生きてんだ。次バンシーの名前を出してみろ?このまま貴様を殺すぞ。」
「、、、ぅ"、、、ぅぅ"、、、、く、、、くるし、、、ぃ、、」
先ほどの静けさは嘘のように消え去り、彼女は恐ろしく豹変した。
西園寺の心にはバンシー・ルヴァンの名前が強烈に刻み込まれている。
もはやそれは、本当に彼女の中に生きているような、そんな錯覚すら覚える。
しかし数秒ほどで我に返ったのか、手を離しつばさを下へ落下させた。
「ゲホッ!、、ゲホ!!」
つばさは地面に倒れこみ大きく咳き込んでいる。
必死で起き上がり、やっとの思いで両足でを地面へつけた。
まだ声がうまく出せず息を切らすつばさに、西園寺はさらに注意を促した。
「おまえたちはその張本人があたしだとわかったならどうする。倒すか?そうしたけりゃするがいい。
お前ら全員一瞬で全員戦闘不能にしてやる。
過去を変えるというのはな、おまえらが思ってるほど単純じゃないんだ。とても重くて、時に残酷なんだ。
人の命が関われば尚だ。おまえらのやってることが許されるなら私だって過去に行ってる。
行って、何もかも自分の良いように造り替える。
でもそれじゃダメなんだ。
いいか?もう過去へ行くんじゃない。でないとおまえらが傷つくことになる。」
西園寺はそういうとつばさに背を向けゆっくりと歩き出した。
歩き出した西園寺の背中を目で追い、やっとの思いで声を絞り出すつばさ。
「せ、、せんせ、、、」
その声を聞き西園寺はピタっと立ち止まり、つばさの方は振り返らず前を向きながらこう言った。
「人は誰しも嫌なことから目を逸らすが、自分の欲望に忠実な生き物だ。
世の中を変えるのはいつの時代も一人じゃない。もちろんお前ら4人でも無い。
時代と、その時代に生きる大勢の人々が成し得ることだ。
この街も同じだ。
時代に抗うことは人々に抗うということ。
人々に抗うということは、自分に抗うということ。
自分に逆らってまでお前たちはどこへ行くつもりだ。
お前達が目指す場所は、時の流れに流されてしまったというのに。」
西園寺はゆっくりと歩き出し、姿を消した。
つばさは西園寺が立ち去った数分後、西園寺の座っていたベンチへ腰掛けた。
握りしめていた拳をゆっくりと解いた。
時代、人、時の流れ。
西園寺の発した言葉がつばさの頭の中で何度もフラッシュバックする。
「時代、、、人、、、、。」
そしてつばさは『あること』に気がついた。
何分、いや、何十分か経っただろうか。
しばらくするとそこへちあきたちがやってきた。
「つばさちゃん!どうしたの?探したんだよ?」
ちあきたちの言葉につばさはうまく答えることができなかった。
いったいなぜ西園寺は脅威を見せたのか。
この道の行く末は西園寺と戦うことになるのだろうか。。
底知れぬ不安と恐怖が体の奥から溢れ出そうになるつばさ。
そして西園寺の言葉によって気がついた『あること』
。
「今日は、、、いったん帰ろう、、、。寮で話す。」
明らかに様子がおかしくなっているつばさを、3人は神妙な面持ちで眺め、特に会話も無いまま寮へと戻っていった。
寮についた4人はまたしても言葉を交わさぬままリビングへ。
誰かが話し始めるのを待つかのようにしばらく沈黙が続いた。
その沈黙を破ったのはりおだった。
「ねえ、、、つばさ、、。あんた、なに話してたの。西園寺先生と。」
りおの問いかけにつばさはすぐには反応を示さなかった。
まだ何かを考えているのだろうか、言葉を選んでいるのだろうか、そんな表情が伺い知れる。
そしてつばさはようやく口を開いた。
「なあみんな。もう終わりにしないか。この作戦。」
3人はなんの冗談かと思い一瞬あっけにとられた。
4人にとって秋葉原の改変作戦は遊びではなかったから無理もない。
どんなに小さなことでも変化を見逃さず、ずっと積み重ねてきた『仕事』だ。
小学校の頃から何度も何度も失敗を重ね、いまようやく形を現し始めている。
確かに一度はバレ、大目玉を食らったが次の教訓にすればいい。
そう思い続けてきたはずだ。
「ちょっとつばさ?あんた今更なに言ってんの?どうかし、、、」
「ダメなんだ!!」
歩みよりつばさの肩にに手をかけようとしたりおだったが、
つばさはその手を勢い良く払い落とした。
「ダメなんだよ、、!過去を変えるってことはそんなに簡単なことじゃないって、、、!
わたしたちが傷つくことになるって、、、、、。
最初はわからなかったんだその意味を。だけどな、よく考えてみろ。
秋葉原が改変されるごとにそのツケがちゃんと回ってきてるんだよ、、、。
りお、、、おまえにだ、、、!」
「、、なッッ、、、えッ???」
3人はつばさの言葉の意味が全くわからなかった。
困惑した様子のちあきは、この場を何とかしようと考えたが
結局何も解決策は浮かばず、つばさの前にそっと立った。
「つばさちゃん、、いったい西園寺先生と何を話したの?」
やけに落ち着いているちあきを見たつばさは自らも徐々に落ち着きを取り戻していく。
そして取り乱してしまったことを3人に謝り、
西園寺と話したことや、これまでに起きたことについてのつばさなりの見解を話し始めた。
西園寺が何か秘密を握っていることや、その秘密がどういったものかまだ定かではないこと。
おそらく過去を変えられたくない理由がバンシー・ルヴァンを絡んだその周辺にあること。
そして何より、この秋葉原改変作戦においてその成果に比例するようにりおの、あるいは「桐嶋守」周辺のいたる部分が良からぬ方向へ変わっていってしまっていること。
西園寺が言っていた「もう過去へ行くんじゃない。でないとおまえらが傷つくことになる」
は、そのことを指しているのではないか。
対して洗崎護は『アイドル文化反対派』であり秋葉原再開発も反対派だった。
右の洗崎、左の桐嶋という構図だ。
要するに今まで自分たちが積み重ねてきた成果が、結果としてこうなったと考える。
ー『洗崎の前進』『桐島の後退』ー
西園寺が最後につばさへかけた言葉。
『時代』 『人々』 『時の流れ』
以上のことを踏まえてつばさが導き出したひとつの答えであり、桐島と洗崎の決定的な相違点。
そして、この時代に生きる人々が作り出した時の流れの特異点。
ー それは、、、ー
「『アイドル』だ。おそらく『アイドル文化』が何らかの形でこの街と人々を変えてしまったんだ。
これがどういうことだかわかるか?相手は「文化」だ。それだけでことの重大さがわかるだろう。
わたしたちが死に物狂いで文化を抹消し作戦をやり遂げたとしても、その先に待っているのは怒りに満ち溢れたティターニア・ルヴァンだ。
みんな、ジ・エンドだ。」
4人は、全ての道を塞がれたようだった。
気づけば色々な人を巻き込みこんなにも大事になっている。
幼い頃の遊び場をただ取り戻したかっただけなのに。
自分たちが相手にしていたのは『文化』という動かしがたいモンスターだった、というだけでも足がすくむが。
まさかそれをクリアしても決して抗えない大物が後ろにいるとは。
想像を絶する落胆の中、最初に口を開いたのは意外にもちあきだった。
「み、みんな、、、よくやったよここまで!もうじゅうぶんだよ!だって半分ぐらいは街も元どおりになったしさ!
もう、、いんじゃないかな?」
「ああ、、、はは、、ははは!そう、そうだねーちあき!もう、、いいんじゃいかなーって私も、、、」
「ダメでしゅよ!!!!」
ー え?、、、、、、、、 ー
声を荒げたのはきいだった。
「み、みなしゃんは、、、しょ、、しょれで、、、いいでしゅか、、、!?
き、、きいはい、、イヤ、、、でしゅ、、、、。こ、、こんなちゅ、中途半端じゃ、、い、、イヤでしゅ、、、!!」
場は静まり返ってしまった。いくら記憶を辿ってもここまで声を荒げたきいを見るのは初めてだったからだ。
いまの言葉だけでよほど体力と神経を使ったのだろう。息を切らし、きいの小さな肩が上下に動いている。
「き、、、きいは、、、ひ、、ひとりでもや、、、やるでしゅ、、、、。」
そう言い残すときいは自分の部屋へ戻っていった。
リビングに残された3人はきいがとても遠くへ行ってしまったように感じた。
なぜだろう。ただ部屋に戻っただけだというのに、
とても、、、とても、、
遠くに感じた。
続く




