16話 ー自分の弱さと自分たちの強さ。ー
地獄の懲罰合宿も2日目を迎え、4人の体力と精神はすでに限界を振り切り何周目に入っているのだろうか。
しかしなぜか、誰一人として根を上げず、逃げたい帰りたいという言葉は出て来ない。
小学生の頃から苦楽を共にしてきた4人とは言えど、その関係性は何かが特別だ。
シルフもエルフもすでにそれには気づいていた。
自分たちもかつて現役のS4の頃、結束力は世界中の誰よりも硬かった。
「自分たちにもこんな時期があったな」とシルフ、エルフの二人はあの頃の自分達を4人を重ね合わせていた。
「なんかさぁ、結構なれるもんだねあの食事!なんかあのマダラの色ののヘビ?結構いけたよね??」
あれだけ怯えていたりおも2日目にしてもう余裕をかましている。
もしくはよっぽどあのムカデ部屋がキツかったのか開き直っているのかもしれない。
その証拠にあの夜の話をりおも、それ以外の3人も一切触れることがない。
今日も合宿の全内容を終え、あとは就寝のみだ。
りおは初めてまともな寝室で眠ることになる。
ー じゃあねまた明日ねー! ー
4人はそれぞれの寝室へと向かっていった。
フーッと安堵のため息を漏らすりお。
そんなりおを見てすこし気まずそうな表情を浮かべるきい。
りおはそれに気づいてすぐにきいへ問いかけた。
「あれ?どしたのきい。あ、恥ずかしいのー?」
「ち、、違いましゅよ、、、。い、いままであまり、ふ、二人だけてことが、な、なかったでしゅ、、」
「それを恥ずかしいっていうんだよ!なんかでも新鮮じゃん」
ベッドに腰掛け、枕を抱えて小さくなるきいをからかうように飛びかかるりお。
驚いたきいは身動きもとれずりおに羽交い締めにされ目を逸らした。
りおは遊び心で押し倒したがあることに気づく。
ー きい、、こんなに華奢だったんだ。こんなに華奢な体であんなに体に負担かかる魔法を、、、 ー
そう思うときいを押さえつけていた手は自然とほどけていく。
気まずい空気になりそうだ。なにか喋らなければ。
「あ、あの!」ー「り、りおしゃんは、、、!」
会話が被った。自分が喋るか、相手に譲るか。
あるあるだ。
りおはいつになく戸惑う自分に戸惑っていた。
普段は自分が喋り続ける場面なのだが、今日はなぜか違っていた。
「あ、、いいよきい、、なになに?」
きいもいつもと違うりおに、一瞬戸惑いを見せたが、一度つばを飲み込み話を切り出した。
「り、、りおしゃんは、、、、な、、なんで、、ソルシエに、、な、、なったんでしゅか、、。」
なんとも初歩的な質問。まるで初対面だ。
食べ物何が好きですか?に匹敵するほどよそよそしい質問だ。
だが確かにつばさ以外には自分がなぜソルシエになったのかをきちんと話したことはない。
改めて聞かれると意外と恥ずかしいものだ。
「んー、、あたしさ結構適当なんだよね。うちお父さんがよく魔法少女アニメの進行とか担当してたからさ、
だからその資料とかグッズ見てたら、あたしもこんなふうになりたいなーと思って。それでシャルムに入学したんだー。」
「しょ、しょうでしゅか、、、」
「んー?なになに聞いといてそのリアクション!?こら!」
やはりちょっと恥ずかしかったのか、きいの思いの外小さいリアクションに正直な反応をしてしまうりお。
一方きいのほうは「しまった!」という表情を見せ、すこし焦った様子で再度りおに質問を投げかける。
「じゃ、、じゃあどして、、しょ、しょこまで、、ちゅよくな、なれたでしゅか?」
「まあ、、まだまだだけどね。でも転機は確かにあったかもな。2008年に秋葉原で通り魔事件あったでしょ?
あの時あたしとつばさで秋葉原にいたんだ。でもホコ天で一瞬逸れてさ。
見つけた!と思ったらつばさの数十メートル先に犯人がいてね。その時あたし怖くて何もできなかった。
それでそのあと家に帰ってその話したらお母さんにめちゃくちゃ怒られてさ。
なんで何もしなかったの!なんのためにシャルムに入れてあげたの!って。
お友達が一人でいたら必ず助けてあげること!ってその時ゆびきりしたんだけど、もしかしたらそれが一番大きいのかなーって。」
あの事件当日、つばさは間一髪のところをS4のティターニア(西園寺)によって助けられた。
もし彼女がいなければ自分はつばさを見殺しにしていたかもしれないと、今でも時折思い出すりお。
しかしりおをダブルSまでに成長させた理由はこの他にもあったのだ。
「あとはねー、なんと言っても小6の時のあれかなー」
「あ、あれ、でしゅか、、?」
「あれー?覚えてない?あたしたち4人で公園で話してたらさ、それはもうヤッばい強さのプレットに遭遇した時ね。
あんなのどう考えても学園に知らせなきゃいけなかったのにさ、あたし調子に乗って自分たちでなんとかしようって言ってボッコボコにされたやつね。あの時に誓ったんだよあたし。
絶対に強くなって、どんな危険な状況に遭遇してもみんなは絶対にあたしが守るって。
だからさ、きいがもし一人になったら絶対に助けにいくよ。危険な目に合いそうになってもあたしが絶対守る。もちろんちあきもつばさもみんな一緒だよ!
もう子供の時みたいに指くわえてみてるあたしじゃないからね!」
「りおしゃん、、、、、」
一通り喋るとやはり恥ずかしくなったのかりおは2段ベッドの上に登って行った。
「さ!寝よっか!」
その頃ちあきとつばさも同じ部屋で同じような話をしていた。
イレギュラーな組み合わせはそういうところが面白い。
触れそうで触れられなかった話が次々溢れ出し、知りそうで知れなかった真実が見えてくることもある。
「時にちあき、母上はどんな人だった?」
「え!?どうしたのつばさちゃん急に!」
「あ、ああちょっと気になってな。というかみんな気になってると思うぞ。」
プレットをたった一人で根絶した伝説のソルシエール「ソレイユ・ルヴァン」。
揺るぎない伝説に世界中のソルシエの憧れの的である彼女。その一人娘がちあきだ。
「どんな、、うーん、、あったかくて優しくて、、、とにかく優しかったよ!」
「そうか、、。ほんとにそれだけか?なにか特別な能力や特別な一面はなかったか?」
「特別な?、、うーん、、、たぶんなかったと思う」
「そうか。」
つばさは気になって仕方がなかった。つばさの憧れの存在であるティターニア・ルヴァン。
彼女もまた数々の伝説を持ってるが、そんな彼女が崇拝してやまないのがソレイユだ。
言わばつばさにとってソレイユは「神の領域」といっても過言ではない。
そのためいくら実の娘に「特別なことはなにも無かった」と言われても俄かに信じ難いのが本当のところである。
「では話を変えようか。おまえはどしてソルシエになった?」
「あ、ああ、、私結構適当なんだ。前にちょっと話したかもだけどお母さんが亡くなる直前にね『ソルシエールになって』って言ったの。
それでその言葉がずーっと頭から離れなくて、それでお父さんに頼んでシャルムに入れてもらったの。
でも私魔法も勉強も全然ダメで。ソルシエとしの才能も無いのにソルシエールなんて程遠いよね。
こんなんじゃお母さんに合わせる顔がないよ。へへへ。」
つばさはしばらく言葉を返さずに考えていた。
ーソルシエとしての才能が無いか、、。だったらおまえが15年前の大阪で放ったあの光はなんだ。ー
心の中で自問自答をするつばさ。
そんな中つばさはふと、西園寺のある言葉を思い出した。
ー いいか、国望はじきにお前たちを超える ー
「西園寺先生が言っていたのはまさか、、、。」
「え?なにつばさちゃん?なにか言った??」
「い、いやー何でもない!ソルシエールなんて程遠い、、?ま、、まったくだ!母上を見習ってもっとトレーニングにー、、、勤しめ!才能など努力でいくらでも埋められるんだ!」
「う、うんそうだね!わたしがんばるよ!」
「よし寝よう!」
こうして合宿の2日目も無事に終了した。
自分たちの意思とは違うペアを組んだことによって生じた今までに無い絆に、4人は4人でいられることの喜びを再確認していた。
明日はいよいよ最終日。
どんな試練が待ち受けていても彼女達は決して負けたりはしない。
自分の弱さと自分たちの強さをもう、知っているから。
続く




