11話 ー伝説ー
時刻は夜の8時半。
いつもの時間遡行スタート地点。
元々は空き地だったのだが、世界改変後そこには再びビル(フィギュアショップ)が現れた。
従業員の目を盗み非常階段を使ってまでこの場所を選ぶ理由は、ただ単にこの場所の座標が体になれてしまっているからだ。
彼女たちの魔法もまだまだ完璧なものではない。
そのため寸分の狂いもなく行き来するにはここがベストなのである。
「よし、行こう。」
<ガサッ!サササ!!>
「つばさちょっと待って!なんか向こうから物音がする!」
確かに物音が聞こえ4人は一斉に音がした方向を見るが、何も見当たらなかった。
ー風か?それにしては、、、、ー
「まあいい!急がねば!行くぞ!」
4人はいつものように円を作る。きいが時空魔法を使うと、あたりの景色はねじ曲がり急速に歪んでいく。
数秒後、真っ白な光は晴れ、あたりは昼間の秋葉原へと変わった。
「よーし!おっけー!とりえず日時確認だー!」
もうこの魔法にすっかり慣れた様子のりお。
そんなりおをつばさは不思議そうに見つめていた。
ー あいつ、、ついこの前はあんなに狼狽えていたのに、、、なんて吸収の早さなんだ、、。 ー
先頭を走りコンビニのスポーツ新聞へと一目散に走っていくりお。
その少しあとを3人は追いかける。
こういう時は必ずきいが一番後ろを走ることになっている。
驚異的な運動神経の悪さは学園でも有名で、100mを30秒で走る。
それでよくソルシエをやっていられると逆に賞賛されている。
「とうちゃーく!どれどれーー?えーと2001年のーー、3月ーー、、、うん!オッケー!前回とバッチし一緒だよ!」
りおの知らせにほっとする3人。
しかし今回は息つく間もなくブリリアントに移動、
と思いきや。
<ぐぅぅぅ〜〜〜〜>
「きい!?」
「?!ぇ!き、、きいじゃな、な、なないでしゅぅ、、、」
お腹を鳴らせたのは誰かと順番に確かめる必要は無かった。一人お腹をおさえている者がそこに。
「ぇっへへ、、夜ごはん食べてなかったからさ、、、ちょっとコンビニ寄ってもいいかな?」
犯人はちあきだった。確かにみんな夕飯をまだ食べていない。
仕方がない。突然あんなホラーな宅急便が届いたら、誰だって夕飯を食べ忘れても不思議では無いのだから。
そのため他の3人も大賛成と力強く頷いた。
空気を察し早速りおがスポーツ新聞を買ったコンビニに入ろうとするが、
「りお!待て!そこはダメだ!」
「ふぇ?なんで??」
「いいからみんな、あっちだ。」
つばさの発言にキョトンとする3人。
なぜここのコンビニがダメなのか。確かにコンビニというものはかなりの割合で好き嫌いがわかれる。
セブン派、ファミマ派、ローソン派、のように分かれる傾向がある。
理由は主に食品だ。おにぎりやサンドイッチ、最近ホットスナックでかなり差がついてきている。
しかしここは15年前の秋葉原だ。まだそんなに大きな差は見られないはずなのだが。
「ちょっとー!つばさー!どこまで行くのーー?!」
「ぅぅ、、、お腹空いたよぉ、、、」
「き、、きいもでしゅ、、、、」
そんな3人には御構い無しでズカズカと歩いていくつばさ。
そして10分ほど歩き、4人は岩本町の駅へ。
「ついた!」
「ぅわ!なんじゃこりゃ!?」
そこには一辺約数十メートルの三角形を描くようにして3つの「デイリー・ヤマザキ」があった。
どうやらつばさをここに3人を連れて来たかったらしい。
いや、ここでなければいけない理由があると言うのだ。
「ここはシャルム学園が運営しているデイリーヤマザキなんだ。」
「え??どういうこと?」
そしてつばさは説明を始めた。
本来時空を超えた場合、その世界でお金を使うことは許されていない。
使ってしまうとかなり面倒なことになるからだ。
紙幣で例えてみよう。ちあきが15年前のコンビニで製造番号0056のお札を使ったとする。
普通に物は買えるし偽札でもないからなんの問題も無いように見える。
ところが同じ店で違う人が違う製造番号0056のお札を使ったらどうなるだろう。
どちらも製造番号は同じでどちらも本物というどエラい事態になってしまうのだ。
そういった事態を防ぐためにシャルム学園では協会の規定に沿って然るべき場所に店や宿泊施設を設置してある。
設置理由は、協会認可のタイムパトロール(滅多にないが)や、その他魔法行政の職員向けに、難なく仕事や滞在ができるようにしてあるのだ。
3点止めのようにしてあるのは、魔法陣を形成するためと言われている。
なんでここは同じ店が何個もあるんだろう、という場所はだいたいそれが理由だ。
使った通貨や紙幣は適切な処理をされ反映される。もちろん一般人が入り何かを買ったりしても問題は無い。
「なーるほど、そういうことね!」
「あー、そういうことだ。ちなみにデイリーヤマザキがホットスナックをいち早く取り入れたのは、未来から来たソルシエや職員達からのリクエストが多数だったかららしい。」
感心した後3人はようやく夕飯にありつく。
昼に夕飯を食べるとはなんとも変な感じだ。
海外旅行の時差ぼけに近い状態だろう。
空腹を満たし、駅まで歩いていたところだった。
<おいおい、、やべぇよ何人死ぬんだよいったい、、、>
二人組の男が携帯TVでニュースを見ているようだ。
その表情からはなにやらとても恐ろしいものを見ているみたいだ。
その様子が気になったりおは飛びかかるように二人に話しかけた。
「あの!!どしたんですか!?」
「え!?なんだびっくりした、、、ああ、、ニュースだよ。
なんか大阪のほうの小学校で男が児童を刺しまくったんだってさ。
そんですぐ病院に搬送されたんだけどどんどん死んでちゃってんだよ。もう50人近く死んだ。
やべえよこいつ。イカれてる、、、ってあれ??」
男が話ををしているうちに4人の姿はもうなかった。
<タッタッタッタッタ!!!>
ー行かなきゃ。絶対にプレットだ。どうにかしなきゃ。。。ー
人目につかない場所を探し4人は転送魔法で大阪の小学校へと向かった。
すぐに現場に到着すると警察によりすでに規制線が張られている。
中も捜査員だらけだ。
「きい!犯行時間はわかるか!」
「ぇ、ぇ、ええっと、、、じゅ10時、に20分でしゅ。」
光の速さで事を進めていく4人。
犯人はすでに連行されているためプレットの紋章は確認できないが、わずかに気配は残っていた。
そして校舎の隅に行き再び遡行魔法を使用する。
あっという間に犯行時刻前の同じ場所に辿りついた。
辺りを見回してみると、裏門前に明らかに怪しい男がウロウロしている。
間違いない。あの男だ。
「プレットの紋章がある!結界張るよ!みんな準備はいいね!」
「待てりお!」
つばさが突然止めに入った。
「な、なに!?どうしたのつばさ!?」
「やめておいたほうがいい気がする」
3人は言葉を失うほど驚いた。
正義感が人一倍強いつばさが、なぜここに来てそんなことを言うのか。
すぐに反論したのはりおだった。
「なんで!?早くしないと子供たちが!」
「歴史に残る凶悪事件のプレットはレベルが違う。私たちが太刀打ちできる相手じゃない。」
「は?ちょっとあんたここに来てなに言っちゃってんの?まさかビビって、、、」
「違うんだ!」
声を荒げるつばさ。ちあきときいは肩で驚いた。
つばさは時折熱くなり声を荒げたりすることはあるが、今日は何かが違う。
なにかを思い出しているのだろうか。
「違うんだ。わたしたちがどうにかなってはダメなんだ。
りお!おまえも覚えているだろう、、あの秋葉原の通り魔事件を。」
「覚えてるよ!覚えてるから私は!」
「飽くまでもこれは私の想像に過ぎないが、S4はあそこで『敗北』したんだ。その証拠にそのあとすぐに姿を消した。それぐらい強大なプレットだったんだろう。今回のこの事件もきっち同じ類いだ。」
りおは返す言葉が見つからずつばさを睨みつけている。
そんな二人を心配そうに見つめるちあきときい。
二人の気迫に声をかけることもできない。
時間は刻一刻と過ぎ、男はついに裏門から校舎内へと侵入した。
りおはそれを横目に喋りだした。
「だからってあの男を見過ごせって?この事件をスルーしろって?そんなことできるわけないでしょ!」
ースパーーーーンッッッ!ー
りおは結界を張った。
「怖いなら来なくていいから!私1人でいく!」
そう言ってりおは勢いよく結界の中へと入っていった。
「つばさちゃん、、?」
ちあきが声をかけてもつばさは下を向いたままだった。
一瞬どうしたらいいかわからなくなったが、ちあきときいの二人はりおの後を追い結界の中へと入っていった。
一人残されるつばさ。
「、、、バカが!」
3人は結界を奥へ奥へと進んで行く。
しばらくするとそこには一見赤ん坊の姿をしたプレットがいた。
顔を見合わせ不思議そうにする3人。
よく聞くと寝息が聞こえて来る。
スヤスヤと眠る赤ん坊を前に、少し躊躇するがりおが一歩前に出る。
「こういうのはねぇ、寝てるうちにバシッとやっちゃうのよ遠慮なく!それ!」
ーバシーーーーーン!ー
一瞬凄まじい衝突音と白い閃光が現れた。
やったか、、と思いちあきときいは目を開ける。
しかし二人が見た光景は、想像とはかけ離れたものだった。
ーオギャー!オギャー!!オギャァー!!!ー
「りおちゃん!!!!!」
そこには大量に出血し地面に倒れこむりおの姿があった。
すぐに駆け寄り回復魔法をかけるちあき。
かろうじて息はしているがどんなに名前を呼んでもまったく応答がない。
「なんで、、、、なんで、、、、、、なんでよ、、、、!」
なにが起こったのかまったくわからない二人はどうすることもできなかった。
ダブルSのソルシエが一瞬で瀕死になっている。
自分たちが手を出せば消されてしまうかもしれない。
時空を超え誰も身寄りがいないこの世界で、このまま死んでしまったら家族にどう伝えればいいのか。
そんなリアルな想像が頭を巡るほど、ちあきときいは自分たちの最期をも覚悟する。
とその時、りおの意識が戻り目がうっすらと開いた。
「、、、ち、、ちあき、、きい、、、、に、、逃げて、、、あ、あいつハ、、、ハンパじゃ、、、ない、、、」
ーオギャー!オギャー!オギャァーーー!ー
ーバシーーーーーン!ー
再び目の前で激しい衝突音がした。反射的に一瞬目を閉じた。
そして目を開けそこに立っていたのは
「、、つばさちゃん!!」
つばさはプレットの攻撃を防いでいた。
「バカども!だから言っただろうが!」
つばさはあの後すぐに結界の中に入り3人を追いかけていたのだ。
あれだけ反対はしていたのだが、一心同体とはこのことだ。
1人外れることなどない。迷う間もなく結界の中に入っていた。
「きい!私が動きを食い止めるから!転送魔法で全員を外に出せ!」
「わ、わわ、わかりました、、、、だ、、ダメでしゅ!ふ、ふふ、封じられてましゅ!!!」
「なんだと!?、、、ぐぅうッッッッッッ!!!!」
ービシャーーーーーーーンッッッッッ!!!!!ー
つばさの防御を貫通し、プレットの攻撃はつばさへ。地面へと叩きつけた。
「つばさちゃん!!!!!!」
「、、、だめだ、、、、まったく効かな、、、、、。」
ービシャーーーーーーーンッッッッッ!!!!!ー
間髪入れずにプレットはきいを攻撃し、触手できいを締め付ける。
骨の砕ける生々しい音が聞こえて来る。
「、、、く、、、くるし、、、、ぅっぅうぎゃあああ!!」
「だ、、、だめだ、、、ちあき、、、、お、おまえだけでもなんとか、、にげ、、、、ち、、あき??」
ー !??? ー
その時だった。
辺りの空気が突然変わった。
何が変わったのかは分からない。
ただ、何かが変わったことは確実だった。
一気に静けさを深める結界内。
さっきまでりおに回復魔法をかけていたちあきはりおを離し、無言でプレットのいる方向へ歩いて近づいている。
その目はまるで無心。一点を見つめ瞬き一つせず、その顔つきはもはや別人といっても大げさではない。。
それを目の当たりにしつばさは一瞬正気に戻った。そして震えながらやっとの思いで立ち上がり、
「ちあき!!や、、やめろ!お前はだめだ!!!!」
ちあきは立ち止まった。その瞬間
ーザァーーーーーンッッッッッッ!!!ゴーーーーーーーーーッッッッ!ー
異常なほどの突風が舞い起こりちあきの髪の毛が逆返る。
しかしその風はすぐに止んだ。
「、、、なんだったんだ、、、。ん?ちあき、、、光、、、、、!?」
ちあきは白い光で包まれていた。
留学から戻って来た時のりおとは明らかに違う光だ。
強くて、優しくて、どこか遠い光。
その光が現れた途端、3人の傷や損傷が徐々に元へ戻っていく。
「なにが起こっているんだ、、、いったい、、、。
まさか、、西園寺先生の言ってた光って、、、!」
唯一意識があるつばさは状況がまったく掴めず動けずにいた。
まだ体の損傷もある。どうすればいいのか。
わからない。どれだけ考えても答えが導き出せない。
ー スタッ、、、ー
何かが降り立つ音がした。
別のソルシエ?
いや。違う。
それは、
燦然と輝く星のように現れ、
「ぅぅ、、なに、、、、この光、、、、」
世界中すべての光を集めても足らないほどの光を纏う者。
「ぅぁ、、、体が、、ら、楽に、な、なっていってるでしゅ、、、、。?」
「なぜだ、、、、彼女までがなぜここに、、、、、」
その名は、
伝説のソルシエール 『ソレイユ・ルヴァン』。
続く




