10.5話 (後編) ーティターニアー
ティターニア・ル・ヴァン
1997年、一人の天才が生まれた。
その名は『西園寺響子』
ソルシエの素質を持った者は通常であれば、早くても4才か5才で着火や保温などごくごく簡単な小さい生活魔法が使えるようになってくる。
ところが響子は生後わずか1ヶ月で飛行魔法や治癒魔法、時には召喚魔法を無意識で使っていた。
母親の制御が効いたのは生後6ヶ月までだった。
母親の魔力を上回ってしまった響子は魔法協会に引き取られ、特別な環境で育てられた。
魔法協会の所有する育成機関にはシミュレーションにより架空のプレットを作り出し模擬戦闘を行える戦闘試験場がある。
彼女は2才にしてレベルAの戦闘試験に合格し、6才で海外にわたりわずか1年足らずでダブルSのソルシエになり帰って来た。
(このときの専属指導員は伝説のソルシエール今瀬ルイ。1年足らずでという早さははルイの実力も関係している。)
歴代最年少のダブルの誕生に魔法協会のセシール会長も黙ってはいなかった。
帰国したばかりの響子はまたすぐにアメリカ合衆国エリア51にある協会本部へと遠征する。
そこでセシール会長は6才の響子を相手に直々に面談の時間をとった。
内容は6才の女児に対してはあまりにも辛く、重く、危険を多く伴う案件だった。
その案件とは、「ソルシエールとなりプレットを再び根絶してほしい」という内容だった。
6才だった響子は話がよくわからないのと、資料の絵を見て何か楽しそうだと思ったらしく、二つ返事で承諾し判を押した。
そして7才で協会認定の正式ソルシエに、さらには協会が総力をあげて発足させた「Kyoko Saionji特別育成計画」を実行し、
プレットとの実戦も交え響子を鍛え上げた。
その後2年をかけ響子は9歳という若さで歴代最年少のソルシエールとなる。
同時に若きプリンセス「ティターニア・ルヴァン」の通り名も授けられた。
「ごめんなさいね、、あなたたちの為でもあるのよ。」
そう呟きながら凄まじいスピードでプレットを討伐していく。
その速さとは、21%だった侵略率を1年で残り11%にまで落とし込むほどだった。
9歳の少女がたった一人で侵略率をここまで減少させるのは前代未聞のことだった。
セシール会長はこの好機を逃すまいと、当時のダブルSの中でも世界トップ3の少女を収集した。
そして結成されたのがS4だ。
なぜこの短期間の間にこれだけのプロジェクトを遂行させるのか。それは、残りの11%からは今までのトントン拍子ではいかないからだ。
統計上残り10%を切ったプレットたちは桁外れのパワーと魔力を持っている。
もしくは何かの力が働いて10%を切るとそのパワーが与えられているのかもしれない。
(その特性から、プレットは一つ一つの個体を持ちながら全体で一つの意識を持つ集合自我生命体であることが確認されている。)
いずれにせよその事態に備えてもう1年で確実に、とセシール会長は最高のメンバーを4人揃えた。
ティターニアは10才、他メンバーは11才が一人、13才が二人。
S4は圧倒的な強さとそのルックスの華やかさからメディアなどで取り上げられることが多かった。
メディアと言っても主にテレビアニメである。4人が実際に行った戦闘は一つの記録及び資料として全篇撮影し記録してある。
アニメ制作サイドはその資料を受け取り、日常描写を付け加え世界規模でテレビアニメとして放送する。そしてその収益の数パーセントが協会に入るといった、大まかに言えばそういった仕組みだ。。
そうすることで新たなソルシエの育成を常にキープできるようにしてある。
危険を伴うが一流の彼女たちにとってはそれも大事な役割の一部だ。
ちなみに制作サイドは、降りてきた資料がノンフィクションであることは全く知らない。
『S4』の名は一気に世界中を駆け抜け、その活躍ぶりも世界の女性ならほとんどが知っているほどだった。
その中でもティターニアは最年少でありながらズバ抜けたな実力を持つリーダーで、強さと清楚さを兼ね備えた人気絶頂のソルシエだった。
しかし侵略率残り5%を切り、結成してからもうすこしで1年近くが経とうとしていた頃だった。
ー 協会本部内S4専用特別待機室 ー
「おいティータ!喉が渇いた、ジュース買ってこい!」
「バンジーさんごきげんよう。乾燥しますわね。私も喉が乾いてしまいましたわ。」
「ごきげんよう、じゃねーよ!ジュースを買ってこいって言ってんだ殺すぞクソガキ!」
ティターニアとバンシーは出会った時からいつもこの調子だ。
実力や実績はティターニアが圧倒的に上だが、年も一つ上で性格のきついバンシーと大人しい響子は
対局すぎて会話すらかみ合わない。
<スィーッッ>、
部屋の自動ドアが静かに開く。
「あ、またティータをイジメてるのねバンシー」
入ってきたのは最年長メンバーのシルフ。
温厚な性格で正義感が強いS4のサブリーダーだ。
続いて入ってきたのは双子の妹エルフ。
温厚な姉とは対局でかなり荒々しい性格で、、と言いたいところだが
二人の性格はとても似ている。、特段なにか違うところがあるとすれば、エルフは少しおっちょこちょいで天然なところがある。
しかし戦闘時においては二人とも人が変わったようにかなり積極的に攻撃を仕掛けていくタイプだ。
そう、S4は攻撃魔法のスペシャリストを集めたチーム。
中でも攻撃に長けたバンシーは、自身の肉体を細胞レベルまで縮小化してプレット体内へ転送するという特殊な魔法『インサイダー』を持っている。つまりはプレット自体を乗っ取り、完全無防備な内側から破壊するという荒技を使用することができる。が、全てのプレットに使用可能なわけではない。
もっとも万能タイプの響子は、その時によって防御や回復魔法を使い、場合によっては守備に回ることもある。
4人は総合して能力が高いが、やはり響子によってチームのバランスは保たれている。
そんなテ響子を他の3人は尊敬している。
バンシーも口調やあたりこそキツイが、響子の実力は心から認めており、戦闘中にもめることはまず無い。
その代わりに日常生活では常に上からの姿勢を貫いている。
「イジメはだめよ、バンシーちゃん」
「なんだよエルフまで!いちいちうるっせーなおまえらは!
なんなんだよおまえらはなんかもうお嬢様って感じでさぁ、うっぜーッ!」
<ブーーー!ブーーーー!>
プレット警報がなる。
「ちっ!このタイミングかよだっりぃーなぁ!!」
協会本部に設置されているS4特別委員会ではプレットの発生を宇宙規模で監視している。
この世界のいつ、どこで、どれぐらいの大きさ、強さのプレットが現れたのかを計測するシステムが完備され、これは地球上で協会本部にしか無い。
さらにエリア51内部の様々な情報は決して外に漏れることなく、それもまた宇宙レベルで守られている。
警報が鳴り出すとすぐにバンシーは移動魔法の扉を出現させる。
がその前に必ず4人で円を組み、今回の戦闘にて死人、怪我人が出ないよう願いの呪文を読み上げ、
響子を先頭に入っていくのが通例だ。
「4人とも!お待ちなさい!」
「は!?あんだよババァ!!もう行くっつうの!!」
引き止めたのは協会本部統括のミエル・ルヴァンだ。
育成プログラムの責任者で、いつも4人を気遣いそして厳しくここまで育て上げてきた。
そんな彼女が今日は少し様子が違う。いったいどうしたのだろう。
「今回のプレットは今までとは違うわ。出現場所も4人では初めての『日本国』です。大きさや戦闘力も並み外れています。
くれぐれも注意を!」
「ばっかじゃねーの!あたしら無敗のS4に向かって何言っちゃってんのかねーー!しかも日本なんてあんな小さな島国のプレットなんてたかが知れてるっつーの!
これだから年寄りは!テンション下がるから行こ行こー」
「あ!バンシーちゃん!!」
そう言うとバンシーはそそくさと扉の中へ。続いて響子も入っていく。
シルフ、エルフもドアに入ろうとするが、シルフはミエルのことが気になったのか振り返り、
年上の私がいるから心配はいらないと言い残して扉の中へと消えていった。
一例をして見送るミエル。そして4人は音も無くゆっくりと消えていった。
程なくして現場に到着する4人。そこにはとんでもなく悍ましい光景が広がっていた。
「ぅわぁぁぁーーー!しねー!死ねーー!みんなシネーーー!!」
「刺された!刺されたぞ!!だれかーーーー!!!!」
そこでは20代半ばほどの男が3人、血だらけになりながらナイフを振り回していた。
歩行者天国の秋葉原。道の真ん中にはなぜかフロントガラスの割れたトラックが一台止まっている。
状況が飲み込めない中彼女たちはその男の首元にプレットの紋章を発見する。
しかし男は目の前にいる人たちを見境なく次々と刺し殺していく。
「これ以上は見てられないわ!すぐに結界を!」
急いで結界を張るバンシーだったが、すぐに響子がそれを止めた。
「バンシーちゃんまって!」
スパーンと音を立て解ける結界。
「は、は!?なんなんだよティータおまえ、、!」
「ぅえーーん、お母さーーーん!りおぉぉぉぉー!!どこーーーーー!ぅぇーーんッ!」
迷子なのだろうか大泣きをした少女が男の目の前に歩いてきてしまっていた。
男はその少女を見つけるやいなや走り出し、少女に向けてナイフを振りかざす。
だが響子も少女に気づいていた。一瞬で少女のそばに瞬間移動し抱きかかえ退避する。
男はそこにいるはずの少女が突然いなくなり不思議そうな顔をしていた。
もう数秒遅ければ少女は無残にも殺されていただろう。
「ぅ、ぅぅ、、、お姉ちゃん、だ、誰、、?なんで助けてくれたの、、?」
少女は自分が助けたことは幼いなりにも理解し、その顔を確認しようとあふれていた涙を一生懸命ぬぐっている。
ティターニアはその少女を怖がらせないようできる限りの笑顔で答えた。
「私はティターニア・ルヴァン。あなたが一人だったから助けたのよ」
少女の目は輝いていた。よほど衝撃的だったのであろう、涙が引き切ったあと再び瞳がうるうると輝いている。
「わー!ティターニアのお姉ちゃん!ほんとだ!テレビとおんなじだぁ!!」
「フフフ、あなたもお友達が一人だったらちゃんと手を差し伸べてあげるのですよ。」
響子は昔から人を笑顔にさせる天才だ。
生まれた時から響子の笑顔を見たものは優しい気持ちになれる。
もしかしたらこれもティターニアの魔法の特性なのかもしれない。
「おいティータ!なにやってんだいくぞ!そんなガキ助けなくてもウチらがプレット倒してこんな事件無かったことにすれば済むんだ!
時間の無駄だろ!」
バンシーは激怒していた。バンシーにはかなり戦闘好きな一面がある。
相手が強ければ強いほど燃えるタイプで、そんな性格が功を奏し若くして現在の地位まで登りつめた。
彼女は一刻も早く戦いたいのだ。
「ごめんなさいつい、、!行きましょう!」
結界の中に入る4人。
そこには頭が三つある赤ん坊のような小さなプレットがいた。サイズも小さく攻撃を仕掛けてくる様子もない。
それを見たバンシーは落胆の表情を見せた。
相手がもっと大きくて、強いと期待をしてたからだ。
他の3人も、顔を見合わせどうもおかしいという疑いの表情を浮かべている。
あんな通り魔事件を起こした諸悪の根源がそんな弱々しいわけがない。
第一、本部の計測システムには信じられない程の魔力を持っていると感知されていただけに尚更だ。
とはいえ何が起こるかわからないためこちらから攻撃もできずしばらく様子を伺おうとしていたところだったが、
バンシーは何もしてこないプレットに耐え切れず小馬鹿にした口調でプレットに話しかけた。
「おい赤ん坊!舐めてんのか!さっさとかかってこい!」
バンシーの挑発に全く反応を示さないプレット。
すかさず挑発を続ける。
「おい!このあたしがおまえみたいな世の中のゴミクズに喋りかけてやってんだ!
わかったらさっさと、、、」
<ズキュッッッ!!!!!!!ギュルルッッッッッッ、、、、!!!!!>
聞いたことのない物音がした。
あたりを見回すが何も落ちてきたり現れたりもしていないようだ。
しかしその時起こっていることに最初に気がついたのはシルフ。
「エ、、、、エルフ、、、、、!?」
「、、、、!?」
そこにはプレットのナイフ型の触手に腹を一突きされ背中まで貫通しているエルフがいた。
ぽたりぽたりと血がしたたり落ちている。その直後触手を抜かれ夥しい量の血があふれ出した。
急いで回復魔法をかけるティターニア。そして瞬時に戦闘態勢に入るシルフとバンシー。
先ほどまで赤ん坊は3人だったが1人だけ大人に変わっている。
そしてシルフは自分を含めた4人に防御魔法をかけたバリアを張る。
しかしその直後に、先ほどと同じ触手がバリアを貫きシルフの体を貫通させた。
「な、、!なんなんだあの速さ、、、全く見えなかったぞ、、!!それにシルフの防御魔法をあんなに簡単に、、、。おまけにこいつ、インサイダーが通用しないようだ。
こいつ、、結構やべぇな。。。」
「シルフさんッ!!」
ティターニアは急いでシルフを戦線の後部に避難させエルフとシルフ二人を回復させている。
傷がとても深くかなりの時間を要することはティターニアもバンシーもわかっていた。
無敗のS4がわずか数十秒で窮地に追い込まれてしまっていた。
そしてバンシーは確信する。この一戦は勝つことができないと。
ここでプレットを討伐できなければ現世では重大な事件として残ってしまう。だけれど「ここは退却すべきだ」と、そう指示を出そうと思った。
「ティータ!!」
「ダメです!」
ティターニアはバンシーが言おうとしていることが何かわかっていた。
撤退を選択することは決して間違ってはいない。しかしここで逃げれば多くの人々の命が奪われてしまう。
自分たちの安否か、それとも人々の命か。判断を迷うティターニアを尻目に、プレットの攻撃を交わして射程内に入ったバンシー。
左右の大人プレットを交わし真ん中の赤ん坊がこの時点の急所だと判断し首を切り落とした。
よし!とバンシーがニヤリと笑ったその時、
<バシーンッッッ!!ギュル、、ギュルルル、、、、>
バンシーの体を触手が貫通した。
「バンシーちゃんッッッ!!」
しかし貫かれた体はすぐにサッと消えた。
「ふッッ、ばーか、そっちはダミーだ!おりゃぁッッ!!」
ー ブシャーーーーッッッ! ー
真ん中の赤ん坊と左の大人を切り落とした。
バンシーの戦闘力は凄まじかった。攻撃力のみならばティターニアを上回ると言われているバンシーは、
幼少からストリートで数々の修羅場を踏んできている。
自分よりも強いものがいないと思っていたバンシーだったがティターニア・ルヴァン誕生の一報が耳に入り、より一層強くなっていったという。
S4加入でティターニアと行動するようになったがいつか彼女を越えようと陰ながら努力を重ねてきた。
「これでとどめだ!死ねぇぇぇぇぇぇッッッッッーーー!!」
ブシャーーーーーーー!!!
<グァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ、、、、、、>
「や、やったか、、、、」
<ゥァァァァァァァァァッッッッ、、、、ァ、、ァ、、ァ、リ、ガ、ト、、ウ。。。。>
ー???ー
とどめを刺され黒い球体となったプレットから新たに赤子が現れた。
そしてバンシーを無数の触手で総攻撃した。
攻撃のスピードが早すぎて誰の目にも止まらなかったが、一秒にも満たない早さでバンシーを瀕死にし地面に叩きつけた。
ピクリとも動かないバンシー。回復をかけながら全てを見ていた響子は継続的に3人を守りつつも
立ち上がり、臨戦態勢に入った。
「許さない、、、あなたを絶対に許さない!!!!」
響子が飛びかかろうとしたその時だった。
突然、
虹色のベールに包まれ身動きが取れなくなった。
振り返るとシルフとエルフもそのベールに包まれている。
バンシーの転送魔法だった。
「バンシーちゃん!一体何を!!?」
「い、いくらお前でも、、、、あ、、、ありゃ無理だティータ、、とんだバケモンだぜ、、、、
だ、だからさ、、こ、ここはこのバンシー・ル・ヴァンに、、、任せて、、く、くれねえか、、、なぁ、、?」
「何を言ってるの!!それだったら4人で戻ろう!?それで時期を伺ってまた来るの!!
そうしましょう!」
ティターニアは取り乱していた。バンシーがここまで追い詰められていること、そしてシルフもエルフも未だに意識が戻らない。
悪夢のような状況だ。これが夢なら覚めてほしい。そう思っていた。
プレットとの戦闘で命を落とす者は決して少なくない。
その現実は大抵そのソルシエの油断や驕りから起こってしまう。
響子はこの戦闘の中で自分だけ何もできていないことにただただ悔しさを感じていた。
しかし今はそんなことを言ってる場合ではない。
「ば、ばかやろう、、、、あたしたちがて、撤退したら、、あの通り魔事件はあのままだ、、、
な、なんとしても倒さきゃいけねーんだ、、、」
「ダメ!ダメだよバンシーちゃん!」
「それに、おまえさっき、、、ガキ助けたろ、、、お、おまえのあ、、あーゆーとこ、、す、好きなんだよ、、、、あたし、、。
、、、、 デリト、、、リウス、、、。」
バンシーは自らの左胸を強く押さえ、破壊魔法『デリトリウス』を唱えた。
心臓を犠牲にし攻撃力を最大値以上に高める魔法だ。
無論、使用後の命は保証されない。
「バンシーちゃん!!!その魔法は!!!」
3人の転送が徐々に始まっていく。
「いやぁぁぁぁ!バンシーーー!!!待ってーーーーーー!!!!!!」
あたりは大きな光に包まれた。
光が落ち着くとそこはまた先ほどの路上だった。
通りから一本入った細い路地に血だらけの男が1人、警察官数人に取り押さえられている。
事件が、無かったことになっていない。
ということはすなわち、
ープレットは倒せていないー
「そ、そんな、、、、、、わたしは、、、何もできなかった。。。。。。
わたしは、、、、バンシーちゃんを見殺しにしてしまったんだ、、、、」
<何言ってんだよバーカ!>
「え!?バンシーちゃん!?」
ティターニアは遠くのほうから声聞こえる声に全力で耳を澄ました。
<見殺しなんかじゃねぇよ。おまえがいなかったらみんなそろって御陀仏よ。まあ、、、一か八かでやってみたけど、、なんかダメだったみたいだな。まあなんつーかさ、おまえが忘れねえ限り、あたしはおまえの心の中で生き続けらるんだと思う。だから寂しがることはねえよ。それはエルフだって、シルフだって一緒だ。
あとは任せた。それじゃあな。クソガキティータ。>
「待ってぇ!置いてかないでバンシーちゃん!!!!!」
バンシーの声は聞こえなくなり再び現実に戻った。
あたりはパトカー、救急車、人の波で騒然としている。
響子は最後、まだ意識がある被害者に回復魔法をかけ、傷ついたシルフとエルフを連れて協会の日本支部へと向かった。
そしてそこから本部へと転送されていった。
本部へ戻るとすぐにミエルが駆け寄ってきた。
「おかえりなさい!急いで救命室に二人を!
ティターニア、バンシーはどうしたのですか!?」
響子は首を横に振る。ミエルは顔を押さえ、膝から床へ崩れ落ちる。
響子の心境は複雑だった。
バンシーがなんと言おうと自分は何もできなかった。もっとこうしていればと振り返ることしかできない。
結局自分が撤退を拒んだことは報告できなかった。
生まれながらにして鬼才、協会に引き取られ育った響子にとってバンシーは初めてできた友達でありライバル。
今までのバンシーとの思い出が走馬灯のように彼女の頭の中を駆け巡った。
突然の死など受け止められるわけもなく、悪い夢だと自分に言い聞かせていた。
あまりの衝撃に記憶も曖昧になっていく中で、響子の心にはバンシーのあの言葉だけが深く刻まれていた。
「、、、バンシーちゃんは生きている。。わたしの心の中で生きている。。。そう言ってた。。。」
数日後、ティターニアは魔法協会から姿を消した。
協会の規定により届出無しの2年以上の不在、手続きの拒否及び不可によってティターニアのソルシエールの称号は剥奪され、協会から除名処分となった。
ー シャルム学園 ー
「おーい、つばさちゃん!何か考えごと??」
「お、おーなんだちあきか!、、まあ、、、、ちょっと昔の事をな!」
教室のバルコニーで黄昏ていたつばさを見つけちあきはしばらくそれを見ていたが、
全然気づいてくれないので我慢できずに話しかけた。
ちあきはこんなボーっとしたつばさを見るのが初めてだ。
「昔な、ある人に命を救われた事があったんだ。その人がいなかったらきっと今の自分は無い。この世にいないかもしれないな。」
「へぇ〜、、そうなんだ、それって誰なの?」
「あ、ああそれはな、、、内緒だ!」
「えー!気になるよー!」
『こぉら貴様らぁぁぁっぁぁ!!バルコニーに出るなとあれだけ言ってんのがわかんねえのかクソガキども!殺されてぇのか、ぁあ!!?』
バルコニーに出るとなぜか狂気する西園寺。
近頃はただ怒りたいが為に無駄に規制してるんじゃないかと生徒内では話題になっている。
ちあきとつばさは急いで教室内へ入る。
しかし時すでに遅し。みっちりしかられてしまった。
つばさはそんな西園寺を見て微笑んだ。
「おいこらてめぇぇぇ何ニヤニヤしてやがる!舐めてんのか?
よーしおまえは今日居残りであたしがみっちりシゴいてやるから覚悟しとけクソガキがぁ!」
「はい!喜んでお受けいたします!!!」
ティターニア・ルヴァン
その名の通り、人々に光を授けるソルシエ。
心の中で生きるバンシー・ルヴァンと共に
これからもきっと光を絶やさずにいるのだろう。
続く。




