14話 ーシュトラフ合宿ー
「よーし、これで最後っとー」
羽田空港内から滑走路までのシャトルバスに荷物を積み終えたりおはいつにもましてご機嫌の表情だ。
もちろんこれから起こる波乱の3日間を知る由もない。
「それでは、出発いたします。シートベルトをお締め下さい」
シャトルバスの運転手はそう言うとエンジンをかけゆっくりと車を発進させた。
すると間もなく前方から同じ型のシャトルバスが走ってくる。
りおはすぐさま窓際に体を乗り出し、そのバスの中を確認する。
するとその中にはちあきたちと同じくシャルム学園の生徒たちが何人か乗っており、仲良く談笑してる姿が見えた。
「あ!やっぱり!みんな見た?うちの制服着てたよね?しかもめっちゃ笑顔!
やっぱりたいしたこと無いんだよー」
「あ、ああ確かにそうだったな。」
りおとつばさのやり取りを横目にちあきときいは無言でバスを見送った。
その表情はまさに『この世の終わり』をも感じさせるほど、どんよりと曇っている。
そして飛行機へと到着し乗り換える4人。
りおは変わらずはしゃぎ続けている。
窓の外に広がる真っ青な海の色が、時間が経つごとにどんどん鮮やかな水色へと変わっていく。
そしてはしゃぐりお。
ただ前をじっと見つめるちあきときい。
冷静に窓の外を眺めつばさ。
空の旅は2時間ほどで終わり、石垣島の空港へと到着。
そこでまたバスに乗り換えてさらに1時間ほどでシュトラフ石垣へと到着した。
「おー、なかなか綺麗なところじゃないか!」
4人の視線の先にはまるで一流ホテルのような外観の、白を基調とした大きな建物がそびえ立っていた。
「わー!ほんとだー!いいじゃんいいじゃん!最高じゃーん!!」
はしゃぎ度がピークを迎えたりおが荷物もおろさず走り出し一目散に建物へと走り出していった。
「お、おい!りお!おまえ荷物は、、、!」
「つばさちゃん、、いいんだよ、、、元気なうちに元気にしとけば、、、」
ちあきはそう言いながらきいと共にバスの荷物を全員分ゆっくりと降ろしている。
「あ、ああ、、そうなのか?」
つばさは困惑した表情で二人の荷下ろしを手伝い、建物の入り口へと向かった。
りおに荷物を渡し、早速中へと入る4人。
するとすぐさま衝撃の光景が4人を迎えた。
りおの表情は先ほどの笑顔から一転する。
「え、、、なにこれ、、、、。」
そこは入り口の華やかさとはかけ離れた、うすぐらーい内装。
打ちっ放しのコンクリートにはところどころ大きななヒビが入っており、さらには蜘蛛の巣がいたるところにある。
電気がついているのかついていないのかわからないぐらい薄気味悪い、電球のような照明が数えるほどしか設置されていない。
そしてきいがようやく口を開いた。
「こ、こういうこ、ことでしゅ。。ま、まずこういう地味な、せ、精神攻撃をし、してくるのでしゅ、、、。」
するとりおはたちまちこうこう言った。
「はは、ははは。。まあまあ、。こんなもんでしょ!処分者合宿だからね!このぐらいは、、、ん?、、、」
4人の頭上にうっすらとと何かが光った。それを見上げようとしたその時だった。
ー バシャーーーーーーーーーーーンッッッッッッッ!!!!! ー
「きゃーーーーーーーーーッッッ!!」
光の矢だ。しかも2m越えの巨大なものだ。
りおはそれを間一髪のところで交わした。
「な、なにこれ!あ、ああ、あああ、危な!!ほんとにあとちょっとしたら死ん、、、、、」
ーー 死んでいたのですか? ふー、、、ダブルSも近頃は落ちたものですね。 ーー
舞い上がる砂埃の中からその声の主はゆっくりと近づいてきた。
「ようこそ、シュトラフ石垣へ。私はシルフ・ルヴァン。シルフとお呼びください」
颯爽と表れたのはあの元S4のメンバーで、世界3大ソルシエールの一人、シルフ・ルヴァンだ。
りおとつばさは言葉を失いその場に立ち尽くしていた。そんな二人を目にしたちあきは
思わず二人へひっそりと話しかけた。
「ねぇねぇ、あの人ってすごい人?」
ちあきの言葉を耳にし、ハッと我に返ったつばさが切り返す。
「馬鹿者!あの方はS4のサブリーダーでティターニアと同じく生きる伝説だ!
そんなことも知らないでソルシエをやってるのかおまえは!」
つばさに凄まれしょぼんとするちあき。その横でりおは「うんうん」と頷いている。
「あたしたちにとっちゃあご褒美旅行だなー!こんな大物に指導してもらえるなんてー!」
シルフは4人のやり取りを黙って見ていた。
が、会話がなりやんで間も無くシルフはその重い口を開いた。
「まずは朝食です。みなさん食堂へ」
4人は言われるがままシルフの後をついていく。
しかしその足取りの軽さの違いときたらすごい。
りおとつばさはスタスタ堂々と前進しているのだが、一方のちあきときいはまるで誰かに無理やり引きずられるているようだ。早くもボロ雑巾化している。
程なくして食堂へと到着した。先ほどと変わらず薄暗い中、大きなテーブルと大きな椅子が並んでいる。
そしてテーブルの上には人数分用意されたどんぶりとおわん。
りおは直感的に思った。海鮮丼とお味噌汁に違いないと。
そしてたまらずちあきときいに問いかけた。
「ねえねえ、あれ絶対海鮮丼とお味噌汁だよね?なんか香りもそんな感じのがするし!」
「ぁ、、ぁ、、は、はい、、、い、、以前とお、同じメニューなら、、、しょ、、しょうなんだとおもいましゅ、、、、」
これから起こるであろう惨劇にきいの滑舌も逆に良くなっていることに気づかないりおは一番乗りで着席。続いてつばさ、ちあき、きいの順で着席した。
「さあ、どうぞ蓋を開けてお召し上がりください。あ、もし残したら厳しい罰が待っていますよ。」
4人は一斉に蓋を開けた。
りおとつばさは空前絶後の絶句を体験する。
10秒ほどだろうか、しばらく言葉を誰も発しなかった。いや発せなかった。
しかしいま持てる勇気を体中からかき集め、つばさが口を開いた。
「あ、あの、、、シルフ様、、、」
「シルフで良いですよ。どうしましたか?どうぞお召し上がりください。」
「い、いやぁ、、ああ、ではシルフ、、、これは何の食べ物なのでしょう?」
「あー、こちらですか。ウミムシの海鮮丼とトビズムカデの味噌汁です。わさびは別にありますのでご希望であれば。」
ー ギャァァァァァァァァァァッァァァァッッッッッッッッ!!!!!! ー
「ムリ!ムリ!絶対ムリ!!なんでしかも動いてるよ海鮮丼のやつ!」
必死に平静を装うつばさを気にする余裕すらないりおは、思うままに拒絶の言葉を叫びまくる。
一方でちあきときいはもはや諦めて両手で箸を手にとっている。
良く見たら冷静に見えるつばさも目が回り焦点が合っていない。
「お、おい、、、りお。わさびだ。わさびをあるだけ持ってこい。な、なんとかなるだろう。」
「なんとかなるわけないでしょ!あたしはムリ!食べない!絶対食べないー!!」
頑なに昼食を拒否するりおをシルフはしばらく黙って見ていたが
ひとつ小さくため息を吐き、
「残されるのですね?」
りおはそう言われ間髪入れずに言い返した。
「はい!さすがにこれはたべれま、、、、」
ー バサッッッッ! ー
あと2文字のところをギリギリでちあきときいが押さえつけた。
きいは体を、ちあきは口を塞いでいる。
のたうち回るりおを二人掛かりで制止するが、こういう時のりおは特に力が強い。
二人を剥ぎ取り再び口を開く。
「はぁ、、、はぁ、、、さすがに、、、これは食べれません!!」
『あちゃー』と言葉に出そうな仕草を見せるちあきときい。
二人は以前の合宿でやはり最初の食事を食べれなかったったため、お残しの末路を知っているからだ。
その罰を受けたあと、二人は何もいわず食事をとった。
それほど恐ろしい罰が待っていることは、りおはこの時想像すらしなかった。
「この食事以外には昼食をとれませんが大丈夫ですか?」
「はい!全然大丈夫です!こんなものを食べるぐらいなら5日間何も食べれないほうがマシです!」
「そうですか。承知しました。それでは今夜、ペナルティを受けていただきます。」
「わかりました!つばさもだよね!一緒にペナルティ受けよ!」
りおはそう言いながらつばさに視線を送ると、
「い、いやぁ、、りお、これお、思ったより食べれるぞ」
薄暗い部屋の中、つばさは大量のわさびで下が見えなくなった海鮮丼を目を回しながら黙々と頬張っていた。
「つばさぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッ!!」
続く




