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魔法少女☆ソルシエ  作者: Rio.K
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2話 ー新任教師(1)ー

朝靄けむる午前5時。


ソルシエの朝は早い。ちあき、りお、つばさ、きいの4人は「魔法学校シャルム学園」の学生寮で暮らしている。


起床一番乗りは決まってちあきだ。


自分の支度を速やかに済ませ、他の2人を起こすことが毎日の日課だ。


とはいえ、今はりおが留学から戻ってきたため仕事がまた一つ増えたのだが、特段気にとめることもなくちあきはそれをこなす。




「つばさちゃーん!朝だよー!」




「きいちゃーん!朝だよー!」




「りおちゃーん!朝だよー!」




これをだいたい毎朝3回はやる。





この流れで朝食もちあきが作る。


魔法で作るからあっという間と思うかもしれない。


だけどそれは違う。シャルム学園は寮内での魔法の使用が禁止されている。


そのため全ては常人と同じく手作業になる。要するに、普通の人と同じ条件で料理や洗い物など

身の回りの家事をしなければならないのだ。


なぜなら在校生全員が必ずしもソルシエ、または『ソルシエール』として人生を終えるわけではない。


結婚して普通の生活を送るという者も多くいる。


来たる現実を考え、将来的に普通の生活も送れるよう学園側からの配慮によりそういった規定が制定されている。



「おー!タマゴサンドか!朝からやる気がでるなぁ!」



最初に朝食の席につくのはだいたいつばさだ。続いて



「お、おはようごじゃいましゅ、ち、ちあきしゃん。」


次にきいがくる。




最後は




「、、、たま、ご、がパンに、挟まれてる、、、、サンド、イッチか。。」




まだまだ寝ぼけ眼のりおだ。


4人は小学校の時からずっとこの寮で生活をしている。


そのためりおの寝起きの悪さはすでに周知だった。




「りおちゃんタマゴサンド大好物でしょ?だから今日はおかえりタマゴサンドを作ったよ!」




その言葉にハッとしたのか、急に目がパッと開きタマゴサンドを頬張り始めるりお。


それを横目に微笑みながらサンドイッチを口に運ぶ3人。


実に平和なひと時だ。日々戦い続けるソルシエにとって、この朝の時間が一番平和な時間なのかもしれない。





「よっしゃー!!久しぶりだーシャルム学園!みんな!気合い入れていこー!」




大きく掛け声を上げ全員のテンションを煽るちあきなのだが、3人は揃って苦笑いだ。


しかし実は内心とても嬉しく懐かしい。



ー オーッッッッ! ー




「よーし!レッツゴー!」




登校する度にこれをやられたらきっとついていけないだろうが、

りおにとっては留学後初の登校日だ。


3人は自然と「ノってみる」という選択肢をとった。




「おーっと!忘れ物忘れ物!」




突然りおはそう言うとキッチンに戻り何を思ったのか食パンにイチゴジャムを塗り加えて戻って来た。


3人はそんなりおを見てポカンとしている。




「りおちゃん?どしたの食パンなんか加えて?」




「どしたのって!ジャムパン加えて登校はテッパンでしょ!!」







ー キーコーンカーンコーン♪ ー


朝のHR。新学期初日ということもあり

教室内の全員がそそくさと席に着く。

ただし、りお以外だ。


まだ少し話し声が飛び交う教室内、りおは一際私語を楽しむ。



「ねえねえつばさ、このクラスの担任の先生新任教師なんだってさ〜。

しかも名前が『西園寺響子』 だって!いかにもお嬢様って感じじゃない?

大丈夫かな〜?いじられすぎて辞めちゃたりしないかな〜?でも新任教師って転校生の次にテッパンだよねー!」



「りお。口がすぎるぞ。若くても教師は教師だ。

教わる側の人間としてどんな人でもまず敬意を払って接するのが普通なんだ。

というか早く席に着け!だいたい何ださっきから鉄板鉄板て! 」



いつにも増してつばさは正論を述べる。シャルム学園では若くても実力があれば教師として採用される。

その後はクラスを牽引し、

連帯的な授業やトレーニングを積み重ねることで個人の能力も底上げされていくというのが、

『約3世紀』を費やし築き上げてきたシャルム学園の特徴だ。

故に強い人材やグループを育て上げるためには多少強引なリーダーシップを取れる教師が

必要とされるのだが、近年ではそういった教師も少なくなり、世界規模でレベルが落ちているのもまた事実である。



ー スーッ、、、、 ー



教室のドアが静かに開いた。



ー パタンッ、、、ー



そして静かに閉める。

一人の女性が入ってきた。室内は大きくざわめく。



白いワンピースに長くて艶やかな黒い髪。

透き通る肌には最小限に抑えた薄化粧。



「き、、、綺麗、、、純白のオーラが、、、。」



そこにいる誰もが息を飲む美しさだった。その空気を感じ取ったのか、りおはクラス全員の言葉を代弁した。


「あ、あのー、、なんてゆーか、、、先生すごくお綺麗ですね!」


そんなりおの目を、その女性は歯を見せず口角をわずかに上げ、ニコッと笑いりおの目を見つめる。

と思ったのもつかの間、女は先ほどまでの笑みが嘘かのような鋭い目つきに変わり口を開いた。



「座れ。」



「え、、?声低、、、つばさいま何か喋った??」



「聞こえねーのかガキ。舐めてんのか。座れって言ってんだ殺すぞ。」



ドスの効いた太く低い声が顔とマッチしなさすぎて脳の処理が追いつかない。

おそらくほとんどのクラスメイトが「座れ」を

つばさが言ったものだと思っていたが、

残念ながらいま口を動かして喋っているのは紛れもなく教壇に立つ女性だ。



「10、9、8、7、」



「はッ!は、は、は、はいッッ!」



この世のものとは思えない迫力を感じたりお。目にも留まらぬ速さで自分の席へと戻っていった。

いつのまにか教室内全員の背筋はピンと伸びきり、

女には先ほどまでの純白オーラは微塵もない。漆黒のオーラが全身を覆っている。

静まり返った室内を、女の低い太い声が鮮明に響き渡る。



「いいかお前たちよく聞け。このクラスの担任の西園寺だ。

私が担任になったからには卒業までの一年間でおまえたち全員をレベルAにする」



教室内はより一層シーンと張りつめたが、そのあとすぐにどよめいた。


ソルシエには一般的にA〜Eのレベルが存在する。

中等部の3年間でレベルAになれる者は、毎年1クラスに2人いれば良いというぐらいの難関だ。

全員がレベルAになるなんてことは歴史上前例もなく、限りなく無理に近い。というか絶対に無理だ。

ちなみにレベルAよりさらに上の階級、『シングルS』『ダブルS』という国際部門の階級がある。

国内での試験は行われておらず中でもダブルSは難関中の難関。

シャルム学園中等部にはたった二人しかおらず、高等部でも4人しかいない。

そんなダブルSを経て選ばれし者のみに『ソルシエール』の称号が与えられると言う仕組みだ。


過去には約10年間国内でのソルシエールが選出されなかったという前例もある。それほど桁外れに厳しい世界だ。




中々おさまらないどよめきの中、西園寺は教壇をバシン!と思い切り叩いた。

鼓膜が破れそうな音の大きさと、西園寺の鬼の形相が目に入り一瞬で黙るクラスメイト達。



「おい。うるせーぞ黙ってろ。まだ話は終わってねえ。

ただしこういうことだ。私が何をしようと本人にその気がなければ

到達することは絶対に不可能だ。よってここでレベルAに本気で挑む生徒を募集する。

トレーニングは死ぬほどキツい。辛い一年になる。

しかしその道を選んだ者は全員私が責任を持って必ずレベルAにしてやる。期限は明日の放課後までだ!気合のある奴は名乗り出てこい。今日は授業なし。自習でもしてろ。 」




ー ガラガラ!!バタン!! ー



10秒ぐらいだろうか、教室内では沈黙が続いた。

しかし再びざわつき始める。




(ねーねー!レベルAだって!あの人頭大丈夫なのかなぁ?)


(希望者全員て!雑誌の応募者全員サービスじゃないんだからさぁ、)


(新任教師が張り切っちゃったんだよきっと!あれで自分はレベルBとかだったら笑うー)


(てかなんで帰ったの!?ありえないでしょ!)



飛び交う会話のほとんどが西園寺を批判や疑問視するものだった。

確かに新任の教師が威勢良く登場し、あれだけの大口を叩けばそうなるのも無理はないだろう。

事実、どこからこんな自信がでてくるのかという人間は、いつの時代もどこの国にも地域にも必ずいて、

最終的にはろくに結果も残せないまま片隅においやれらるのが定番だ。



ー ガラガラ!バタン! ー


再び扉を開閉する音が聞こえた。

西園寺が戻ってきたのだ。扉から顔だけ出している。

静まり返る教室。まさか好き勝手言っていたのが聞こえていたのだろうか。


「あーそうだ、一つ言い忘れた。今回の募集にはすでにレベルAを通過してる武藤と桐島は対象外だ

。よっておまえたちは今日の放課後生徒指導室で私と個人面談だ。ではな。」



ー ガラガラ!バタン!ー



ー キーンコーンカーンコーン♪ ー



「わぁーん!わぁーん!ちあきー、きいー!面談嫌だよー!」



泣きつくりおに、ちあきはヨシヨシと頭を撫でる。

さすがに二人も驚いていた。

なにせソルシエというのは、世間的にその時点ですでにエリートの部類に入る。学園も含めてだ。

特にその教師ともなれば超エリートが顔をそろえる。

稀にイレギュラーは存在するがここまで横暴な教師は人生を振り返っても全く無かった。



「怖かったねこわかったねーよしよし。今度からは気をつけようねー」


「わ、わたしがあんなにい、言われたら、た、たぶん気絶しちゃうでしゅ、、」



慰め合う3人を尻目につばさは一人一点を見つめていた。

つばさはいつもクールはクールなのだが、こういう時は必ず割って入ってきて

『そもそもおまえが着席していないのが原因なんだ』

とかなんとか言ってくるのだが今日はそれが無い。

それを少し不思議に思ったのか、ちあきはつばさに声をかけた。



「つばさちゃん?どうかしたの?」



「あ、、あー。なんでもないよ。ただ何と言うか確かに威勢はかなり張ってるが

 私には嘘に聞こえなかったんだ。なにかこう、、

 うまく言えないが、あの人に特別な何かを感じるんだ。」



ふむ、といった顔でつばさを見つめるちあき。

しかしまだりおが泣きついてるため、ちあきときいはグラグラと体を揺らされている。


ちあきはつばさとまともに話ができないまま一限目を迎える。

教室内は全員、いつ西園寺が戻って来るかわからないことに怯え

ひたすら無言で真面目に自習を続けている。



そうこうしてやっと放課後になった。





「、、ぅー、じゃああたしたち、、いってくるわぁ、、、」



「おいりお!何をグダグダしてるんだ!クラスの中で唯一私たちが西園寺先生と話せるんだぞ!

 あの自信の出処がわかるかもしれないんだ!ビシッとしろ!」




片や脱力、片や充足。この違いはなんなのだろう。

普段でもこういところが結構多かった。


例えば幼い頃に4人でとある洞窟を発見し中に入った時だ。最初はワクワクMAXのりおが皆を牽引して進んでいくのだが、

中盤ぐらいからはすっかり飽きてしまい、つばさがリーダーシップをとってりおはというと疲れてもう歩きたくないとダダをこねる。

その性格の不意一致みたいなものがもしかしたらソルシエの戦いにおいては逆に相性がいいのかもしれない。足りないものを補い合っているのかもしれない、ということだ。

相手がこうだから私はこうだという考えが自然と働いてうまくバランスを保てているような気もする。

4人でプレットと戦っている時も、最終的にはりおかつばさがとどめを刺していた。

黄金コンビとはいつの時代もそういうものなのだろうか。




「いってらっしゃ〜い!」



「い、いってらっしゃいでしゅ〜!」



二人を見送り先に寮へと帰るちあきときい。




つばさとりおは生徒指導室へ向かっていた。

会話はほとんど無いまま、早々に生徒指導室の前に着く二人。

どっちが先に入るかをじゃんけんで決めようとしたが、なんとりおが先に入りたいと名乗り出た。

変なプライドが働いたのか、ただ単に早く終わらせたかったのかは不明だが

ノックをし、生徒指導室の中へと消えていった。


そこには花瓶の花の香りをを確かめるなんとも清楚な西園寺がいた。



「ハァァァッァァァ!!なんと萌え美しいッッッッッ!!!!!」




続く

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