20話 ー藝淑桜子という女ー
それは一瞬の出来事だった。
洗崎のその言葉は、りおときいの時間を止めた。
「はは、大丈夫だよ。尾行が下手なシャルム生。さては君たちだね?15年前にここに来て
動画に落書きしたりキーホルダーを置いていった『魔法少女』は。」
一般人が知りえないはずの魔法少女の存在。
だとすればこの洗崎護という人間は何者なのか。
プレットか?いや、そんなはずは無い。感じる魔力が0であること。
彼にプレットが宿っていない証拠だ。
ではなぜ。
りおは考えを巡らせるが全く答えが出ない。
これは危険な状況なのか?それすらもわからない。
まさに時が止まったような空間に3人は立ち尽くしていた。
そして洗崎は一つ咳払いをし、優しい笑顔で話し始めた。
「なーんてね、冗談冗談。いやー、監督なんてやってるとさ、時たまファンタジーと現実が区別つかなくなっちゃう時があってねー。」
ー えーー!なんだーびっくりしたー!シャレにならないから! ー
りおは心の中で思った。
と、りおはさっきから全く言葉を発しないきいに気づいた。
恐る恐るきいに目をやる。
すると、
「ぁ、ぁわわ、、、ぁわわ、、、、」
「ちょっときい!大丈夫!?」
きいはガッツリ目を回していた。
あまりの衝撃に気絶寸前といったところだろうか。
無理もない。さっきまで尾行してた男に突然裏をかかれ「おまえら魔法少女だろ」と言われたのだ。
誰だって焦る。
「大丈夫かぁ君たち?まるでほんとに魔法少女ですってリアクションだねぇ。ノリがいいなぁ最近の子は。」
とはいえ見つかってしまったことには変わりなく、少々面倒な状況になってしまった。
この状況を打破するには方法は一つしかなかった。
「あ、あの、、洗崎さん、、、」
「ん?なんだい?」
「わ、わたし実は!桐嶋守の娘で桐島りおといいます!
それで、こっちが同級生せのきいで、、、」
そう、これしか方法は無かった。
でなければ学園に連絡がいってしまうか、最悪の場合警察もでてきかねない。
りおの苦渋の選択だった。
「りお、、きい、、うーん、、
とてもいい名前だなぁ、、。
って?え?桐嶋の?じゃあ君は、、あのりおちゃん?」
「え?は、はい!え、でも『あの』って?なんで、なんで知ってるんですか!?」
「知ってるもなにも君が小さいころ何度も会ってるじゃない!て、覚えてないよね。
しかしこんなに大きくなってー!いやー!感動した!
どうだい、立ち話もなんだしちょっと中見ていくかい?」
ピンチは一変、またとないチャンスへと変わった。
まさか自分を知っていたとは想像もしていなかったりお。
逆にそれが分かっていればこんなに面倒なことしなかったのにと後悔する面もある。
これ以上ないシチュエーションだ。聞けることは全部聴こう。
そしてりお、きいは人生2度目の制作会社ブリリアントのオフィス内へと入っていくのだった。
ー 一方そのころ ちあき、つばさペアは ー
「おお、やっと降りるようだぞ、ん?、、てここは、、」
「秋葉原だね!藝淑さんてやっぱりこんなすごいところ住んでるんだー。いいなぁ。。」
桜子が降りたのは秋葉原のちょうど真ん中にあるマンション、『タイムズタワー』だった。
地上40階建ての高層マンション、桜子はその最上階に住んでいる。
1階にはロビーがあり、24時間コンシェルジュが常駐している。
桜子は車を降りると足早にロビーへ向かった。
程なくして着替えを終えた彼女は付き添いをつれマンションを出てきた。
そして車には乗らず徒歩でどこかへと向かうようだ。
10分ほど歩いてたどり着いたのは秋葉原からほど近い神社、『神田明神』だった。
こんな時間にお参り?
ちあきとつばさは顔を見合わせた。
その時、つばさの携帯が鳴った。りおからのメッセージだ。
ー いまブリリアントにて洗崎護へインタビュー中! ー
「な!どういうことだ!?なぜブリリアントに!?」
「どしたのつばさちゃん?」
思わぬ知らせに驚くつばさ。まさかあのコンビに先を行かれるとは。
つばさは自分たちもなにか行動を起こさなければならい衝動にかられる。
あの二人に負けるわけにはいかない。
そしてつばさは腹を決める。
「ちあき、行くぞ。藝淑桜子を直撃インタビューだ。」
「え?エ?なんでいきなりどうしたの?」
ちあきの言葉は気にもとめず、つばさは賽銭箱の近くにいる桜子の元へ駆け寄る。
ちあきはというといきなりの出来事に動じてしまい物陰に隠れたままだった。
すると足音に気付いたのだろうか、桜子はつばさのほうへと顔を向けた。そして、
「藝淑桜子!おまえに一つ聞きたいことがある!」
桜子は一瞬肩をビクッとさせたが、すぐに前で腕を組み、口角を上げつばさを睨みつけた。
「あーら、あなたは桐嶋さんのお連れの。誰だったかしら?」
「武藤つばさだ。」
「あーそうそう、武藤さん。何かしら?あなた方の下らない用事に付き合うほどわたくし暇じゃありませんのよ?」
つばさも桜子とまともに会話するのはこれが初めてだ。
なにせ彼女はいつも他を近づかせないオーラを放ち学園生活を送っている。
才色兼備の桜子には当然ファンも多いのだが、それすらも一切相手にしないプライドの持ち主だ。
今回のように完全なプライベートで突然話しかけられるようなことは、学園で馴れ馴れしくされよりも気持ちが良くないようだ。
「何かご用事があるならこの『黒川』に申していただけるかしら?黒川、お願いね。わたくしは先に帰宅します。」
「は、かしこまりました。」
「お、おい!待て藝淑桜子!」
そういうと桜子はそそくさと神社出入り口である階段のほうへと向かった。
まるで芸能人とマネージャーだ。つばさはそんな愚痴がこぼれそうだった。
おそらくここで何かをしようとしてもとても面倒なことになりそうだ。
とつばさは判断していた。
しかし少し時間はかかるかもしれないが、桜子に従いこの付き添いの者に話してみるのもありかもしれない。
そうすれば当人同士ではなく大人に中に入ってもらえる。桜子も嘘はつきづらくなるに違いない。
逆にチャンスかもしれないと思ったつばさは帰る桜子の背中を横目に、黒川という男に話を切り出した。
「実はですね、私の友人である国望ちあきという者にとある物が送りつけられまして。そのことについて藝淑さんがなにか知らな、、、、」
ー ちょちょちょ、ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁ! ー
「え?」
ものすごい勢いで桜子が戻ってきた。顔を見るともはや別人というぐらい焦りを露わにしている。
わずか10m足らずを戻ってきただけで信じられないぐらいの息のキレようだ。
「ハァハァ、、、く、、黒川、、ハァハァ、、、外しなさい。」
「で、でもお嬢様これはいったい、、、?」
「いいから外して!」
「か、かしこまりました、、、、」
何が起こったのかまったくわからないつばさだったが、
この焦り用から見るとどうやら話の主導権を握ったように感じる。
付き添いの黒川という男は去っていった。
もしくはどこか離れた見えないところに待機しているのか?
それはわからない。が、これはチャンスだと確信したつばさは話を進めることにした。
「その動揺、私には理由はわからないが心あたりがあると取っていいんだな?」
「そ、その前に、、どうしてそれを知っているの。差出人の名前、書かなかったはずなのに、、」
「そんなことはどうだっていい!じゃあ逆に聞くがなぜあのタイミングで、あんなもの送りつけてきたんだ!
あんなことができる人物はな、最低でも私たちを監視していないと不可能なんだ。
さあ、ここでハッキリ教えてもらおうか。貴様の思惑を!」
「なぜって、、、そ、それはわたくしの正直な想いですわ!というか黙って聞いてればなんですの?
私は監視なんてしてませんし、その前に国望さん以外の方がなぜ出てくるのですか!?」
つばさはなんとなく違和感を覚えた。どうも話が噛み合ってないようだ。
どこだ、どこがおかしい。つばさは必死に考えた。
その考えはまとまらないまま、そばにちあきがいないことに気付く。
つばさは先ほどいた物陰のほうを見てちあきにこちらに来るよう合図をする。
「おい!ちあき!ちょっと来い!」
桜子はその言葉を聞いて再び焦りの感情を露わにした。
どうやらつばさが一人で来たと思っていたらしい。
「おいちあき、あのキーホルダーを出せ。」
「あ、うん、、わかった。」
ちあきはカバンの中を探り届けられたキーホルダーを取り出しつばさへ渡した。
つばさはそのキーホルダーを桜子に突きつけ、最期の詰めだと言わんばかりに凄まじい圧力で問いただす。
「このキーホルダーだ。なぜこんなものを送ったんだ。理由を答えてもらおうか」
すると桜子は目をまん丸くしてそのキーホルダーを凝視。そしてすぐにこう答えた。
「なんですかこの汚いキーホルダー。わたくしがこんなもの国望さんに送るはずが無いでしょう。
わたくしだったらもっと高価で綺麗なものをおくりますわ!」
「は!?、、ちょっと待て、、じゃあ貴様はいったいなにを送ったんだ!!」
「、、え、、そ、その、、、それは、、」
つばさの問いかけに頬を赤らめる桜子。
一体こいつはさっきからなんなんだ。いくつ表情を持っているんだ。
つばさは訳がわからないままちあきの顔を見る。
するとちあきが何かに気づいたようだ。
「お、おいちあき、どうしたんだ?」
「あ、あのもしかして、、、桜子ちゃん、あのら、ラブレターって、、、」
桜子はちあきのラブレターという言葉に対し絵に描いたように肩で驚く。
赤らめた顔はさらに赤さを増し、ついには下を向いてしまった。
話がまったくわからないつばさ。たまらずちあきに問いかけた。
「ラブレター!?なんだ!なんのことだそれは!?」
「い、いや、、みんなには黙ってたんだけどね、、、実は今日ポストに差出人不明のラブレターが、、、」
つばさの中で非常にゆっくりではあるが点と線が繋がっていく。
それと同時に、自分の勘違いで桜子を詰めてしまったことに対する恥ずかしさが湧き上がってきた。
「あ、あの、、、、藝淑、、、、」
「、、、ば、、、、ばかぁぁぁぁっ!武藤さんのばかぁぁぁッ!国望さんも、、、ばかぁぁぁぁぁッ!」
桜子は半泣きで叫びながら神社を出て行ってしまった。
「お、おい!」
「あ、、あの、、わたし、、、なんかごめんね、、、」
話は完全に振り出しに戻ってしまった。
しかしハッキリしたことがある。
それは桜子がキーホルダーの送り主ではないということだ。だとするといったい誰が?
つばさのようやく掴みかけた手がかりは、
砂のように手の中からゆっくりとこぼれていった。
続く




